罠に落ちた 猿と麒麟 蒲生氏郷 第十一章
第十一章:関ヶ原の残照(時代の終焉)
慶長五年、九月。関ヶ原。
麒麟・氏郷が世を去ってから、五年が過ぎていた。
蒲生家は改易の憂き目に遭い、かつて氏郷が心血を注いだ会津の地には、上杉景勝が入っていた。
徳川家康は、会津へ向けて進軍させていた大軍を突如として反転させ、西へと電光石火の強行軍を敢行した。
「氏郷殿……。貴殿が会津に遺したあの『完璧な防衛ライン』があったからこそ、私は上杉を背後に釘付けにし、迷わず西へ向かえたのだ」
家康がその手に掴み取った勝利の半分は、かつて氏郷が会津の荒野に刻みつけた、兵站と防御の「設計図」によるものであった。
関ヶ原の、血の匂いが漂う戦場に立つ家康の手には、ひとつの薬箱があった。
それはかつて氏郷に贈ろうとして用意され、しかし、ついに一度も使われることのなかった「友情」の証であった。
戦の時代が終わり、泰平の世が訪れた江戸。
会津若松の整然とした町並みには、今も漆の芳しい香りと、現場を何よりも愛した一人の男の魂が、脈々と息づいている。
麒麟は死なず。
ただ、歴史の「現場」という名の下に、揺るぎなき礎となったのである。
【完結御礼と新作連載のお知らせ】
本日をもちまして、『罠に落ちた 猿と麒麟 蒲生氏郷』全十一章、完結となります。
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
麒麟・氏郷が仕掛けた壮大な「罠」の結末、いかがでしたでしょうか。
本作を通じて、歴史の教科書には載らない「合理主義者・氏郷」の生き様を感じていただけたなら幸いです。
さて、物語はこれで終わりではありません。
明日より、氏郷の知略をさらに深掘りする外伝の連載を開始いたします。
新連載:『蒲生氏郷外伝・戦国の習い』
(明日より7日間連続投稿、序章+全六章)
外伝では、本編の裏側で氏郷がいかにして「偽物を本物として売ったのか」、そして堺の職人を釣り上げ、会津に独自の産業基盤を築いた「経営者としての暗闘」をより濃密に描きます。
側近・阿知寝や、道化を演じる与太の佑、白塗りのお駒といった面々も再登場し、氏郷の冷徹な算盤が再び火を噴きます。
「美談」の裏に隠された、もう一つの真実。
明日からの外伝連載も、ぜひ御覧ください。




