同盟
同じ頃、由依は校舎裏に四人の生徒を集めていた。石川、相良、尾木、そして衛宮――いずれも復讐代行部に学生生活を破壊された者たちである。彼らがここに集められた理由は他でもない。
「藤谷潤也に、復讐したいと思わない?」
そう囁いた由依は、悪魔のような微笑みを浮かべていた。無論、被害者たちの答えは決まっている。
「当然だ! アイツのせいで、オレは孤立したんだ!」
「ディープフェイクの件は、絶対に許さない!」
「俺んちがミントだらけになった件、忘れたとは言わせねぇ!」
「アイツのせいで、今のオレはホモ扱いされてんだ。絶対に報いる!」
もはや四人は、全てを捨てる覚悟を決めていた。しかし彼らには、肝心の作戦がない。そこで由依が提案する内容は、至って単純なものだ。
「最後にものを言うのは知略じゃない。暴力だよ。どんな天才も、秀才も、賢者も、暴力の前では無力なんだ。君たち四人がかりで暴行を加えたら、流石の潤也もお灸を据えられるはずだよ」
純然たる暴力――それが彼女の提示した案だった。もっとも、いくら酷い目に遭ったからと云って、石川たちは暴力に積極的にはなれない。
「そんなことをしたら、停学処分が下らないか?」
「そうだ。一対一の暴力ならともかく、四人がかりで暴行を働くのはまずいだろ」
「万が一やり返したとして、また俺が炎上させられたらたまったもんじゃないしな」
「そうだ。オレたちは、アイツを敵に回すのが怖い」
彼らの言い分はもっともだ。さりとて、四人はあの男に報いたい気持ちを捨てきれていない。後もう少し揺さぶれば、彼らも暴力を行使するだろう。由依はその一押しに命を懸ける。
「君たち、もう停学処分程度では何も失わないんじゃない? このまま反撃をためらっていると、潤也に足元を見られるよ。不特定多数の人生を狂わせれば、それは己の身に振り返ってくる――これは、潤也に対する授業だよ」
確かに、四人はすでに全てを失ったも同然だ。このまま潤也に暴行を加えたところで、彼らが大きな損失を被る可能性は低いかも知れない。由依の眼前で、石川たちは揺らいでいる。潤也に対する畏怖、憎悪、そして復讐という言葉の甘美な誘惑が、彼らの脳内で渦巻いているのだ。
由依は畳みかけるように彼らの背中を押す。
「ねぇ、知ってる? この世で本当に強いのは、社会的な強者ではないんだ。失うことを恐れない、バックファイアを省みない、そして暴力という選択ができる――そういう人間が、最も恐ろしいものなんだよ」
「君たちがそういう人間になれば、それは潤也が何よりも恐れるものになると思う。損得勘定や論理でしか物事を考えていない人間の視野からは、暴力という概念が除外されているから」
「今の君たちが恐れているのは潤也じゃなくて、『失うこと』でしょ? 抵抗感のある行為って、案外やってみたら慣れるものなんだ。私はこれを、逸脱ワクチンと呼んでいるよ。一度逸脱できれば、二度目も三度目もできるんだもの」
その口から紡がれていった巧みな言葉は、ついに石川たちの心を動かすこととなる。
「……やってやるよ!」
「元より、アタイは暴力には慣れっこなんだ。アイツのことも、ボロ雑巾にしてやる」
「俺は喧嘩に強くないけど、お前らと一緒なら勝機はある!」
「オレも手を貸すぜ! 今からオレたちは、同盟だ! 同胞だ! 運命共同体だ!」
ようやく覚悟を決めた彼らに、由依は聖母のような微笑みを見せる。されどその慈愛はペルソナに過ぎない。内心、彼女はこう考えている。
「一人ではできないことも、『皆』でやるとなれば抵抗感が薄れる。責任を分散させるだけで、人間はこうも道を踏み外すことができるんだ。さぁ潤也。君のゲームオーバーの時間が迫っているよ」




