トキワ荘、まんが道が生まれた部屋 第7話:新漫画党の誓い
作者のかつをです。
第二章の第7話をお届けします。
単なる思い出話で終わらない。彼らがいかに漫画という文化の未来を真剣に考えていたか。
今回はトキワ荘の精神を象徴する「新漫画党」のエピソードに光を当てました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
別れの時が近いことを誰もが予感していた。
だからこそ彼らは自分たちがこのトキワ荘で共に過ごした日々の証を何か形として残したいと願った。
1955年。
寺田ヒロオの呼びかけで、トキワ荘の住人たちを中心とした若手漫画家のグループが結成された。
その名は「新漫画党」。
それは単なる仲良しグループではなかった。
彼らが党の綱領として掲げたのは、漫画という文化そのものの未来を見据えた熱くそして青臭いほどの理想の誓いだった。
一、我々は児童漫画の新しい探求を生涯の仕事とする。
一、我々は互いに協力し合い助け合い仕事上のあらゆる障害を乗り越えていく。
一、我々は漫画を不当に貶めるあらゆる社会の風潮と断固として戦う。
一、我々は我々の後に続く若い世代のために道を切り拓きその成長を助けることを惜しまない。
その言葉の一つ一つに彼らの漫画への深い愛情と誇りが込められていた。
彼らはただの子供向けの絵描きではない。
自分たちは新しい文化を創造しているのだという強い自負があった。
手塚治虫がたった一人で始めた漫画の革命。
その革命の炎を自分たちが受け継ぎ、さらに大きなものへと育てていく。
新漫画党の結成はその高らかな決意表明だった。
彼らは党の活動として合作漫画を発表したり会報を発行したりした。
その活動は商業的な成功を収めることはなかったかもしれない。
しかしこの時の熱い誓い。
「漫画の地位を向上させるんだ」という共通の目的。
それこそがトキワ荘という奇跡の場所が残した最も尊い遺産となった。
この誓いが彼ら一人一人のその後の長い長い漫画家人生を照らし続ける灯台の光となっていくのだ。
彼らはもはや孤独な個人ではなかった。
同じ志を持つ「党員」だったのだから。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「新漫画党」の活動は長くは続きませんでした。しかしその精神は確かに後の漫画界に大きな影響を与えました。特に後進を育てるという意識は彼らのアシスタントたちの中から多くの才能が巣立っていったことにも繋がっています。
さて、熱い誓いを立てた若き漫画家たち。
いよいよ彼らがそれぞれの道へと旅立つ時がやってきます。
次回、「伝説の始まり(終)」。
第二章、感動の最終話です。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。
ーーーーーーーーーーーーーー
もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。
▼作者「かつを」の創作の舞台裏
https://note.com/katsuo_story




