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TS転生した俺は魔法少女になれないらしい  作者: えとう えと
一章

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22/26

比果さん!


 カゲ──ビーストデリシャスデストロイモード。

 相手は死ぬ。

 こいつで倒せない敵はない。

 そう断言できるわけじゃないが、過言ではないだろうと言うのはカゲがラスボスであることを考えれば予想が出来ていた。


 だが、それ以上に必要となるエネルギーを溜めるには労力がかかり、今実現可能なのはほんの数秒にも満たないだけの時間だった。

 でも、それだけで十分だと言うのは結果として、S級ともあろう魔法少女海月を追い払うことに成功したことが示していた。


 もし魔法少女海月が一か八かで挑んできたら普通に死ねたが、魔法少女とインベーダーの戦いではないのだからと考えていた。

 命の危機を感じて、態々身内同士で立ち向かう事もないだろう。


 まあ、とにもかくにもそんなこんなで、事態は収束して、俺たちは委員会支部を出た。

 応接室に居た岡園と言う人は、車を出してくれると言っていたが、断った。そう距離があるわけでもないしな。

 そして、そんな俺を習ってかもみじも歩くと言った。


 ──エネルギー結構減ったな。

 ──数秒の顕現だけで、七割を使い果たした。完全顕現には程遠いな。


 人化も大概エネルギーを食うが、本来の姿──「真化」とでも言おうか、こちらはけた違いだ。

 脅しにしか使えない分、使い時は人間である魔法少女相手くらいに限られるが、また変なのに絡まれたときに使おう。もちろん無いに越したことはないが。

 まあ、それくらいしか使い道が今のところはない。


「比果さん」

 

 不意の声に俺は振り向く。

 トボトボと歩いていたもみじが立ち止まっていた。


「なに?」

「……あの」


 なんだか言いにくそうに彼女は下を見た。

 そんな様子に「少し座ろうか」と近くのベンチに促した。

 近くで飲み物を買って来て、もみじに渡す。もみじに水を渡して、俺は珈琲を飲む。もみじは前に珈琲は飲めないと言っていた気がする。


 コクコクと口につけた水を飲んだ彼女の顔は暗い。

 何があったか知らんが、ここ数日引きこもっていたところを連れ出されたのだからこれで明るい方が変な話だろう。


「助けてくれてありがとう」


 何か切り出すかに思えた彼女の言葉は、感謝の言葉だった。

 とは言え、あの状況で助けたのは反射に近いところもあった。そこまで改まった感謝はいらない。大体、ことが起こってすぐにも彼女は頭を下げて来たし。


「それと……ごめんなさい」


 「別にいいよ」と続けようとした俺が何かを発する前に、彼女の口を突いて出たのは謝罪の言葉だった。

 何に対しての謝罪なのか一瞬分からず、返答に遅れる。


「あの日、私は……貴方を傷つけた」


 懺悔するようなその声音が、滿汐の情景を思い出させる。

 琴浦が名付けた精霊魔眼が、彼女の身体を動かし、そして俺は重傷を負った。


「ずっと、力になりたいと思ってた。それなのに私は……」


 強く握りこんだ手は、僅かに震えていた。

 その言葉を聞いて、彼女は自分が他人を傷つけてしまったことを酷く後悔しているのだと俺は気付いた。

 だからこそ、彼女は心を病んでここ数日引きこもっていた。

 しかし、やはり真面目過ぎる。

 事実として精霊魔眼によって彼女の意思とは関係ないと言っても人を傷つけたと言うことは分かる。

 しかし、俺は死んだわけじゃない。


「……ごめんなさい」


 だが、彼女の口は謝罪をやめない。

 伏せたその顔の表情は見えないが、振るえた声と、彼女の握った拳と服にシミを作った。

 


 やはり主人公。心優しい。


「もし、滿汐の時のことを言っているなら、気にしなくていいよ」


 いくら彼女が気にしてようが、俺は相対して気にしていない。

 そもそも、俺が一番困るのは彼女が学校に来ないことだ。

 あと、推定主人公なのだから、ふさぎ込んでしまえば世界が終わりそうと言うのもある。

 精霊魔眼とか言う、暴走覚醒状態を持っていることを考えればなおのこと可能性は高まったわけだし。


「……でも」

「もみじさんは、自分のことを思いつめて忘れているだろうけど、あの時、私はもみじさんに助けられた」

「え?」


 僅かに見開いた目で、もみじはこちらを見た。

 涙で晴らした顔は驚きの表情を作っている。

 

「あの時のインベーダーは、強かった。結果としてS級ではなく、A級判定だったけど、それは事実だ。だからこそ、私とA級の雪砂さんがあの場に居て、もみじさんへの攻撃を許してしまった」


 「だから、謝るのは私の方」そう言って、俺はもみじに向き直った。


「ごめんなさい」

「……え?いや、そんなこと……。比果さんが来てくれたから、私は助かったんだよ」


 もみじは、こちらに気を負わせないようにとする気遣いを見せる。

 優しい子だ。


「なら、それは私も同じだよ。あの時、もみじさんは、事故とは言え俺に攻撃を当ててしまったかもしれないけど、あのままじゃ、全滅するしかなかった私と雪砂さんを助けてくれたのは、他ならぬもみじさんだよ」


 そう、そもそもの話だ。

 彼女の精霊魔眼は俺を傷つけたが、彼女の魔眼が暴走していなければクワガタインベーダーも倒せなかった。

 そうなれば、結局俺は怪我では済まなかっただろう。

 彼女は暴走によって傷つけたモノだけを見てしまっているが、救った者も確かにあるのだ。


「それでも、私は……」

「そう思うんだったら、力を付ければいい。次だよ、次。もう一度同じようなことがあった時に、同じ結果にならないようにすればいい」


 簡単な話だ。

 大体、俺は今回の暴走の被害を気にしていない。

 なら、そこで今回の事は終わりだ。それでも、本人の気が済まないなら……。

 

「もみじさんは、私が気にしないと言ってもきっと納得いかないだろうから、自分を責めてしまうだろうけど、戒めるんだったら過去じゃない。未来に目を向けるべきだよ」


 彼女が自分を責めるだけでは、何もなすことはない。

 なら、せめて、と言う話だ。

 月並みな話だが、立ち止まって自分を傷つけるよりはいいだろう。

 自戒したって、進み続けたほうがマシだ。


「今回の、暴走は多分、危機的状況に陥った故のモノ。なら、制御できなくても、その状況に至らないような力を手にすればいい」


 それだけの話だ。

 彼女は黙りこくる。下を見て何かを考えるような素振りだ。

 引きこもるほどに自分を責めていたのだ。すぐに答えがでる者でもないだろうと、俺はその場を離れることにした。






 ◆


 翌日。もみじは来るだろうかと考えながら俺は席に着いた。

 彼女は、いつも朝早く来る。

 と言うか、俺が大して早い時間に登校しないと言う方が正確だ。

 だから、きっと俺が席についても、彼女の姿が教室にないと言うことは今日も休みと言うことだろう。


 昨日は無責任に前を向くように促してしまったが、失敗だっただろうか。

 正直、ふさぎ込む彼女に掛ける適切な言葉を俺は知らない。

 

「……はぁ」


 もう少し考えて、言葉を紡げばよかった。そう今更後悔する。

 俺のため息に前の席の子がビクッと反応する。ごめんて。


 いつの間にか、HRの時間が迫っていた担任教師が入室してあたりを見渡す。


「綾谷……は今日も休みか」


 空いた席を見てそう言う。

 連日休んでいるのだ、クラスの空気も慣れたものだ。

 そう思っていたのだが……。


「す、すみません!遅れました」


 勢いよく開かれた教室のドアの向こうに一人の影があった。

 もみじだ。


 教師が体調を気に掛ける言葉をかけるのに対して、軽く言葉を返す彼女は、一瞬こちらを見て会釈をした。

 それに、会釈を返し忘れて、HRが終わった後に彼女は俺を屋上へ誘った。


「私ね、二人、憧れの人がいるの」


 唐突に彼女は言った。

 鉄柵に肘を乗せた彼女は遠くを見ていた。


「小さいころに、インベーダーに襲われそうになって、その時、一人の魔法少女が助けてくれて……。その時から、なんとなく魔法少女に憧れがあって、“あの人”みたいになりたいっておもったの。うっすらだけどね」


 「それが一人目」と彼女は言う。

 態々意識をしたことはなかったのだろう。それでも、助けてくれた人に憧れていた。

 幼稚園の時の将来の夢が、とうもろこしだった俺とは雲泥の差だ。


「だから、魔法少女になれた時は嬉しかった。私も、“あの人”のように誰かを救えるんだって、思った。……でも、実際は違った」


 彼女の瞳は、何か光を見ていた目から、暗い現実を見るような目に変わる。


「動けなかったんだ。脚が震えて、昔のことを思い出しちゃって。……何度も」


 そこで、彼女の言葉は詰まる。

 何と続くのだろうか。そう考えた俺に彼女は、何とか口を開いた。

 

「それでも、戦えるようになって。やっと、一人だけだけど、女の子を助けられた」


 滿汐の際に、彼女が命を呈して守った少女を思い出す。

 確実に彼女が救った命だ。それは、きっと彼女の憧れの人が、彼女にしてくれたのと同じこと。


「……でも、やっぱりたくさん傷つけちゃった。あの公園、時々行くんだけどね。楽しそうに走り回る子供たちを見ると元気がもらえるの。遊具はないけど、自然はいっぱいあって、時々、親御さんと話したりするの。……だけど、あの日、意識が戻った時には滅茶苦茶になってた。それで、……ああ、私がやったんだって」


 弱弱しく開いた両手を彼女は見た。

 震えている。


「餅兎は中々答えてくれなかったけど、なんてことをしてしまったんだろうって。……比果さんのことも」


 一層、言いにくそうに彼女は言った。


「でも、昨日比果さんが言ってくれた言葉をずっと考えていたの。もっと力を付ければいい、過去じゃなくて未来だって。確かに、そうだなって、思った。私が過去を悔いて自分を責めるだけじゃ、それは自己満足にしかならないし、自分が傷つけてしまった人のことを考えるのなら、次のことを考えるべきだって」


 やっと彼女はこちらに顔を向けた。

 先ほどより幾分か顔色がマシに見える。


「でも」


 やっとこちらを見た彼女の顔はまた前を向いた。


「強くなろうって、私頑張ってたんだよ。皆に追いつこうって、せめて肩を並べて歩けるようにって」


 下を向く。


「でも、そんなにすぐに強くはなれない」


 そうだ。彼女はずっと自身の無力を嘆いていた。

 ショッピングモールの時はトラウマから来るものだっただろうが、それ以降の彼女が怠惰に過ごしていたわけがない。

 無論全力で、魔法少女活動を行っていたのだろう。

 だからこそ、もっと頑張ればいいと言われて、頷くことはできないのだろう。

 彼女は、すでに途方もない努力をしているのだから。


「だけどやっぱり、諦めることはできないや。強くなるのは簡単なことじゃないけど、それでも、せめて、前に進むことだけはやめないでいようと思う」


 「って、始めからそう言ってくれてたんだよね」と彼女は頭を掻いた。

 無論、俺の言いたいことはそうだ。

 強くなる云々は副次的な話ではある。それでも、俺の言葉は随分と足りなく伝わりにくかっただろうし、何より、理解していることと納得することは違う。

 彼女が、そうだと思える事こそ大切なのだ。


「応援してる」

「うん!ありがとう」


 頑張れと言おうとして、必死に貧困なボキャブラリから引っ張り出した言葉を彼女は笑顔で受け止めた。

 そして、話しは終わったのだろう。

 スッキリしたような顔で、彼女は鉄柵から身体を離した。


 そして、階段室へ歩みを進める彼女に不意に問うた。


「そう言えば、憧れの人、二人いるって。二人目は?」


 未だ鉄柵に背中を預ける俺の数歩先を行く彼女は、振り返った。

 俺とは違い、指定のスカートが揺れる。


「比果さん!」


 可愛らしく笑う彼女はそう言った。

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