聞き込み調査
萩田と石川の件もあり、復讐代行部は校内で少し知名度を得た。宏太たちの前には、分厚く積みあがった書類の山がある。
「また蒼木由依の被害か。これで何度目だ……」
宏太は頭を抱えた。潤也は掌でボールペンを回しており、絵里は激昂している。
「どうして、由依の悪事の証拠を掴めないの! 証拠さえ揃えば、あーしたちの出番なのに!」
どうやら、この三人でも苦戦する相手がいるらしい。絵里の怒りも真っ当なものだ。しかし潤也は、それを一笑する。
「裁かれない手口で立ち回る悪――俺は大好きだけどな。それほどまでに、蒼木由依がそこらの凡夫と一線を画す存在ってこった。絵里にも同じくらいの知性があれば良いんだけどな」
「ちょっと、何それ! あーしを馬鹿って言いたいの?」
「馬鹿というよりは……『優生保護法の時代に生まれなくて良かったね』って言うのが正しいかな」
あの時彼女を売っただけのこともあり、彼は至って冷酷だった。その辛辣な言い草に更なる怒りを覚え、絵里は顔を真っ赤にする。
「ねぇ! 今のライン越え!」
「パンチラインだからな。そりゃぁラインを殴り壊すよ」
「あぁもう! なんで潤也はいつもそうなの?」
そんないつもの光景を横目に、宏太はいつもの苦笑いを浮かべる。今のところ、空き教室は平和だ。
――その時である。
「あの、復讐代行部って、ここ?」
開け放された扉の奥に現れたのは、一人の女生徒――小野田だった。彼女は全身に傷を負っており、見るも無残な出で立ちであった。
「お、案件が来たぞ」
そう零した潤也は、嬉々とした笑みを浮かべていた。この瞬間に、宏太と絵里の表情が変わる。彼らの眉間には皺が寄り、その眼光も鋭くなっている。
「先ずは話を伺おうか」
宏太は言った。小野田は軽く会釈し、室内に立ち入る。その身に刻まれた数多の傷からして、彼女が深刻な状況下に置かれていることは火を見るよりも明らかだ。
小野田が口を開く。
「最近アタシ、相良によくカツアゲされるんだ。今日は、もう金が無いって言ったら、殴られたり蹴られたりした」
その話が事実であれば、決して只事では済まされない。そこで宏太は、ペン型のボイスレコーダーを取り出した。
「次はこれを使うと良い。ここに録音ボタンがあるから、これを押せば音声を録音できる」
「う、うん! ありがとう……」
「僕は僕で、独自の調査を進めておくよ。それじゃ、今日はこんなところで」
依頼者にボイスレコーダーを手渡した宏太は、その場を後にした。
翌朝、宏太は昇降口で聞き込み調査を行った。
「あ、アンタ、復讐代行部の!」
「相良? ああ、アイツは確かに、小野田には風当たりが強いね」
「相良、中学生の頃からレディースの総統だったみたいだよ」
集まっていく証言はいずれも、相良の素行の悪さを裏付けるものであった。無論、これはあくまでも「証言」でしかなく、「物証」には及ばない。それを良く理解している宏太は、まだ動き始めることが出来ない。
「ありがとう、皆。相良が本当に犯人だったら、必ず鉄槌を下すからね」
もはやこれは、相良に対する宣戦布告に等しかった。彼は聞き込み調査で得られた情報を、復讐代行部のグループチャットに共有する。直後、潤也と絵里から返信が来る。
「なるほど。女が標的かも知れないのか。もしそうだったら、社会的に終わらせやすいな」
「相良のやつ、前々から悪そうな奴だと思ってたんだよね。アイツは間違いなく、懲らしめられないと反省しないタイプだよ」
まだ冷静な宏太に反し、二人はすでに臨戦態勢だ。宏太は深いため息をつき、一言だけメッセージを送信する。
「今はまだ待って。証拠が揃うまで、僕たちは動いてはいけない」
これに対し、潤也は「りょ」、絵里は「OK!」のスタンプを送ってきた。




