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TS転生した俺は魔法少女になれないらしい  作者: えとう えと
一章

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17/26

クワガタ!


 魔法少女コフィン。

 その存在は未だ多くのことがベールに包まれている。

 彼女の素性、彼女の素顔、なにより彼女の魔法少女としての能力。

 いくつかの能力を持っているが、その多様さは「魔法」によるものであると思えないほどだ。

 

 だが、それでも、彼女の実力が本物であることは、今目の前で起きている光景を見れば白亜にもわかった。

 魔法少女雪砂として様々な魔法少女を見て来た雪砂だが、その中でもコフィンはトップクラスと言えた。


 現在、彼女の知り合いであると言う魔法少女が、上位インベーダーとの接触を果たしているという情報から、目的地である公園へと急行していた。

 相手がS級に認定されているインベーダーであれば、いくらコフィンでも危険だ。それ故に、雪砂もついてきていた。


(助けてもらった礼も兼ねてついてきましたが、手を貸す暇がないですわね)


 しかし、内心雪砂がそう考えるように、道中現れるインベーダーのことごとくを一瞬にしてコフィンが排除してしまうため、こちらが手を出すまでもなかった。

 A級にも満たない有象無象であるが、それでもB級相当ではあるだろう。故に、道を塞ぐように次々と迫る脅威に対しての対応は目を見張る。


 コフィンはステッキを持たず、手にあるのは黒い一振りの刀だ。

 刀身に反射する光は赤みを帯びていて、不思議な見た目だが、あれが彼女のステッキである可能性を考え首を振った。

 魔法少女におけるステッキとは名ばかりで、その形状は多種に及ぶ。しかし、雪砂が知る限りあれは侍のような風貌の知性体との戦闘後に彼女が生成したものだ。

 それに、彼女が扱うのは刀だけでない。


 今も手には、とてもその身には似合わないほど大きな斧のような武器を携えていた。


 コフィンは代わる代わる武器を生成して、変えていく。

 素早いインベーダーには刀を振るい、密集して数の多いインベーダーには大剣や大斧を生成して蹴散らし潰す。

 時には、それらとは違う黒色ではない武器を遠隔で飛ばして、インベーダーの身体を縫い留めた。

 コフィンは、武器の色によって攻撃と足止めを使い分けているように見えた。

 加えて攻撃力を有する黒い武器は肌から離さず使用している。

 続けざまに、一直線に飛んでいく黒い槍は一見、体から離れているように見えるが、その実彼女の身体から伸びるようにしてケーブルのようなひも状の魔力が伸びていた。


 彼女の魔法の一端を考察すれば、黒い武器での攻撃はダメージを与えるだけの能力を有していて、白く、光の集まったような見た目の武器は遠距離での生成と運用が可能だがインベーダーに対するダメージはないのだろう。

 制限が付きまとい、知性体であれば相手にも色で判断されうる力だ。

 だが、それ以上に強力な力と言えた。


 加えて、分からないのが、半径五十メートル圏内にも満たない転移能力だ。

 基本的に後方への一時的対処に使われるそれを見れば、前方に移動できない制限のある能力だ。

 だが、能力の詳細以上に、彼女の魔法に対する疑問は生まれる。


 魔法は一人一つだ。

 内包する能力に種類があっても、武器の生成と転移能力には些か一つの魔法に踏襲するには統一性がないと見える。

 それだけでなく、噂に聞くインベーダーの感知能力のことも考えれば疑問は尽きない。


 だが、そんなことを考える雪砂とは裏腹に大した時間をかけずに、目的地へと到着した。





 ◆


 公園が見えてきたとき、すでにもみじは疲弊しているようだった。

 変身が解けていて、恐らく次でトドメを刺されるって感じだったのだろう。

 本当にギリギリだった。


 結構大規模な、インベーダーの発生だから原作イベントな気はするが、まあ、もし彼女が死んでしまえばとても良い気はしない。

 それに俺は原作もゲームの方も知識がないのだから、考えるだけ無駄と言う結論を出していた。


 ただ、ギリギリだったのはタイミングだけではなかった。


「ぅくっ!」


 刀で受け止めたインベーダーの攻撃は重く、押し込まれそうなほどだ。

 何とか、刀で押し返して息を整えるが腕が超痛かった。


「おい、邪魔すんなよ」


 腕いてぇと刀を突き立ててブンブンと振っていれば機嫌の悪そうな声が向けられた。

 なんか黒光りした奴だ。Gの要素を取り込んだインベーダーだろうか?キモイ。

 でも、Gって角生えてないよな?

 頭から生えるブレードアンテナみたいな角を見ながらそんなことを思うも、生憎虫は好きじゃないから詳しくない。


 そんなことより、気になるのはもみじだ。


「も、いや、魔法少女朝桜。大丈夫?」


 声をかけようとして、危うく本名を出してしまいそうになって言い換える。

 フルネームで名前を言うタイプの女キャラみたくなったが、まあいいか。


「う、うん。ありがとう。コフィンさん」


 彼方も、比果比五子の名前を出さずにお礼を言った。

 勝手に配信される機能と言うのはこういう時だるいな。でも、少し気になるのは、それらしいドローンが飛んでないことだが。

 確か、カゲは配信が自動的に始まっていると言っていたはずだ。だからこそ、もみじを案じて俺は掛けつけた。

 まあ、いいか。


「……また、助けられちゃったね」


 考え事をしていれば、そう声をかけられる。

 もみじの声は暗かった。


「また、私……あの時と同じ」


 あの時、と言うとショッピングモールの時の事だろう。

 確か、魔法少女でありながら守るべき女性に庇われてしまったことに負い目を感じていたはずだ。

 ただ、今回は同じとは言わないだろう。


「同じじゃないよ。ちゃんと守り切ったでしょ」


 「ん」と後ろに寝かされた少女を顎で指した。

 一人の少女を守り切った。それは紛れもない事実だろう。

 あれ?え?泣いた?そんなに?

 流石推定主人公だ。真面目だ。

 ただ、Gと言うのは二足歩行になっても所かまわず視界に映り不快にさせて来るらしい。


「おい。無視すんなよ」


 急接近したインベーダーは腕での攻撃を繰り出す。


「させません!」


 だが、そこに割り込むようにして飛び込んだのは魔法少女雪砂だった。

 くそデカピザカッターをタイヤかのように地面に充てつけて加速し、飛び込んでそれを振るった。


「手負いのくせに出しゃばんなや」

「生憎と、それは出来ませんね。それに窮地に居たのが知り合いだったようなので」

「雪砂さん……」


 二人は知り合いなのだろうか。

 ただ、そんなことを考えるほどの時間もない。雪砂は手負いだ。加えて、このインベーダーはS級って奴だろう。余裕はない。

 押し込まれる雪砂に変わるように俺は飛び込んだ。

 刀を振って攻撃を成す。


 同時に、地面から生やすように出力で武器を出す。

 黒くない武器、エネルギーを集めて作っただけの白武器とでも言おうか、槍を生やした。

 刀を隠れ蓑にした本命の攻撃に見えるだろうが、実際は決定打にはならない白武器、だが、そんなことはインベーダーには予測しようがない。十分判断を鈍らせる一手になるだろう。

 どちらかに意識を割けば、もう片方がおろそかになる。


 そう踏んだのだが。


「くだんねぇ」


 瞬間、行われたのは高速で動いた両の手における攻撃の無効化だった。

 裏拳で弾くようにして、刀と槍を防がれる。

 速すぎる。


 大きく弾かれた故に、防御に移れず蹴りを喰らう。

 ギリギリで出力による盾を挟み込むもいともたやすく割られて身体をくの字に曲げた。


「コフィンさん!?」


 後ろでもみじの悲鳴が上がるが、致命傷ではない。

 こっちは毎朝インベーダー君にいじめられながら学校に登校していた時期があるし、制服の回復機能は偉大だ。

 ただ、致命傷でないだけで、こいつの攻撃力は異常だ。

 強く、それでいて何より速い。

 俺が攻撃を弾かれたのだと気付いたのは、ことが起こった後だった。


「蹴りじゃ、無理か」


 インベーダーは何かを呟き、地面を蹴る。

 移動速度も大したものだ。一瞬で距離を詰めるそれは瞬歩と言えた。

 だが、それ以上に、構えた腕の振りが速かった。

 まるで消えたかのように見えた拳は、俺の知覚を潜り抜けて直撃する。今度は、出力も間に合わない。

 

「ごほっ」


 深くめり込んだ腕は俺に血を吐かせる。

 くそ。息が出来ん。


「死ねや」


 だが、怯んだ俺にインベーダーは容赦をしない。

 目にも留まらぬ速さで空を切ったのを視た。


「あ?」


 黒い刀は眼前で、攻撃を防ぐ。

 喉元へ突きつけられた攻撃は、振るえる刀の先で止まっていた。

 

「おい。今のどうやった?」


 そう問いかけられるが、俺には余裕がなかった。

 実際、今の攻撃を受けきったのも使いたくなかった奥の手を使ったことによるものだ。

 琴浦レンズからもらった報酬の魔眼の一つ「未来視」の魔眼だ。

 その名の通り未来を視る。

 とは言え精々見れるのは一秒程度。

 それでも、十分すぎるほどの効果をもたらしているのは、皮肉なことに奴の攻撃の速さによるものだった。

 早すぎるが故に、一秒先の動きが違い過ぎる。


「雑魚が、手間取らせやがって」


 そう言ったやつの鎧のような腕が変化するのを見た。

 ハサミと形容すればいいだろうか。手首の辺りから伸びるようにして生えた。


 ──やはり、あの角のように生えるハサミから予想はついていたが、クワガタムシの要素を取り込んだインベーダーだったか。

 ──あ、クワガタ……やっぱ予想通りだったか!


 インベーダーの変化を見て得心が言ったようなカゲの様子に俺も同意する。

 Gじゃないんか。確かに、クワガタっぽいか。


「っと、まずいな」


 視界が赤く染まり、頬を血が流れるのを感じてそう呟く。

 魔眼の副作用だ。

 魔眼の機能をフルに使うと目玉が破裂するから、能力の制限と使用時間を極限まで短縮していたが、一秒先の未来を一度見るだけでこれか、その上なんかインベーダーが本気出そうとしてて笑えん。

 つーか、マジであと何回使えんだろ。


「お前に考え事をする余裕があんのかよ。あァ?」

「っ!?」


 眼球に痛みを走らせながら、奴の動きを見る。

 それでもかわすのがやっとだ。

 容易に掠った肌は裂けて血が飛び散る。


 今の攻撃で二度目の魔眼の使用。

 出来てあと二度か?

 

 ただ、三度目を切る前に雪砂の攻撃が迫る。

 キックバックのように回転する刃が地面をはねるのを利用して、彼女は武器を振るう。

 だが、やはり腕で防がれる。その反対側を縫って俺も攻撃をするが決定打にはならない。

 刀を振り、槍、メイス、戦斧を黒武器で生成してぶつけるも弾かれる。

 吸収を付与しているが故に触れれば少なからず入るダメージも、武器の腹を殴られて弾かれれば意味がない。

 吸収の付与は、場所を限定しないと難易度が高い故に通常の武器で言う刃と同じ位置に付与している。だからこそ、対処はされやすい。


 奴の動きを止めるために、白武器を足止めに使うがそれも無効化された。

 雪砂を庇い切れずに、インベーダーの攻撃を喰らい飛んでいく。

 しかし、俺も構っていられるほどの余裕はない。


 奴の攻撃を避けなければ──


「ぅぐッ──」


 くそ。見誤った。

 破裂しやがった。

 視界が半分なくなったことにより、不利はより強まる。

 そして、同時にそれを察した奴は左側からの攻撃を繰り出した。


 すべてのモーションが後手へと回る。そう予感した俺は自身の左側に目一杯盾を生成した。

 いともたやすく破られたそれによって、俺は横に吹っ飛ぶも一命をとりとめる。

 魔法少女じゃない俺は、致命傷を受ければ容易に死んでしまう。

 制服の回復機能などを有しての応急処置を行うが、すぐに立ち上がれない。


 次の奴の攻撃を受けきるには、どうすればいい。


 そんなことを考えていたのだが、予想に反して俺や雪砂から目を逸らしたインベーダーは別の人間に足を延ばした。

 その先にいるのは、もみじだ。


「必死に守ってたからなァ。こいつから殺すわ」


 インベーダーはそう言いながら、もみじへと手を伸ばした。

 彼女の使い魔が手を広げて庇うが振り払われて地面に落ちる。

 そうして、今度こそもみじの首を掴んで狙いを付けた。


「っ……」

「待たせたなァ」


 そう言ったインベーダーは今度こそ、その腕をもみじに突き刺した。


「くだんねぇ真似しやがって。しょうもねぇんだよな。一歩遅かったなァ!オイ!」


 魔法少女における魔法体は、ある種の安全装置。

 魔法体であれば一度だけ命を守ることが出来る。

 一度、変身を解かれてしまっていたもみじは、恐らく変身によって一命をとりとめたのだろう。

 だが、二度目はない。

 正確には二度目の変身をするほどの魔力が残っていないのだ。


 だが、エネルギーさえあれば一瞬の変身は出来る。

 インベーダーに殺される前に変身させることが出来れば、一瞬でも助けることが出来る。

 そう考えたからこそ、俺はカゲを投げ、もみじの使い魔にエネルギーを譲渡した。


 俺の扱うエネルギーはカゲに貯蔵されている。

 それ故に、カゲさえ接触出来ればやりようはあった。

 だから、彼女は一瞬変身するに至った。


 だが、インベーダーの言ったように一歩遅かった。

 変身が完了したのは、すでに攻撃が彼女を襲ってしまってからだった。

 ダメージの軽減は出来ただろう。だが、生身の身体にはほんの少しの攻撃であっても致命傷になりえた。

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