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TS転生した俺は魔法少女になれないらしい  作者: えとう えと
二章

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43/45

あんさー!


 いろいろあったけど一件落着?

 きっとそうだと願いながら俺たちは施設を出た。

 そう言いたいところだったが、ティナはなんだか別行動をするらしい。

 一緒に帰ればいいのにと思いつつ、少し疲れたのでそこまで強く引き留めなかった。


「まあ、いいや。迎えに行くから」


 気が済んで帰ってくるか分からないので、そう告げて帰って来た。

 外は随分と暗くなっていた。すぐに家に帰った俺は林間学校の疲れもあってか一瞬で寝てしまった。

 気付けば朝になっていた。


「ヒーコさん。見てください、これ!」

「あ、マスター、ホット一つ」

「少し待っててねぇ」


 相変わらず、人の少ないカフェにて珈琲を頼む。

 マスターの歳を考えるとこき使ってしまっているような感じがして、少し引っ掛かるが同時に優しさに触れた気がして心が浄化される。


「ヒーコさん、実は最近とあるものを発見しまして──」

「あ、二人とも」

「比五子ちゃん!」

「こんにちは!」


 特に示し合わせたわけではないが、カフェに死神の子の二人も入って来た。

 そこにティナがいない。

 迎えに行くと言ったものの、昨日は寝てしまった。彼女が家に帰ってないとは思えないが、大丈夫だろうか。

 まあ、それこそ時間なんて示し合わせてないのだから、そのうち来るかもしれんからメッセージだけ送って気長に待とう。


「ティナはどこにいるんだろう」

「……さあ。でも、気にする必要ないですよ。昨日比五子ちゃんの言葉に従わなかったのはティナの意思ですし」

「まあ、ね」


 ヒナリの言葉ももっともだ。

 責任感が強いのか恐らく責任者に会おうとしたのだろうが、それは彼女の意思だ。

 あの状態でことを荒げずに会うことが出来たのかは知らないが、ティナの意思を尊重すべきだろう。


 とそんなことを思っていたのだが、その日は送ったメッセージに既読がつくこともなく、ティナはカフェに来なかった。

 だから、なんとなく言ったのだ。


「ティナは、家に帰ってるのかな?」


 流石に帰って疲労で爆睡。そんなとこだろうと、あまり彼女からはイメージできない映像を頭に浮かべつつの話だった。

 だが、ヒナリとキイナは首を振った。


「……帰ってないと思います」


 二人そろってそう言った。

 そこで思い出したそう言えば死神の子の三人はお互いに家を知っている程度の仲だろう。

 となれば、俺が心配している間に疾うに彼女が帰っているかどうか様子を伺うことくらいできるというわけだ。


 しかし、家に帰っていないとなると、心配だな。ちゃんと探した方がいいだろう。






 ◆


 分からない。

 分からないのだ。


 魔法少女コフィンこと比果比五子。

 その存在が分からない。


 秘密混成組織の「蛇」と「虎」に取り押さえられる程度の実力しか持っていなかったのではないのか?

 何故、あの拘束を解いて脱出することが出来たのか。


 いやそもそも、彼女はインベーダーの呪縛をその手で解いたではないか。

 それでも、その実力を見て偶々そんな力を持っているだけだと思った。

 偶々、特効となりえる力を持っていた。だが、それでも力量は平凡であると。


 だが、そもそも、彼女は自身が本気を出さなくても良い舞台を作り上げていたのではないか?

 キイナとの戦闘は路地裏とは言え街中、彼女は本気を出せなかった。

 自身がインベーダーであると言うことは隠さなければならない。それを逆手に取ったのではないか。


 ヒナリが探しても見つからなかったキイナと偶然を思わせ接触した。

 それは偶然か?


 そもそも、此処までの一連の彼女の行動はティナの行動を予測しての物だったのではないのか?


 彼女は裏切ったティナを見ても尚驚くことはなかった。

 それどころか顔を合わせた瞬間から見抜いていたと言う。

 到底信じられない。


 だが、龍幻を退けられる力を持ちながら、敢えてとらわれあの場に現れた。

 秘密混成部隊のアジトを突き止めるために。

 何より、ティナの裏切りを決定的にするために。


 そして彼女は最後に「迎えに行くから」そう言った。


 きっともう一度目の前に彼女は現れるだろう。


「よ、昨日ぶり」


 ティナが佇む墓地。

 やはりそこに少女は現れた。


「どうしてここが?」

「会ったときに調べてたんだよ。ティナ含め三人の死神の子たちにゆかりある場所を。そして此処がその場所の一つだったわけ」


 調べていた。

 そんなことを言われても、納得は出来ない。

 そう簡単に跡をつけられるような真似はしていない。特にこの場所には、幼少以来歩いて来たことはなかった。


 死神の子の転移能力。

 普段使用するときは視界内に門を開けるが、理論上は視界外だろうと転移することは可能だ。

 それでも、生死を掛けた戦闘においてすら視界内に収めた場所への転移を行うのは、単純な魔力消費の問題と座標を一度間違えて物体に重なれば窒息してしまう可能性すらあるためである。そして、門を開くだけでも物体に重なるように門を生成することはあらざることのため揺れ戻しのようにして身体に負荷がかかるのだ。


 それでも、幾度となく足を運んだこの場所に、自身が死神の子であると言うだけで場所が割れてしまうのは防ぎたかった。

 それ故に危険を承知でこの場へは転移をしてきているのだ。

 それなのに……。


「調べる、なんてことは出来ないはずです」

「ここに俺が来たことが、証明になるはずだけど。まあ、いい。企業秘密ってことにしといて」


 これ以上は聞くなと暗に比五子はそう言った。


「貴方はどこまでも手の内を隠すのですね」

「こればっかはな」

 

 仕方ない事だと言いながら、ジャスチャーをする。


「そうですが。始めから答えて頂けるとは考えていませんので、それは良いです。……ところで、私がどうしてここにいるか、なんてことまで知っているのですか?」

「さあ、お墓参りかなってくらい」


「そうですか」と言って、どこまで本当かはティナには分からない。


「ここは、私の唯一の家族だった祖母のお墓です。早くに亡くなった母方の祖母ではあるのですが、母は養子らしく、当然私との血の繋がりはありません。それでも、母は私を産んですぐになくなってしまったので、私の唯一の、それでいて一番大切な家族でした」


 なぜ、それを言う気になったのか自分でもわからない。

 気付いたら口をついていた。


「祖母は、私が何かをするたびに大変喜んでくれました。私も、それがすごくうれしくて……。そんな祖母が、特に喜んでくれた出来事がありました。なんてことのない運動会の徒競走です。私の母校では、大体同じくらいの脚の速さの子が五人ずつ程一緒に走り、一位から五位と順位が付くのですが、私は当時から他の子たちと比べて背が高かったこともあって短距離でも速いグループに属していました。そして、そのグループには学年の女子の中で一番速いと言う女の子がいました。とても活発で優しい子で、私よりも背は低く平均的な身長でしたが、私は練習でも勝てたことはありませんでした」


 ティナは昔を思い返すように言葉を続ける。


「運動会当日、練習通り彼女と同じグループになった私は良くて二位だろう。そう思っていました。……ですが、結果は一位。ゴール直前彼女は転んだのです。立て直すも僅差で私が一位となりました。喜ぶ間もなく、一位を取った私への賞賛ではなく、二位へとアクシデントで落ちてしまった彼女へとクラスメイトの同情が集まりました。私が責められることはありませんでした。しかし、彼女を勇気づける「本来ならば」と言う言葉が私の心を締め付けました。最終的には、クラスメイトに促されて、私も本来なら彼女が一位であったと言わされました」


 それだけの話だ。

 小学生の少女への気遣いが、偶々、ティナを苦しめる形となった。誰も悪くはない。


「それでも、家に帰って報告すると祖母はいつも以上に大変喜んでくれました。偶然であったと言っても、それも実力の内であると。その言葉に救われました。それからも一位になると、大変喜んでくれました。しかし、そんな中私は、インベーダーへと堕ち、祖母が亡くなりました。交通事故でした。或る時、一番を取れずに、落ち込んだ私を励まそうとケーキを買いに行った矢先でした。……それから一位に、一番になることもだんだんできなくなってきて……。年が巡り、時間が立つほどにそれが顕著になりました。たった、それだけのことでした」


 本当にそれだけの、人に話すには恥ずかしい話だ。


「いつの間にか一番に執着していました。誰よりも優秀でありたいと、すでに、かつての祖母とのかかわり方が影響しているのかすらもわかりません。ただ、一番を追い求めました。追い求めた先が死神の子であって、そして、誰にも勝る純粋な力でした。しかし、死神の子の中でさえも私の知る二人との力関係は拮抗していて一番と言うには程遠かった。そんな時に貴方が現れました。貴方は、簡単に均衡の上へと立ちました。私が死神と言う枠の中で必死に手を尽くす横で貴方は一番になりました」





 ◆


 うんうんうんううん。

 そうだねそうだね。

 ごめん話長くてよくわからないや。


 昨日の施設破壊の件で思うところがあったのかと思って、琴浦に事前に調べさせていた情報を頼りにここに来たのに、知らぬ間に始まっていたのはティナの昔話。

 おばあちゃんに褒められたのが嬉しくて、一番に執着している。それでももがくうちに優秀でありたい気持ちなのか、その思い出が原因であるのかも曖昧になっていた。そこまでわかったけど、何の話?

 と言うか、流れ的に俺が悪いってこと?

 いや、まあ彼女らの関係に介入してしまったことはもちろん謝るけども。


「だからこそ、貴方を下すことで私は正真正銘の一番になる。そんな考えが浮かびました。インベーダー因子は私の思考を酷く歪ませたみたいです。酷く短絡的で、筋が通っているとは決して言えない考えです。これで、気持ちが晴れるかどうかすらわかりません。インベーダーの呪縛から解き放たれた私が今一度冷静になってしまえば、馬鹿馬鹿しいと、笑ってしまうかもしれません。でも、今更止まれないのです。ほんの十年と少しの短い人生の中の大半を無駄には出来ないのです。もう、止まれないのです」


 ああ。


「止めてほしかったのか」


 苦しそうな顔をする少女を見た。


 彼女は幼少のころインベーダーとして因子を埋め込まれたときから、思考をインベーダーの呪縛に縛られている。

 本来到るはずの結論にすら辿り着けずに、小さなほころびは年を取るごと積み重なり、本人もおかしいと自覚するほどまでに歪曲した。

 だがそれでも、自分が半生を捧げて来た行動に、理念に、そう簡単に間違っていると、馬鹿馬鹿しいと切り捨て、何事もなかったかのようにして生きていくことはできないのだろう。


 だから、不格好にでも、その思いを清算したい。

 だからこそ、俺と戦いたいのだろう。戦って止めてほしいのだろう。


 ──我が変わろうか?

 ──いや、俺がやる。


 カゲは俺の不利を察している。

 カタログスペックだけでは、逆立ちしても俺はティナには勝てない。


 だが、彼女が、思いを清算するにはこの方法しかない。


「いいよ。やろう」

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