我ら復讐代行部!
その日は平和な時間が流れた。復讐代行部が死人を出したという事実はあまりにも強烈で、それゆえにいじめを行う者はいない。潤也の天敵――退屈の再来である。生徒のほとんどは由依の自殺を因果応報であると断じたが、一部の生徒は胸糞の悪さを覚えている。
「やっぱり、復讐って悪なんだね……」
最初にそう呟いたのは、萩田だった。彼に続き、小野田と澤渡も発言する。
「アタシ、ずっと平和が来ることを祈ってた。でも、こんな形での平和を望んだことは、一度たりともないよ……」
「自殺者が出るって、相当だもんな……」
三人は陰りのある顔をしていた。いくら彼らがいじめの被害者だからといって、屈折した正義による余韻を楽しめるはずもなかった。結論から言えば、彼らは平穏な時を過ごした。同時に、倫理的ジレンマに苛まれている三人は、あまり授業に集中できなかったという。
その日の放課後、復讐代行部の三人はいつもの空き教室にいた。話を切り出すのは、潤也である。
「俺、今までのこと、全部自首しようと思ってるんだよね」
それはあまりにも意外な発言だった。宏太たちは、彼が罪悪感とは無縁の存在であることを熟知している。由依が亡くなった今、この男は南岬原高における最大の巨悪だ。
無論、潤也が自主を選んだことにも意味はある。
「由依のいない学校は、俺からすれば退屈すぎる。だが少年院なら、ゲームを盛り上げてくれる悪人が大勢集まっているという寸法だ」
こともあろうに、彼はゲームを楽しむためならば、社会的信用を失う覚悟さえ決めていたのだ。
絵里は言う。
「少年院で済めば良いけどね……」
事実として、潤也の積み重ねてきた業は極めて強烈なものだ。そんな彼が刑罰を受けないというのは、一見虫のよすぎる話だろう。しかし、潤也は自らが迎える結末を想定している。
「少年院で済むんだよ。少年犯罪は重犯罪でない限り、多くの場合は前科がつきにくいんだ。俺くらいの罪状じゃ、大抵は保護処分どまりだからな」
「そ、そうなの?」
「それに、俺はまだ十六歳だ。特定少年にも該当しねぇよ」
「特定少年って……?」
「十八歳及び十九歳の少年の総称だ。この年齢になってくると、民法上は成人と同じ扱いとなる。まぁ、十六歳の俺とは無縁の話だけどな」
そう――あれだけの所業を繰り返してきてもなお、彼は少年法に守られているのだ。さりとて、少年法も無敵ではない。例え前科がつかなかったとしても、社会的信用を損なうリスクは回避できないだろう。
「それでも前歴はつく。就職活動に支障が出るんじゃないか?」
宏太は訊ねた。当然ながら、潤也はそのリスクについても対策を講じている。
「案ずるな。俺は将来的に、家業を継ぐ話になっている。だから俺の将来は確約されていると言っても過言ではない
確かに、家業を継ぐとなれば面接を受ける必要はない。学歴の欄にブランクがあったとしても、家業であれば無関係と言えるだろう。
宏太は深いため息をつき、こう呟く。
「……そうか。寂しくなるな」
結局、彼は潤也の自首を止めようとはしない。眼前の巨悪は、すでに将来設計を見越した上で自首を選んだからだ。一方で、絵里は不安を隠しきれない様子だ。
「潤也がいなくても、あーしたち、ちゃんと復讐代行できるかな?」
「案ずるな。宏太の調査力とお前の扇動力があれば、他の誰かが勝手に私刑に走ってくれるだろうよ」
「……そっか。そうだよね。皆、正義の味方だよね!」
……彼女が復讐代行を正義とみなしているのも、もはや見慣れた光景だ。そんな彼女に構わず、潤也は二人に別れを告げる。
「お前らとのゲーム、楽しかったよ。またどこかで会えると良いな」
彼が出所するまで、この三人が揃うことはもうないだろう。それでも、絵里と宏太は再会を心待ちにしている。
「きっと会えるよ。だって……」
「僕たちは、復讐代行部だから」




