浜辺にて③
「しかしまぁ、ウチのチャンネルの視聴者平均年齢が高いのが発覚したな」
そう呟いたら大量の『何で?』というコメントが流れたので、モデリングツールから事前に作成しておいた麦わら帽子に似た形状の空色のリボンのついた白い帽子を出力しながら答える。
「いや……だってこれ、昭和センスじゃない?」
地面にふわりと落ちたそれを拾い、軽く砂を払ってから頭にかぶる。
今の俺の恰好は白ワンピに今出した帽子、足元はサンダルである。
外でやれるコスプレって事で、周囲に人がいない場所とは言えさすがにあまりに目立ちすぎる恰好はNGにして、あと水着Onlyも事故が怖いのでNGにしたから選択肢は少なかったかもしれないんだけどさ、それにしたってベタ過ぎない? って思う。浜辺で美少女がこんな格好って、読んでた漫画に出てくる昔のドラマとかの描写でしか見た事がない気がする。
『カズサちゃんそれは偏見だよ』
『高校生だけどアリだと思います』
『いつの時代でもよいものはよいものです』
「そんなもんかねぇ」
ま、俺としては楽な恰好だからいいんだけどさ。普通に外歩いて行ける格好だし。女性の恰好に完全に慣れてしまった今となっては、この程度の恰好なら恥ずかしいところは何もない。
とにかくこれで準備は完了したので、本日最後の企画に突入だ。
俺はカメラを自分の横に配置させる。……そう、ちょうど横を歩いているくらいの位置だ。
今回のコスプレリクエストはさっきのコメントの通り(タイトル自体は捏造だったが)「白ワンピで浜辺デートRP」である。
正直場所が浜辺である以外は散歩とあまり変わらないんだが、『いつもより甘い雰囲気で』って要望がなぁ~。恥ずかしい云々の前に甘い雰囲気なんてどう出せばいいんだよ。
まぁ、なるようになるかぁと俺はゆっくりと歩き出しながら、
「えへ、いい場所だよね、ここ」
と笑みと共にカメラに語りかけた。若干上目遣い気味に。
『ヴッ』
『こんなデートをしたい人生だった』
『景色よりキミの方が可愛いよ』
あー、まぁよさげな感じか、じゃぁこんな感じでいこう。後一番最後の奴、お前そのセリフ現実でもいってみろ。
そのまま俺は浜辺の波打ち際をゆっくり歩きながら、こまめにカメラの方に顔を向けて雑談を進めていく。カメラの方に顔を向ける時は出来るだけ笑顔にすることを念頭に置いて。喋る話題はまぁ雑談だが、楽しそうに見えるような反応を見せる。突っ込みは封印だ、すっげぇむずむずするけど、突っ込みなんかしたら甘い雰囲気(になってるかは知らんが)吹っ飛ぶだろ。
後、時折カメラに顔を近づけたり、腕を組むような仕草も見せてやる。俺も慣れたもんだ、この程度のロールプレイならまるで抵抗がなくなってきたぜ! どんどん危険な領域に足を踏み入れている気がするけど! 今は視聴者受けが大事なんだから、余計な事は考えない!
そうやってしばらく雑談しつつの散歩をすると、浜辺の終わりが見えて来た。この先はテイルさんといった断崖となっているので、これ以上は歩いては進めない。
さすがに折り返して続けるのもアレだし、当初の予定通り後は締めのRPをして終わりにしよう。
俺は歩みを止めて、サンダルを脱ぐと波打ち際に置く。……これ忘れていったら、あらぬ疑いがかかりそう。いやこっちの世界では、そういったアレの仕方があるのかしらんけど……靴に履き替える時忘れないようにして、と。最後にワンピースの裾を手に取って、膝上くらいの丈になるように縛った。
「……っ」
打ち寄せる波の中に足を進める。……さすがに冷たいが我慢してじゃぶじゃぶと進む。うぐぐ、この要望を出した奴の顔をひっぱたきたい気分になってきたが、これもMPの為。
波の高さが俺の膝下くらいまでいったところで一度足を止めると、カメラを固定してその向こう側に回りこむ。そして体を前に倒すと、水を掬い取ってカメラへ向けて放った。
「ほらっ、冷たいでしょ? あははっ! ねぇ、キミもこっちにきなよ?」
冷たい水に足と手が触れているのに、カメラに映る俺の顔は紅潮している。
勿論、恥ずかしくてな!
いくつものRPをこなし、徐々に恥じらいというものをなくしつつある俺ではあるが、さすがにこれは恥ずかしい。
だって、あれだよ? はたから見ると俺虚空に向けて笑いながら水ふっかけて一人でキャッキャウフフしているんですよ? 客観的な目で見たら狂気でしかない。見ている人はいないのは解ってるけど、それでもかなりクルものがある。正直このシチュエーションを最初に提案した奴は禿げればいいと思う。スパチャ投げた後で。
「うわっ!?」
──なんてことを、足場が悪い場所で考えながらいたのが不味かったのか。
後方からやってきたやや強めの波に足を取られた俺は、バランスを崩してしまった。その結果は当然……大きな水音を立てて波の中へ背中からダイブである。水深が浅いし手をつくのが間に合ったのでなんとか
お腹の辺りまで濡れるだけで──
「わぷっ!?」
……訂正。後方から来た波を被って、胸元までがっつり濡れた。というか俺の体に当たって跳ね上がった水で後頭部もちょっと濡れた感じがある。うぇぇ。
とにかくとっとと立ち上がるか……
『あ、ちょっとカズサちゃんそのまま立ったら不味くない?』
『下付けてなかったらアカウント消されちゃう!』
いやこんな白ワンピ着るのに下付けてないハズないだろ。基本事故が怖いから基本下着はつけてるわ。
まぁ今日は下着じゃないけど……
「とりあえず、ここまででいいよな? ここまで濡れたらさすがにすぐに着替えたいし」
『早く着替えて着替えて、風邪ひいちゃう!』
『てかカズサちゃんめっちゃ下透けちゃってるんだけど』
『●REC』
おい、最後の奴。
てか、濡れる可能性があるんだからちゃんと対策してるっての。
「ご心配なく、下は下着じゃなくて水着だから」
『なん……だと』
『あー、そーいえばなんかモデリングしてたね。下着かとおもってたけど』
『てか水着着てたならなんで水着撮影会させてくれないんですか!?(血涙)』
濡れてもいいような対策で用意しただけだからだよ。それに水着メインだと当然海の中に入る事になるだろうから、そうなると事故が怖い。今日だってここまで水に浸かるきがなかったし……
『でもこうやって見ると下着でも水着でもあまり変わらない気が』
『ごちそうさまでした。ごちそうさまでした』
うんまぁそうなんだけどね。あまり言わないでね。てか予算節約の為ビキニタイプにしたけど、ワンピースタイプにすればよかったかな……それなら事故もないもんな。ただ水着用に見つけた防水の素材大分値段張ったからなぁ……
はぁ、とため息を吐きながらコメント欄を見ると今日一でスパチャが飛び交っていた。やはりエロコンテンツが強いか、と思いながら俺は海の中から上がる。
……うーん、全身べたべただな。ここまで濡れちゃってるなら……もういいか。
俺は腕を上に掲げると、術の名前を唱えた。
「<<クリエイトウォーター>>」
頭上に水を生み出し、それをつついて頭から水を被る。これで半分くらいしか濡れていない髪の毛までずぶ濡れになってしまったが、塩水で濡れたままよりはいいよな。
後は持ってきたタオルで体を拭いて着替えかね。とりあえず荷物の所に歩み寄り取り出したタオルで髪だけ軽く拭う。……濡れたワンピースも脱いじゃうか。とりあえず、カメラは上に向けよう。そうすればどんだけ間違っても俺が映る事はないし。……いや、水着だから映っても大丈夫だけどな?
『あ、カズサちゃんちょっと待って』
……ん?
コメント欄の皆が、カメラ戻してーと言っている。
「……いや、映さねーぞ? 着替えるんだから」
『そうじゃなくて』
『誰か映ってた気がする』
『林の方に人影があったよ』
え、いや、そんなことないだろ? 林の方に人影なんて……
そう思いつつも俺は林の方へ視線を向けて──
一人の女性と目が合った。




