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観えるってマジ? 重要参考赤狐様な開発系魔法使いのレセプション捜索ログは散々 魔法使いたちの//クロスロード ――ver.→D――  作者: なぎねこ
 

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tp41 ミエルテの魔法使い⑨  ――frustrate ▶ stand by ▶ roam――

 もたもたするな、間抜けなペギー、ですって?

 あんまりが過ぎる宮代笙真の口振り。わたしは(まなじり)をきつくきつく釣り上げた。


 兄様に抱えられた腕のなかで、ぐったりと眠ってしまわれているお嬢様や、虚脱状態のアンタがお屋敷に戻った時の、上を下への大騒ぎ。

 それを目の当たりにさせられたわたしにとって、「何を今更」と言いたくなるくらい当然の反応も、笙真にしてみたら腹に据えかねるような具合だったらしい。

 銀鼠姿の彼よりも更に小柄な鼠の身体と真っ赤な目が、わたしに負けじと険を増して、睨み返してきた。


 けれど、それだけだった。

以前のあの子なら絶対に叩いたはずの減らず口を挟むことなく、わたしから外れた彼の眼差しが、これ以上ないほどの真剣さでポーリャ殿のスマートフォンに注がれている。


 やつにしては珍しいほどの焦燥を示すように、虹色の光――宮代一族が得意にしている「読み」の魔法――が、彼の悪態とともにチカチカと瞬いた。


 うるさいくらいのその色合いに、統の魔法を思わず心に浮かびかけたわたしは、そっと視線を彷徨(さまよ)わせる。カーテンに遮られた出窓を経て、散らばるお嬢様の鋏へ。

 

 ⋯⋯? 今、何か見えたような――?


 ばら撒かれた切っ先の、その一つへ(はし)った煌めき。

 よぎったその光の正体を「観る」ためだけに、数秒前まで無様に泣き出しそうだった意識を、わたしは凝らしかけ、信じがたい光景に息を呑んだ。


 だって。


 無造作に投げ出されていた、夥しい数のレベッカ様たちの鋏。

 妖しい色を纏ったままのそんな小さな刃と刃の間隙を縫って、忙しなく跳ね回っていた輝きの向こうに「観え」たのは――


 《鸚鵡》のように鮮やかな頭髪を(ひるが)して駆けるお嬢様。

 それからお嬢様の手を引いて、何かを喚くような仕草を見せている、どことなく統に似た面立ちの、黒瞳に黒髪の少年。

 笙真も斯くや。そう断じても過言ではないまでに必死めいている、お二人の横顔(すがた)だったんですもの。

 

「どうして⋯⋯」


 自覚した時には、もう声が(こぼ)れていた。

 銀色の小さなデバイスに殆ど張り付くようになっていた白鼠姿の笙真が、わたしが洩らしたつぶやきを受けて、ぶるりと身を震わせた。


 膝元のエプロンに這わせたわたしの指先を介して伝わってきたばかりの、苛立ちをまるで隠せていない笙真の様子に、


 いま目にしたお二人を、この子に伝えるべき?


 本当に僅かな時間、わたしはそんなふうに躊躇(ちゅうちょ)して、怒鳴られたら怒鳴り返すだけ、そうでしょ。

 あの人に倣うつもりで自らに言い聞かせた。口を開く。


「笙真」

「わかってる!」


 視線を上げないままの即答。何をどう分かっているのか。思いかけたわたしの膝の上で、仔狐姿のお嬢様の苦しそうな呻き声。

 気遣(きづか)わしげな表情に変わった笙真の赤い瞳が、チラと投げかけられる。あからさまな温度差に、舌打ちしかけるわたしに、「! 風張って! マーゴット」「「マーゴット」様、危ない!」


 甲高くて耳障りな笙真の鳴き声。背後からのお兄様とラウラの重なり合った警句に、被せるような指示。


 それに応えてわたしが即時展開した「息吹くは主翼たる加護(エカイユ・ド・ヴウ):翼竜鱗(ィーヴル)

が、お嬢様に襲いかかろうと真っ直ぐに飛来しかけていた二挺の鋏を、Gyggwin(ぎぐぃん)! 嫌な金属音を立てて押し戻す。

 

 レベッカ様の目元にまたも浮かび上がる、赤茶けた錆色の虹環(アーク)

 それよりもずっと鮮明な朱色をした笙真の両目が、心を「読も」うとしているのだろう。今度はわたしの顔を正面から見据えてきた。

 ベッドの上のわたしたち三人を覆うように頭上に掲げた透明な壁の向こう側で、今度は二十挺を超える鋏どもが、(つんざ)くような高音を響かせる。

 

 艶の失われた赤毛の中で、そこだけが不自然に白く乾き切った鼻先。

 その直ぐ側で、ずっと閉じられたままでいた瞼が、弱々しく揺れて、瞬膜に覆われた眼球が微かに覗く。

 笙真がすかさずレベッカ様の顔を覗き込んで、もどかしそうにすること五秒。血走るようなやつの目にようやく灯った虹が掻き消えた。まだ「読め」ないとばかりに、悔しそうに首を振る笙真。


「リベ」


 ぽつんとした、やつの声。唇を噛むかわりに、口ひげを震わせた笙真が、もう一度だけレベッカ様の愛称を口にして、わたしに背を向けるようにポーリャ殿のデバイスへ身を寄せた。


 昨日の騒動でも泥に塗れなかったのだろう。片方の後ろの先端だけが白く残った鼠の丸耳が、神経質そうにぴくり。揺らぐ。


     ◇


 戸口に張られたデイビッドさまの《風》の壁の向こうで、同じように張り巡らされたアデリーさんの《鳥の魔法》による透明な障壁。


 ラウラさんと、デイビッドさんのお国言葉で交わされているやりとりから察する限り、(ドラゴン)の単語が幾度が飛び出したあたり、張られている結界は両方とも、普段遣いとは思えない強度を持った防御結界の類らしかった。


 とは言っても、英語ですらなさそうだから単語を拾い聞きした以上のことはどうにも分かり難い。

 二人の視線を「読ん」だところで同じだろうし。


 まどろっこしいなあ。思わず心の中でぼやいてしまった。


 散らかったままのリベちゃんの鋏を、部屋の中に留めるためのデイビッドさまやラウラさんの魔法と、笙真たちを守るためのアデリーさんの魔法。


 まだおしゃべり出来るくらいの片手間とはいえ、鳥の魔法使いを三人も張り付けている、五歳児らしからぬ大剣幕。


 人払いを徹底していて本当によかった。

 心底そう思わざるを得なくなって、もはやため息すら出ない。そんな気分だった。


 スヴェトラーナさん――統さんではない、もう一人のスバル・ミヤシロ(宮代昴)――が魔力が目に映らないという世界の未来から持ち込んでいた銀色の小さなスマートフォン。


 二重の風の壁の向こうのアデリーさん。その膝の上で弟子が齧りついている、見た目こそ私が若い頃の携帯電話にそっくりな筐体を指して、


『そのスマホ、魔法技術(マナニクス)の粋を集めたうちの最先端モデルなんです』。


 一月前と少し前に、寝台の上でリベちゃんの姿をした昴君が、私たちへ告げた言葉を不意に思い出す。

 

 はにかみかけた声音の奥に隠れているプライドと、さみしさの複雑に混ざりあう口振りに、笙真が神妙な顔をしたせいでやけに印象に残っていたのだ。


 カン! デイビッドさまの《風》に阻まれて、私たちに届かなかった赤褐色の鋏身(きょうしん)が、短い金属音(かなおと)とともに私たちの目の前で跳ね返った。刃の上で混ざり合い、鈍く(きら)めいていた二人分の魔力。

 その片割れだった、スヴェトラーナさんのくすんだ虹色だけが、唐突にぱちん! ()ぜる。


 次の瞬間、リベちゃん由来らしい鮮紅色に立ち戻った鋏の刃。そのおもてにさっと映り込んだのは――


      ◇


「――――(ッうっ)――!!」


 右肩に走った、抑えようもない重い衝撃に、ずっと維持していた、“これは夢”、そんな前提(決めつけ)がすっ飛びそうになる。

 奥歯を噛んで、思い返そうとする俺を(わら)うように、再び肩口に突き立てられる鋏。利き腕がだらりと力を失う。


 慌てんな。言い聞かせるつもりで、血の巡りの悪くなった頭を叱咤。失血死しかけているだなんて、それこそ錯覚。“ゆえに、これは夢!”


 右足が地を蹴った。血溜まりのぬめりに足を取られないように、慎重に追いかける左のつま先。

 利き腕を庇うように添えた左の手のひらを伝う、ボタボタと濡れそぼった感触。


 “気の所為”。途切れることなく念じても消えてくれない鮮烈過ぎるイメージ。悲鳴を上げまいとぐっと息を呑んで、今にも(すく)んでしまいそうな両足に、“目が覚めるまでの辛抱だから” (げき)を飛ばした。俺の背後にいるはずのレベッカお嬢様を怒鳴りつける。


止めろ馬鹿!(“止まんな!”)


 怒声に気圧(けお)されたのだろう。激痛が、ふっと和らぐ。

 強引に掴んだ彼女の左手を引いて、俺は森の中を再び駆けようとし、失くしていたはず(・・・・・・・・)の、|「カエルの手のひら」としての鋭敏な触覚《空気振動を介して俺が知覚した鋏の飛来予測》に目を(みは)った。


 足が止まる。


 こめかみの奥深くまで()がれた、嫌な熱。


 “これはゆ⋯⋯”


 視界と同じように、繰り返し唱えていた言葉が赤く塗りつぶされる。

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