第十一話 白い部屋の接続 〜青白い光の嘘〜
佐久間の話を聞こうと、全員が身を乗り出していた。
彼は7人の座るテーブルの上に軽く腰掛けて、話を始める。
「なんかよ、その2日前のリハビリってやつが終わった後に、例のお辞儀オヤジが来たんだよ。」
どうやら黒崎副所長のことを言っているようである。
リハビリとは大人たちが、あくまで治療である、という言い訳のための表現なのだろう。
「で、お前ら、ミゾとかが『運動後の心拍測りま〜す』とか言われて医務室の方に行ったろ?」
「ああ、あれね。あんときだけ医務室に行って、なんとなく俺も違和感あったよ。
あのおじさんが来てたんだ。」
溝端が思い出したように頷く。
同時に、みんな心の中で突っ込みを入れていた。(エレベーターガールじゃないんだから『ま〜す』とは言わなかっただろ)
「ああ、確かにサクマだけ居なかった気がする。」
香野も状況を思い出して頷いた。
「そうだった! あのオヤジ来てた。俺見た!」
竹田が手を叩きながら声を上げる。
佐久間は同じグループの仲間の反応を見て、軽く頷きながら話を続けた。
「でよ、この前悪かったとか言ってんのは、もういいよ、って感じで話してたら、『君は特別な……何とかがある』って言い出したんだよ。」
溝端が半笑いで突っ込む。
「何とかってなんだよ?」
「わっかんねえけどよ〜、あれだよ、あれ、なんかさ、病気にならないで、俺にはそれがあるから、ウイルスに強えんだとか、なんとか……。」
「免疫……かな?」
柴崎がボソっと言ったその言葉に、佐久間が顔を輝かせた。
「そうそう、それそれ!」
皆が「あ〜」と声を揃えて納得する。
さっきまで別テーブルにいた吉村と鹿島も、いつの間にかこちらのテーブルに来て、佐久間と同じようにテーブルの上に腰掛けていた。
「そう、そのメンエキってのが特別で、君のメンエキで薬が作れるかもしんねえ、って言われたんだよ。」
「お〜。」皆感嘆の声を出す。
ここは実験施設だと気づきながらも、彼らの多くは、ウイルスの話自体は完全にデタラメとは思っていないようだった。
だが、そうでない者もいる。
「嘘だな。」
圓崎は、視線を遥か先に向けるように腕組みしたまま、低い声で言った。
皆の視線が一斉に彼に向く。
「ああ悪りい。その『特別な免疫』ってのが嘘だろうな、って思って。」
圓崎は視線を佐久間に移し、話を中断したことを軽く詫びるように肩をすくめた。
「あり得ないだろうね。俺たち感染なんかしてないはずだし。」
大田が、どこか自信たっぷりに言った。
「俺も……感染してるってのは嘘だと思う。」
柴崎は申し訳なさそうな表情で、小さく付け加えた。
「俺は感染してない、とは言い切れないと思ってるから、完全に嘘ってわけじゃないと思うんだけどなあ?」
溝端は「信じる派」のようである。
だがここで皆黙り込んで考えている。
圓崎が「話止めちまった。悪りい、サクマ続けてくれ」と言って、佐久間の話に戻る。
「……おおっ……、それから何にもねえ、真っ白い部屋に行って……。壁も床も天井も、全部同じ白で……なんか、目がチカチカするくらい真っ白でさ。そこに松野がいたんだよ。ほかの3人も一緒に。」
松野は圓崎や佐久間と同じ鏡野小学校出身のため、佐久間にも馴染みがある。ほかの3人は、彼にとっては名前や顔は知ってても「よく知らねえ連中」なのだ。
「でよ、あいつら何かボ〜ッとしててよ。松野が近くに来たから、『よっ』て挨拶しても最初は俺だってこと、アイツ気づいてねえみてえでよ、ちょっと間をあけて『おおサクマ』って感じだったんだよ。」
白い部屋……。皆で確認し合う。この場にいる誰一人行ったことがない場所のようだ。
「松野が言うにはよ、4人一緒に助けてもらって、ここに来たって。
でさ、あの色白のヒョロっとした奴……、何て言ったっけ?」
「ああ〜オサムちゃんだ。」
幾人かがハモる。声に出さない者も一斉に彼のことだと理解したようだ。
「ああ〜オサム? オサム? 高山か! そっ、あいつだけよ、ほかの3人と違って、えれ〜長えことピカピカ光ってんだよ。青白く!」
ここで佐久間が両手を大きく広げてみせる。
「最初、電気椅子とかでよ、コイツ処刑されてんのか?って思ったんだけどよ。
松野が平気だって言ってんだよ。アイツは特別だって。」
9人は、ゆっくりと揃って首を傾げた。まるで9羽のフクロウのようであった。
佐久間はその後のことは、あまり覚えていないとのことだった。
黒崎に「馴れない人は、この部屋に充満するガスで眠気に襲われる」と言われて、自分もボーっとしてきて、気づいたら、Dクラスの部屋の前まで連れて来られていたらしい。このときには黒崎の姿は、どこにもなかったそうだ。
電気椅子のように放たれる青白い光とは何だろう?
とりあえず4人が生きていることだけは判明したので、そこは皆ほっとしたようだ。
また新たな情報があれば、お互い共有するようにしよう、ということで解散して、それぞれ監視と共に部屋に戻って行く。
戻る前に、圓崎が佐久間に声をかけた。
「サクマ。見覚えのない傷とかどこかにあったりしねえか?」
圓崎は、佐久間に対して黒崎が何かしたはずだと考えていた。
「いや。俺もなんかヤバそうだったんで、シャワー浴びっときとか確かめて、ほかの連中にも見てもらったけど、特にねえんだよな……。たまに首の後ろとか痒いけど……。」
圓崎は慌てて佐久間の首の後ろを確認したが、注射痕とかも特に見当たらなかった。
柴崎や大田も覗き込んで確認したが、何もなさそうであった。
「また何かあったら、すぐ知らせろよ。」
「おおっ!」
監視のZタイプに連れられて、部屋に戻った圓崎たちAクラスの3人は、顔を見合わせて話始める。
「ゼッテー何かされてるよ、アレ……。」
柴崎が声を低くして言う。
「だろうな。見た目じゃ分かんないように、クスリでも盛られたか……。」
大田が腕を組んだまま、ため息をつく。
圓崎は壁に背中をあずけたまま、床をじっと見つめていた。
「……いいか、今後絶対一人で行動すんなよ。」
その言葉は、いつもの軽い調子と違い重く低い。柴崎と大田はほとんど同時に小さく頷いた。
部屋には短い沈黙が落ちる……。
(第十一話 終わり)




