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罠に落ちた 猿と麒麟 蒲生氏郷 全十一章  作者: あっちゅ寝太郎


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罠に落ちた 猿と麒麟 蒲生氏郷 第二章

第二章:岐阜城、大広間の肝試し

岐阜城、千畳敷の大広間。

そこには、あの日野の静寂とは根本から異なる、重苦しく濃密な殺気が渦巻いていた。

案内された鶴千代が足を踏み入れた先には、織田家の重臣たちが左右に居並び、鋭い視線を投げかけている。その光景は、さながら無頼の親分を囲む幹部連中の列、そのものであった。

【右列・武闘派】

柴田勝家が、自ら降伏させた獲物をあざ笑うかのように、巨躯を揺らしながら睨みつける。

【左列・智謀派】

羽柴秀吉が、猿のような細い目をさらに細め、「この小倅はどれほどの金になるか」と冷徹に値踏みしている。

【末席】

徳川家康は、ただ沈黙を守り、薄く目を開けている。その手元にある薬箱から、微かな生薬の香りが風に乗って鼻腔をくすぐった。

そして【上座】、中央に鎮座するは、織田信長。

入口から信長が座す場所まで、畳数十枚の距離。それが今の鶴千代には、地獄の業火を渡る細き橋のように果てしなく感じられた。

(ああ、逃げ場はないのだな)

そう悟った瞬間、鶴千代の心に「不思議な凪」が訪れた。

かつて地元の番長として、敵対する勢力の中心へたった一人で乗り込んだあの時と同じ、透き通った覚悟。恐怖は霧消し、代わりに居並ぶ猛将たちが、日野の荒野に立つ枯れ木と同じ、ただの背景に見え始めた。

中央で歩みを止め、鶴千代は深々と頭を下げる。

「……おもてを上げよ」

信長の低く、刺すような声が広間に響いた。

顔を上げた鶴千代は、瞬き一つせず、信長の瞳の奥をじっと覗き返した。沈黙が支配する。一触即発の気配。誰かが喉を鳴らす音さえ、爆音のように耳に届く。

信長が、不敵に口角を上げた。

「日野の山猿が。わしの前で、その眼光……。貴様、わしが怖くないのか?」

鶴千代は、淀みなく答えた。

「怖ろしゅうございます。されど、鈴鹿の雪に比べれば、殿の殺気は春の陽光のように温かく感じられます」

「ほう……?」

「雪は理不尽に人を殺しますが、殿の殺気には『意志』がある。意志あるものには、言葉が通じますゆえ」

大広間の空気が凍りついた。勝家が反射的に刀の柄に手をかける。

だが、次の瞬間、信長は天を仰いで大声を上げて笑い出した。

「わははは!面白い!度胸、頭脳、そしてこのふてぶてしさ……。子供の頃の俺を、鏡で見ているようだわ!」

信長は勢いよく立ち上がり、背後に控えていた長男・信忠を振り返った。

「信忠よ、見ろ。これが麒麟だ。今日からこ奴は、わしの婿むことする。誰一人、指一本触れることは許さん!」

その時である。末席の家康が、そっと薬箱の蓋を閉じた。

(信長公と同じ種が、もう一つ芽吹いたか……)

家康の胸に宿ったのは、純粋な賞賛ではない。それは将来、己の領分を食い荒らすやもしれぬ「毒」の芽への、密かな警戒であった。

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