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TS転生した俺は魔法少女になれないらしい  作者: えとう えと
二章

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林間学校!


 前世の学校でもイベントごとと言うのはいくつかあったが、今世の学校はゲーム世界と言う事もあってイベントはもっと多い。

 そんな今通っている学校では、定期テスト明けには林間学校があるらしい。

 前世では、泊まり込みのイベントは修学旅行くらいだったことを考えれば、林間学校と言う響きは少し新鮮に思えた。


「一緒の班になれてよかったね!」


 林間学校ではそれぞれ班行動をすることとなる。

 それ故に、クラスで浮いている俺は一人になるかに思われたが、やはり聖女天使魔法少女のもみじが俺を誘ってくれた。

 優しすぎる。


「あっ」

「どうしたの?」


 もみじのやさしさに浸っていると不意にあることを思い出す。

 もみじは心配するようにこちらを見たが、俺は首を振った。


「大したことじゃないよ」


 そう。大したことではない。

 死神の子である三人に林間学校のことを伝えていなかったと言うだけのこと。

 スマホは今手元にないから後で思い出したら連絡を入れておこう。





 ◆


「捨てられた。捨てられた。捨てられた。捨てられた。捨てられた」

「必要とされている。必要とされている。必要とされている。必要とされている」


 ズンと沈んだ空気をも纏ってヒナリとキイナは呪文を唱えていた。

 頭を抱える二人の対面に座ったティナは優雅にドリンクを飲む。だが、その顔には憂いが読み取れた。


「連絡を絶ち、姿を見せないとなると……」


 顎に指を充てて瞼を伏せるティナは呟き、それは他二人に最悪の想定をさせる。

 ガタガタと二人は震えだして、コロッと何かがテーブルの上に落ちた。


「何か落ちましたよ!」


 対照的に能天気な表情を浮かべる琴浦がつまみ上げたのはワイヤレスイヤホンだった。

 片方がキイナの耳に付いていることを考えるとキイナの持ち物だろう。

 「何を聞いてたんですか?」と重ねて言葉を吐いた琴浦はイヤホンを自分の耳につけた。


『キイナが必要だ。キイナが必要だ。キイナが必要だ。キイナが必要だ。キイナが必要だ。キイナが必要だ。キイナが──』


「お返ししますね!」


 何事もなかったかのようにイヤホンをキイナの耳に挿した。

 イヤホンからループ再生されていたのは録音して切り抜かれたであろう比果比五子の声だった。


「……ところで!このカフェの周りを囲んでいる皆さんは三人のお知り合いですか?」


 話を切り替えるように、琴浦が口を開いた時、やっと三人はうつむいた顔を上げる。

 何気なく彼女の呟いた言葉は、三人に今陥った状況を認識させる。

 気が付かなかった。いや、気付かれないように隠密をしていたのだろう。

 しかし、この気配は紛れもなく魔力を持つ者。魔法少女だろう。

 ヒナリとキイナは即座に席を立った。




 ◆


「人型インベーダーって言ってたけど、知性体とかと似たようなのってこと?」


 外から一見わかりづらい立地に存在するカフェを見下ろしながら一人の少女が言った。

 B級魔法少女鈴神(スズカミ)は呟いた。


「そうじゃないから人型ってんでしょ。言葉通り人の見た目してるんじゃないですか?」

「え?そうなの?」

「知りませんよ。あくまで予想です」


 鈴神の言葉にA級魔法少女紫流(シリュウ)が答える。

 敬語を使う紫流の方が幼く見え、年齢的には鈴神が上だと推測できる。


「どちらにしろ油断はすんなよ。今回の密命はプロフェット直々だ」


 そして三人目の少女は更に幼い……正確には小柄だった。

 機嫌の悪そうな目つきで他二人を指しながら言うのは、今回の命令についてだった。

 一般の要請とは全くべつの形式で与えられた命であり、それを受けたのがこのメンバーであるということは、それだけ今回の任務の重要度を表していた。


 秘密混成部隊「蛇」。

 秘密裏に選出された魔法少女によって作られた部隊だ。

 ランクはバラバラだが、実力は最高峰と言えた。

 魔法少女の実力は、討伐数の優劣を競うだけのランクに完全に現れるわけではない。加えて、上昇思考が必ずしも高いとは言えない年頃の少女たちから実力者を選出したのなら、ランクが揃わないこともおかしな話ではなかった。



(レイ)ちゃんがそう言ってもなぁ。プロフェットの命令ってよくわかりにくいし、嫌なんだよね。なんか結構酷いことするし」

「隊長と呼べ。それと、プロフェットに優しさなど求めるな。あれは人類のことなどみじんも考えてない」


 苛立ちを隠さずに魔法少女零は顔を歪めた。


「えーでも。ガーディアンは人類に力を貸してくれたんだよ?」

「自分たちの獲物であるインベーダーに手を出せなかったから力を与えて人類を働かせてんだよ。……まあ、いい。それより、来るぞ」


 零がそう言った瞬間、「蛇」の後ろを取るようにして二人の少女が現れた。

 ヒナリとキイナだ。

 どちらも魔法少女の風体を成してはない。認識阻害は発動しているが、主に使用するのはインベーダーの力であると知るものが見れば分かるだろう。


 両者はそのまま黒い魔力を収束した。

 ヒナリの狙いは鈴神、キイナの狙いは紫流だ。

 鈴神は手を翳すようにして魔法を発動して黒い魔力をかき消し、紫流は電流の尾を残して高速で移動し攻撃を避けた。


「本当に人だ!?」


 鈴神は距離を取った後大げさに驚いた。

 

「凄いかわいいね!インベーダーだけどご飯とか食べるの?」

「鈴神、話しかけるな。アホが見透かされて死ぬぞ」

「え?そう?」


 零の叱責を受けて首を傾げる。

 だが、その瞬間もヒナリとキイナは相手の隙を探っていた。


 魔法少女相手にはできれば、魔法は使いたくない。

 インベーダーの力だけでも対処は可能だが、目立つのは避けたい。火力で押し切るのは無理だろう。


「ねえ。貴方たちだれ?」

「めんどくさいから、ササッとやっちゃおうよ。こんなの相手にしてる暇ないし」


 実のところヒナリとキイナはこのうち二人を知っていた。

 魔法少女すべてを知っているわけではないが、危険だと判断した人物は調べてはいる。

 そのうちの一人が紫流だ。シンプルな魔法ながら、多くのインベーダを倒している。A級であることもあって多少の情報はあった。

 そして、鈴神だ。だが、こちらは顔を知る程度。同じB級であるキイナであるから存在を把握している程度だ。


(問題は、あの小さいのだよね)


 キイナよりも小さい目つきの悪い少女を見る。

 詳細どころか名前もわからない。

 だが、あの風貌を見れば、この中でリーダーの様な立ち位置であると推測できる。

 

「こちらも答える気はない。すぐに片づけてやるから安心しろ」


 零が、動く。

 地面を蹴り、そして接近するのと同時に魔法を発動する。

 魔法「空位」。

 指先に雨粒の様な水滴が一滴現れ滴る。

 それが、地面についた瞬間、彼女の頭には一定距離の魔力を有する存在の情報が流れ込む。

 位置関係、力の強弱、流れの早さ。すべてを一瞬で把握する。


 対して、ヒナリは再度魔力を練る。

 インベーダー特有の黒い魔力はそれだけで強力な武器となる。

 そして、分かりやすく手に収束させたのは囮として使い、零が懐に入った所で蹴りを繰り出す。

 攻撃が当たる瞬間だけ、魔力を表面化させることで攻撃力を得る。


「猿知恵が」

「っ!?」


 注意を逸らしての足蹴り。だが、零はそれを見抜いていた。

 周囲一帯の魔力を観測する彼女の魔法をもってすれば、呼び動作とも言える魔力の流れから今の攻撃を読み取れた。

 そして、彼女の攻撃を掻い潜るように紫流は移動する。

 彼女の魔法は「導歌(シルベウタ)」。

 能力は、あらかじめ設定した進路に従い電流のごとく高速で移動する。

 零の攻撃と入れ替わるように、攻撃を繰り出す。

 刃物のように変形したステッキでの斬撃は零の攻撃を受けてひるんだヒナリに向かう。

 だが、その瞬間、ヒナリの姿が消える。


「鈴神!」


 零が同時に叫んだことで、鈴神は自身の背後にヒナリが立ったことに気付く。

 転移。死神の子の三人が共通して持つ能力の一つだ。

 しかし、彼女らは初手で転移によって戦線へと入っていた。それを見ていたからこその瞬時の反応だった。


 だが、背後からヒナリ、そして正面からキイナが攻撃を仕掛けていた。

 挟まれるように攻撃を受ける鈴神。

 だが、反応は出来ていた。故に彼女は背丈ほどもあるステッキを地面に打ち付けた。

 錫杖かのようにして取り付けられた鈴が音を鳴らす。

 それが、能力発動の合図だったのだろう。衝撃波の様な何かが大気を揺らした。


 ヒナリとキイナが肌でそれを感じると同時に、練った魔力が乱されたことに気付く。

 波が通り過ぎる一瞬。だが、その一瞬は大きな隙を生む。

 そこに長杖を棒術のようにして鈴神が扱い、回転するように両者を振り払った。


 これにより、両者は距離を取り、にらみ合う。

 しかし、時間を空けることもなく両者は動く。だが、一歩目を地面につける瞬間にキイナは転移を発動する。

 死神の子の転移は異界を経由してされる荒業だ。

 通常のインベーダーが使用する異界の穴ではなく、自前でゲートを二点に作りそこを直結させて転移する。

 故に、キイナの足は沈むように落ち、同時に背後を取るように転移する。


「種は分かっている」


 やっていることは先ほどと変わらない。

 そして、零がそう言うようにすでに能力の脆弱性はすでに分かっていた。

 ここまでの戦闘で、彼女たちは視線の先へと転移していた。

 故に視線を読めば、転移先が分かる。

 そこへ高速で紫流が移動し、踏み込んだヒナリを零が追う。それを支援するように鈴神が杖を打ち付ける。

 その波が迫った時、ヒナリは後方へ跳んで建物の屋上から後ろ向きに飛び降りた。


(鈴神の能力がバレたか)


 鈴神の力は衝撃波のように魔力を乱す波動を全方位へ飛ばす。

 そして、その能力の対象は彼女が杖を打ち付けた地面の延長線上に足を付けている者。

 故に、建物から飛び降りるように宙へ跳べば能力の対象にはならない。


 だが、ヒナリが離脱を測るわけに後方へ跳んだわけではないことは容易に察することが出来た。

 予想通り彼女の後方には穴が開き、転移の兆候が見える。

 だが、転移先は分かっている。

 彼女の視線の先。


(それにその位置からでは)


 自身が脚をつける接地面は視界に収めることはできない。

 故に、彼女が転移する先はわずかに地面よりも上。

 必然的に、浮いた足は着地体勢へと入ることになる。

 そしてそれは初手の転移で背後を取った際に足を突いた状態ではなかったことから確定と言ってもいい。


(だが、着地の瞬間は動くことはできない)


 それはつまり鈴神の能力の必中を指していた。

 打ち付けられた杖は魔力を乱す。

 そこをすかさず、零は刈り取りに動く。


 だが、ここで真横から魔力の流れを感じてガードをする。

 ヒナリを狙った攻撃を妨害され、横に吹っ飛ぶ。

 崩された体勢を立て直して睨む先にはヒナリでもキイナでもない第三者。


「「おそい!」」

「二人が、頭に血が上って飛び出してしまっただけですよ」


 ヒナリとキイナが声を合わせた先には、ティナが立っていた。


「……ねぇ。来たってことは本気出して良いの?」

「まあ、いいですよ。常識の範囲で」


 キイナはティナの言葉に言い返しそうになるのを我慢した様子を見せて、そう問うた。


「本気だと?」


 その言葉に、零が反応する。

 先ほどまでが全力とも思ってないが、手を抜かれているとも考えていなかった。

 だが、彼女らが本気とやらを出そうと出すまいと、今の状況に考えを回していた。

 単純な話、数的有利を無くした今の状況では、こちらに損失が出る可能性が高まった。

 元々三個体居たのは分かっていたが、こちらの消耗を考えると続行は難しい。


 再度、魔法を発動し情報得る。

 魔法「零」によって得られる情報はその一瞬だけの物。

 リアルタイムで動く物には再度の発動をすることなくては情報を得られない。

 故に、戦闘の重要局面では連続使用してフリップブックのように連続した動きを見るしかない。

 だが、一度に必要とする魔力が大きいため連発は難しい。


 だが、あと二度はできる。

 そして、「空位」の発動により観測したのは……。


「お前ら、撤退するぞ」


 そう一言いうだけが精いっぱいだった。

 すでに彼女が情報として得ていた魔力の渦は膨れ上がり、指向性を持って放たれていた。

 これを直撃しては只では済まない。

 それを予期したからこその発言だった。


 そして、撤退を指示したからこそ打ち出された膨大な魔力の直撃をせずに離脱することが出来た。


「避けられてんじゃん」

「うっさい!」


 ヒナリの言葉にキイナは吠えた。

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