暴力
翌日の昼休みを迎え、石川たちは動いた。彼らが赴いたのは、復讐代行部の部員たちがいる空き教室だ。
「お? ぼっちとヤリマンとミソジニストとホモのおでましか」
そんな軽口を叩いたのは、潤也だ。彼に続き、宏太と絵里も発言する。
「悪いけど、復讐に対する復讐の依頼は受けられないよ」
「あんたたちが破滅したのは、完っ全に自業自得じゃん!」
何やら二人は、石川たちを客人だと思っているらしい。そこで前方に躍り出るのは、相良だ。
「おい潤也。アンタに用がある。表に出な」
彼女の眼光は、底知れぬ憎しみを宿していた。その後方で、残る三人も潤也を睨みつけている。潤也は気怠そうに伸びをし、それからおもむろに立ち上がる。そんな彼に対する怒りをこらえつつ、石川は言う。
「……ここでやり合ったら宏太に証拠を残される。ついてこい」
これから起こることを、潤也はまだ知らない。しかし彼は、至って冷静だ。
「良いだろう」
彼は四人についていくことにした。
潤也が連行された先は、屋上だった。
「それで、用件はなんだ?」
そう彼が訊ねた瞬間、その頬には相良の拳が叩き込まれた。彼が唖然とした刹那、今度は彼の腹部に尾木の蹴りがさく裂する。この瞬間、潤也は察した。眼前の四人は今、失うことを何も恐れていない。
「全く、物騒な奴らだ!」
そんな捨て台詞を吐き、潤也は駆け出した。
「逃げる気か? 追うぞ!」
相良の合図で、彼女と他三人が走り出す。潤也と四人は階段を駆け下り、そのまま廊下を走り抜けていく。その末に、潤也は図書室の手前の廊下――行き止まりに追い込まれてしまった。一見、彼は窮地に立たされたも同然だ。それでも彼は、石川たちを愚弄するのをやめはしない。
「暴力に頼るのは思考停止だろ。お前ら、自分の無様な愚かさをプレゼンしてんのか?」
その言葉に憤り、石川は彼のみぞおちに拳を叩き込んだ。その背後から飛び出してきた尾木が、潤也の背中に肘打ちを食らわせる。それから息継ぎをする暇もなく、相良が飛び蹴りをお見舞いする。潤也が後方に倒れた隙を突き、衛宮はマウントポジションを取る。それからはもう、顔面を狙ったラッシュの応酬だ。
「痛い! わかった! わかったって! 償う! 贖う! だから、もう許してくれ!」
そんな必死な懇願も、暴力を選んだ者たちには届かない。
「都合良いこと言ってんじゃねぇぞ! 潤也ァ!」
「アンタのせいで、アタイの学生生活はめちゃくちゃになったんだ!」
「許されると思うな!」
「死ねェ! 潤也ァ!」
四人の目は血走っている。その眼差しは殺意を宿している。由依にブレーキを外されたことにより、今の彼らは無敵なのだ。この乱闘騒ぎが耳に入ったのか、図書室からは数名の生徒が顔を覗かせてくる。そんな彼らを前にして、潤也は許しを請うように声を張り上げる。
「助けてくれ! 助けてくれ!」
それから警察が駆け付けたのは、約十五分後のことであった。警察たちは四人を潤也から引きはがし、その場から連行しようとする。その光景を前に、潤也は嗤う。
「ははははは! まんまと騙されてくれたな! 昼休みの校舎で最も人口密度と静けさが両立している場所、それが図書室だ。俺が悲鳴を上げたのは、ギャラリーを呼び寄せるためだったんだよ!」
そう――彼が袋の鼠になったのは、彼自身の戦略だったのだ。
「図ったな! 潤也!」
「どこまでがアンタの計画だったの?」
「答えろ!」
「オレたちにリンチされることも、予測していたのか!」
石川たちは警察に取り押さえられつつ、必死に抵抗を試みている。そして、彼らの問いに関する答えはこうだ。
「まさか。お前らの凶行は想定外だったけど、嬉しかったよ。おかげで、お前らの少年院行きは濃厚になったんだから」
そう言い残した潤也は、その場で気を失った。




