トキワ荘、まんが道が生まれた部屋 第6話:去りゆく友、来たる友
作者のかつをです。
第二章の第6話をお届けします。
どんなに楽しい時間もいつかは終わりを迎えます。
今回は伝説のアパート「トキワ荘」にも訪れた静かな変化と、そこに暮らす若者たちの心の機微を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
時は流れ、トキワ荘の住人たちも少しずつその顔ぶれを変えていった。
永遠に続くかと思われたあの奇跡のような時間にも、やがて変化の波が静かに押し寄せていた。
最初の変化は「結婚」だった。
仲間の一人が恋を見つけ家庭を持つためにアパートを去っていく。
皆でなけなしの金を出し合いささやかなお祝いの会を開いた。
「おめでとう!」という祝福の声。
しかしその笑顔の裏には仲間が一人欠けてしまうことへの一抹の寂しさが滲んでいた。
またある者は漫画家としての厳しい現実に直面し、夢を諦めて故郷へと帰っていった。
見送る仲間たちは何も声をかけることができなかった。
明日は我が身かもしれない。
誰もが口には出さない同じ不安を胸に抱えていた。
去りゆく者がいれば新たに来る者もいた。
彼らの活躍に憧れ「第二のトキワ荘」を夢見る若い才能たちが次々と門を叩いた。
しかし、かつてのような濃密な共同体がそこに再び生まれることはなかった。
時代の中心はもはやこの古びたアパートではなかったのだ。
住人たち自身も変わっていった。
藤子不二雄は『オバケのQ太郎』の大ヒットで一躍時代の寵児となっていた。
石ノ森章太郎、赤塚不二夫もまたそれぞれが自分のスタイルを確立し人気作家の仲間入りを果たしていた。
彼らはもはや四畳半の部屋に収まりきるような存在ではなかった。
それぞれが自分の仕事場を持ちアシスタントを雇いプロの漫画家として独り立ちしていく。
トキワ荘はいつしか才能を育む「揺りかご」から、才能が巣立っていくための「学び舎」へとその役割を変えようとしていた。
その変化を誰よりも寂しくそして誇らしく見守っていたのが、リーダーであるテラさんだった。
自分を追い越し遥か先へと羽ばたいていく若き仲間たち。
その眩しい背中を見ながら彼は静かに一つの時代の終わりを感じていた。
あの貧しくも熱かった日々。
それは二度と戻らない奇跡の時間だったのだと。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
トキワ荘の住人たちは巣立った後も生涯を通じて深い友情で結ばれていました。彼らにとってトキワ荘は単に住んでいた場所ではなく心の故郷であり続けたのです。
さて、少しずつ別れの時が近づいてきたトキワ荘。
しかしその魂が消える前に彼らは一つの熱い誓いを立てます。
次回、「新漫画党の誓い」。
彼らが後世に託した熱いメッセージとは。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。
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