お弁当たいむ
『女の子座り可愛いね……』
はいはい。
当然こんな場所に椅子やテーブルはないので、俺とテイルさんは持ってきたシートを敷いてその上に腰を降ろす。パンツルックのテイルさんは股をひらき片足を立てた行儀の悪い座り方をしているけど、膝丈位のスカートを穿いてきている俺がそんな座り方をできるわけもない。いや配信してなかったらしてもいいけどな。
なのでペタンと俺はそのまま腰を降ろしてアヒル座りっていうんだっけ? 正座から足を左右に広げたような座り方をしている。男の時は絶対にしなかった座り方だけど、なんかこの姿になってから妙に楽で気が付いたらしていたりするんだよな。まぁ普段は椅子とかベッドに腰かけたりしてるから、眠る前でベッドの上に載ってる時くらいだけど。
まぁこの状態でスカート巻き込んで座っておけば、突風が吹いても捲れあがる事はないので安心だろう。
今はそうやって向かい合って座って、昼食の最中だ。こうやって思いっきりアウトドアで人とメシ食うのっていつ以来だろ? 少なくとも学生時代以降はそんな記憶ないぞ。
昼飯は食べやすさを考えて、サンドイッチとかちょっとしたおかずがいくつか。テイルさんはアクティブな子らしく結構ご飯は食べるっぽいので多めに用意した。飲み物もちゃんと用意してきてある。完璧。
その旨伝えると、テイルさんは「それじゃ、遠慮なく頂くね」といろいろ手を伸ばしてくれた。どれも美味しそうに食べてくれたので(というか口にもしてくれた)、結構嬉しい。こっちの食材や調味料はまだ慣れてないしちょっと不安だったけど、大丈夫だった。
しかし、こう自分の作ったものを美味しそうに食べてもらえると結構嬉しいね。自炊はするけどやるようになったのは一人暮らしするようになってからだし、それを人に振る舞うなんて考えたこともなかったなぁ。作ったのを見せるのは配信でしてるけど、あれは見せてるだけだしさ。
あーん? 何の話かな?
「ごちそうさま。美味しかった~」
結局多めに用意した弁当を、テイルさんはきっちり完食してくれた。でもちょっと後ろに手をついてお腹に手を当てているあたり、ちょっと食べすぎって感じかな? 残してくれても大丈夫だったんだけど。でも嬉しい。
「カズサちゃんってさ、料理もうまいんだねー」
「あはは、そこそこ前から自炊してたから」
一息ついて食休み、俺が渡した飲み物に口をつけながら言われた言葉に、俺はちょっとだけ頬が緩むのを感じながらそう返す。
勿論外食で食べるものに匹敵するほどのものじゃないってのは自分で理解してるし、何より簡単なものだから素材の味が強いんだけど、それでも目の前で完食してくれた上での言葉なので嬉しい。また作ってあげたくなってしまう。なので
「テイルさんがよければ、また今度振る舞うよ?」
「おおー、ぜひぜひ!」
調子に乗ってそう言ったら、彼女はコクコクと頷いてくれた。俺が勿論と返すと、彼女も満面の笑みを浮かべて……それからなぜか俺をじっと見て、一つため息を吐いた。
「? どうしたの?」
「いやねー」
いいつつ、彼女が飲み物に口を付けたので、俺もつられるようにカップに口を付けてお茶を口に含み、
「カズサちゃんって、本当に女の子って感じだよね」
「ぷぴっ」
噴出した。
「わわわ、どうしたの!?」
「な、なんでもない!」
「あ、スカートに……」
「……あちゃあ」
噴き出したお茶は見事にスカートの上に着地を決めていた。まぁ大した量じゃなかったし色の薄い飲み物だったからそれほど目立つことはないけど。洗濯すれば落ちるだろう。
「大丈夫?」
「大丈夫? てか急になに?」
「いや、料理上手いのって女の子って感じしない?」
「そうかな?」
料理をする男なんていくらでもいるだろうし、店舗の料理人とかも男が多い。だからそんな事ないんじゃない? というニュアンスを込めてそう首を小さく傾げると、テイルさんの言葉が続いた。
「それ以外も、普段の仕草とか、よく気がきくとことか、本当に可愛らしいんだよね。私が男の子だったら好きになっちゃいそうかも。 あ、今が好きじゃないってわけじゃなくてね?」
『告白きた?』
『まだだ、ステイッ、ステイッ』
『しかし、これは貴重な意見ですね』
『ああー、何の情報も知らない人がそう思っているってことはこれはもう完全に女の子ですわ』
ちゃうねん。
テイルさん、というか他の人、特にアパートメントの他の住人達と交流するときは変な疑念とか持たれないように、ちゃんと女の子に見えるように意識してるんですよ。だからテイルさんとかにはそう見えちゃうだけで、身どころか心まで女の子になっちゃったわけではないです、はい。
「ボクは見ての通りガサツだからさー。そんな自分が嫌いなわけじゃないけど、ちょっと憧れちゃうところはあるよね!」
『天然の美少女に憧れられるTS美少女』
『カズサちゃん、もう間違っても男に戻れると思わない方がいいよ』
『もうこうなったら男に戻ると大変な事になっちゃうよね』
確かに戻った直後はちょっと人前に出れない状態になるとは思うけど、今と同じでしばらくすれば慣れるから……
てか、そんな事よりもだ。
「いや、テイルさん滅茶苦茶女の子らしいですけど! 可愛いし!」
「……そう?」
実際問題外見は可愛いし、見た目はそうだし何より明るくてよくしゃべる、それでいて自分の方だけ一方的に喋るわけでもなくコミュ力高そうな感じで、特にすごくいい笑顔をする。
ウチのリスナーとか、すぐ惚れちゃいそうなの多そうだよね。
『なんだろう、今カズサちゃんにさらっとディスられた気がする』
妙に勘がするどい奴がいるな。……って、ん?
これまで俺達に降り注いでいた光が急速に陰ったのを感じ、俺は空を見上げた。
「ありゃ……」
俺達の見ていた側の反対側の方から、灰色の雲がこちらに向かって伸びてきていた。基本的に崖側に意識が行っていたのと、背の高い木が伸びているせいで気づかなかったな。
「あー、残念だけどそろそろ引き上げの準備した方がいいかな?」
「うん、そうしよう」
お互い立ち上がって、広げていたものを片付けていく。……と、その途中で頬に何か冷たいものを感じた。見上げると、わずかであるが水滴が落ちてきている。
「まだ、頭上には雲がそんなにないのに……」
天気雨という奴か。さっきこちらに影を作ったように、小さな雲がぽつぽつあるのでそこから降って来たか。あるいは風で飛んできたか。
「急ごうか」
「だね」
手伝ってまとめてもらったものを、鞄の中に仕舞っていく。が、その途中で体に触れる水滴の量が増えて来た。急に天気が変わりすぎだろう!
せっかくいい気分だったのに、やんなるわー。って、そんな事考えている場合じゃないな! 天気がよければそのまま歩いて帰るつもりだったけど、こういう状況になったら使える能力を獲得したからね!
「テイルさん、手を繋いで」
差し出した手に、テイルさんはきょとんとして首を傾げる。
「急にどうしたの?」
「雨が強くなってきたので、<<ポイントテレポート>>で一気に帰ります」
土砂降りになりそうな感じではないにしろ、雨足は徐々に強くなっている。衣服も濡れて、ところどころ肌に貼り付くのを感じた。
「ああ、成程」
頷いた彼女が俺の手を掴んだのをきっちりと確認して、握り返す。
<<テレポート>>の場合は転移先を意識する必要があるが、<<ポイントテレポート>>なら移動先は決定しているのでその必要はない。力を発動するだけだ。
「<<ポイントテレポート>>」
そう口にするだけ。それだけで一瞬の浮遊感と共に景色が一瞬で切り替わり、見慣れた部屋の中央に俺達は立っていた。
「おー、さすがにすごいね!」
見慣れた部屋のハズなのに、彼女はキョロキョロと周囲を見渡していた。<<ポイントテレポート>>はかなり高位の術のハズだし、体験するのは初めてなのかもしれない。
「便利だねぇ。ダンジョンとかでピンチになっても即時脱出できるし」
だなぁ。そもそも俺のこの能力のメインの獲得理由も危機回避のためだし。こういった便利な使い方は副産物だ。
「でもこの能力あって助かったね。ボクはまだしも、カズサちゃんさすがにその恰好で表は歩けなかっただろうし」
「へ?」
「ほら、白ワンピだから」
そういって下がったテイルさんの視線を追って、自分の体を見下ろす。
そこにはところどころ濡れて貼り付き、下の肌の色や身に着けているものが透けてしまっているワンピースが見えた。
……
「うわあっ!?」
「きゃっ、どうしたの!?」
気付いた瞬間俺は自分の方に向いていたカメラを掴み取り、思いっきり横に腕を振り切って自分の体を映らないようにした。普通であれば考えられない動きをしたせいで驚かせてしまったテイルさんが目を丸くしている。申し訳ない。
『眼福でした』
『ごちそうさまでした』
『ありがとうございます。今日誕生日だったんですが最高のプレゼントを頂けました』
サイテーだなお前ら!?




