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四神 ―神格化の刻―  作者: 伏黒照(フシグロテル)


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第九話 振り分け 〜黒崎の微笑み〜

佐久間たち10人の生徒は、最初にいた部屋で、机に突っ伏していた。

第一弾の突飛な脱走劇は、1分も経たずに沈静化された。彼らのいるブロックは、連絡トンネルを抜けて、メイン通路に出るまでが1本道である。

10人が部屋から出た瞬間、監視カメラからの通信であっという間に、武器を持ったセキュリティガードが何人もやって来て、道を塞がれ、そのままこの部屋に引き返して来た。

「俺たち何やってんだろ?」

竹田がうなだれる。

「無計画にもほどがあるでしょ? まあ自分も反対しなかったけど……。」

溝端が諦め気味に言う。

「多分ここ地下じゃねえ?」

香野が珍しく皆に呼びかける。

「コウノが言うように多分地下だよ。洞窟みたいな感じ。さっきのトンネルみたいな通路で確信した。匂いとか、音の響きが変だし。聞こえるのが換気扇みたいな音と、遠くからの水の音っぽいのだけで、窓もねえし。」

こう言ったのは柴崎である。彼は小学生のときから優秀で、この10人の中では一番見識が深い1人と言える。

「洞窟みたいな場所で間違いないでしょ。外の音が一切聞こえない。何より風がない。」

大田は何かサバイバル経験でもあるかのように、自信を持って主張する。

「で、どうするんだよ、洞窟だって分かったって……。」

小前が机に肘をつきながら、悲しそうに皆に問いかける。圓崎は相変わらず静かに腕組みしながら考えている。佐久間もあっという間に潰えた冒険から、まるで長い年月が経過してしまったかのように、天上を眺めながら呆けている。鹿島が「カビ臭え」と叫んでる。

何故かずっとおとなしくしていた吉村──圓崎に遠慮しているようにも思える彼が、ここで口を開いた。

「次来た奴を捕まえて、人質にして出ていくってのが早え(はええ)んじゃねえ?」

間髪入れずに圓崎が言う。

「多分さっきと同じ結果だろうな。結局銃向ける連中がここに来るだけ。しかも、あの食事とか運んでくる白衣の連中を人質にとっても、一緒に銃で撃たれるだけで、人質として成立しねえと思う。」

「ああ、アイツら撃ってきそうだな。」

天井を見つめ続けながら、佐久間も同意する。

ここで元の沈黙に戻った。

次の瞬間、圓崎、佐久間、大田の3人が急に立ち上がり構えをとった。3人は直感で何か近づいて来るのを察知したのだろう。柴崎と香野も足音が近づいてくるのが聞こえたようだ。

周りも彼らの反応に驚き立ち上がる。

程なくしてやって来たのは、初めて見る人間だった。その男の後ろで、白衣の男が3人待機している。恐らく彼らも人間なのだろう。同じ白衣でもZタイプとは印象が異なる。セキュリティガードも10人近く追従してきている。先頭の男は、10人の少年たちを一人ずつ値踏みでもするように見ている。「ん?」と誰かを見ながら首を傾げる。何か書類に目を向けて、小声で「ああ、やっぱり。」と呟いた。

遅れてセキュリティガードたちの後方から、彼らを掻き分けて入って来た別の男がいた。同様に、全員をひと通り見回す。最後に満足気に薄い笑みを浮かべた。

笑みを浮かべた男の方が、まず切り出す。

「そう構えないでくれたまえ、諸君……。ようこそ、エリシオン・ラボへ。私は副所長を務める黒崎、そしてこちらが今後君たちの世話を務める大野だ。よろしく頼むよ。」

全員が身構えたまま動かない。この挨拶をした男が問題ではない。彼らが警戒しているのは、まるで軍人のような()()()()の、大野と紹介された、最初に入って来た男の方だった。

圓崎や佐久間はもちろん、この場で彼に対峙した10人全員が、本能的に『ヤバい奴』と感じた。

「お前たちの適正を判断した結果、3つのグループに分かれてもらう。名前を呼ばれた者は速やかに前に出て、引率スタッフと共に所属チームへの移動だ。別に返事はしなくていい。すぐに前に出て来い。」

小前が溝端に囁く。

「なんで俺らの名前がわかんだよ?」

「病院のベッドから連れて来られたんだぞ。それで名前を把握してんだろ。」

「なあミゾ。『ラボ』って何だよ?」

「なんかで聞いたことあるような気はするけど……。」

溝端が同じく小声で小前の質問に答えていると、

「返事はいらないが、余計なおしゃべりもいらん。」

彼らを睨みつけて大野が一喝する。続けて名前が呼ばれていく。

「圓崎、大田、柴崎。」

抵抗せずに3人は指示に従って前に出た。

「お前たちはAクラスだ。次、香野、佐久間、竹田、溝端。お前たちはCクラスだ。」

香野たち3人は、圓崎たち同様に抵抗せずに従った。ところが、佐久間は大野を睨みつけながら、顔を近づけて言い放つ。

「何様だ?! てめえ!」

大野は臆することなく、むしろ待っていたかのように気味の悪い笑みを浮かべて答える。

「やっぱりな。ヤクザの子どもは礼儀を知らんのだな。」

そのセリフを聞いた瞬間、佐久間がそのまま大野に殴りかかる。あっという間であった。しかも佐久間の一撃で大のオトナが吹っ飛ばされた。ドスンと鈍い大きな音とともに、まるでマンガ描写のように綺麗に飛んでいった。咄嗟に圓崎が止めに入り、溝端も圓崎と共に、佐久間を後ろから羽交い締めにして暴れるのを止める。

「サクマ、やめろ、やめるんだ!」圓崎が叫ぶ。

「止めねえでくれよ、エンちゃんよお、ミゾも離せ。」佐久間は暴れる。

「ダメだ。手を出すな!」圓崎が再度叫びながら必死に抑え込む。溝端も同調してこの場を納めるのに必死である。

「この野郎はゼッテー許さねー!!」佐久間の叫びが、地下壕のトンネル内にまで反響する。

暴れる佐久間を圓崎、溝端の2人がかりで抑えていたが、黒崎の指示でセキュリティガード2人が佐久間を鎮圧した。

床に押さえ込まれた佐久間に、起き上がった大野が、鼻と口から流れる血を拭いながら、ゆっくりと近づく。そして彼の横面に右足で蹴りを入れて言い放つ。

「クソガキが!」

一瞬の出来事だった。凄まじい風切り音がして、左頬が拳大にベッコリと凹んだ大野が倒れていた。圓崎が、大野の捨てゼリフと同時に、彼を殴り飛ばしたのだ。佐久間も凄かったが、圓崎のそれは、その場にいた誰ひとりとして、目で追うことすらできなかった。大野は白目を向き、口も半開きのまま気を失った。

無言のままの圓崎の闘気が、その場の全員を圧倒する。

佐久間を取り抑えていたセキュリティガードも、驚きで手を放してしまった。

さっきまで暴れていた佐久間がこれを見て正気に戻り、いつものチャラい感じで圓崎の肩に手を回しながら、呆れたように笑いかける。

「エンちゃん、ダメっしょ? 俺止めときながら。」

笑ってるのか、泣いてるのか、なんとも言えない表情で圓崎に顔を寄せている。

彼らはまだ神格化を施されていないにもかかわらず、中学生にして、この強さであった。

圓崎は佐久間に肩を組まれたまま、黒崎を睨みつける。意外にも黒崎は冷静であった。イメージ的には、こういう場合真っ先に逃げたり、必死に殴らないよう懇願するようなタイプと思われたが、全く動じている様子がない。そしてきちんと背中を伸ばし、丁寧に圓崎と佐久間に向かって頭を下げた。

「私の部下が大変失礼をした。」そう言いながら2人に近づく。セキュリティガードが慌てて前に出るが、身振りでそれを制して1人で近づいていった。そして優しく微笑みながら、

「本当にすまない。謝って済むことではないが……。だが、奴もあんなだ。今回は痛み分けってことで許してもらえないか?」

黒崎の胸ぐらを掴んで、佐久間に謝らせるつもりだった圓崎にとっても、これは意外であった。拍子抜けとも言える。高飛車に思われた大人が、中学生2人に頭を下げたまま謝罪をしている。

暫くの沈黙の後、圓崎が喋り出す。

「わかりました。ただ理由だけは知っておいてください。あいつがサクマを、ヤクザの子って安易に呼んだからです。」

「承知した。本来仕切り直したいのだが、君たちの健康面も考慮して、3グループに分かれての治療・検査は続けさせていただきたい。どうだろうか?」

圓崎だけでなく、その場の10人全員に呼びかけているようだった。

「わかりました!」

圓崎ではなく、佐久間が返事をした。圓崎もいつもどおりに戻っている。笑みを浮かべて佐久間に頷き、振り返って皆に同意を求める。皆黙って頷いている。

その様子を見て、黒崎が再度少年たちに詫びを言う。

「すまなかった。そして、ありがとう。」再度頭を下げる。

Zタイプたちは感情を表に出すことは殆どできない。だがセキュリティガードを始め、皆がこの一連の黒崎の行動に、むしろ戦慄を覚えていた。彼は一体どういうつもりなのか?

「今回は挨拶だけのつもりで来たのだが、大変不快な思いを君たちにさせてしまった。申し訳ない。世話役は改めて、常識ある者を選出することを約束するよ。

 すまないが次の公務──仕事があってね、私はこれで失礼させていただく。」

丁重にそれらを伝えると、軽く会釈して、黒崎はこの場から姿を消した。彼の指示で、大野はタンカに乗せて、医療チームによってレベル2に運ばれていった。大野の代わりに白衣を着た研究者らしき人物から、グループ分けの発表がされる。

改めてグループ分けは以下のようになった。

Aクラス 圓崎、大田、柴崎

Cクラス 香野、佐久間、竹田、溝端

Dクラス 鹿島、小前、吉村

10人は今までいたブロックを後に、それぞれ別のブロックへ移動する。メイン通路までは一斉に移動していたため、しばしの別れに声を掛け合っている。

特に小前は、肩を落として沈んでいた。柴崎と竹田が声をかけて励ましていた。1人だけ同じクラスメイトがいない別グループになったこともあるが、何より吉村と同じであることが彼を一層落胆させていた。小柄な彼の背中が、更に小さくなっていた。


レベル3からレベル2の執務室へ戻ろうとする黒崎を、少し離れた場所で観察している男がいた。光学迷彩のような何かで隠れていたのだろうか? 迦陵頻伽だった。

エレベーターシャフトの近くまで歩いてきた黒崎は静かに笑っていた。

その不気味な様子に迦陵頻伽は小さく呟く。

「奴は一体何が目的だ? まあいい……。さっきの3人の少年の反応は大したものだ。僅かな気配を覚った(さとった)のだろうが……それよりも香澄の方だ。レベル5に何故奴はいたんだ?」

(第九話 終わり)

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