戦い終わって(戦ってない)
「ふあぁぁぁぁぁぁぁ……」
夜遅く。
日付も変わろうかという時間にようやく自室に帰って来た俺は、持っていたバッグをベッドの上に放り出すと、後を追うように自らの体もベッドに投げ出した。
『お疲れ』
『お疲れ様』
『おかえりー。夜遅くまで大変だったねー』
「ありがと、ただいまー」
コメント欄に流れる労いの言葉に、ヒラヒラと手を振りながらそう答える。
こうやってちゃんとした反応を返したのも7~8時間ぶりかな? 標的を捕縛した後はカメラは自分を映すように戻したけど、大体誰かと一緒だったから殆ど反応は返せなかったんだよね。
あの後、魔術で捕縛した影人は、依頼主の関係者立ち合いの元町の警邏に引き渡された。
縄で捕縛できないためしばらくはストラダ夫妻と他の監視チームの術士さんが交代で魔術で捕縛していたのでこの後どうするのかと思っていたが、どうやら不定形態の魔物を捕縛するための魔道具があるらしく、それで拘束できることが確認できたので、それで引き渡された形だ。この後国の方に管理が移りいろいろ調査が行われるだろうとのことだ。
その後俺達は依頼者とか警邏から聞き取りを行われて、ようやく解放されたわけである。ちなみにストラダ夫妻が映像記録を取っていたので間違いなく標的であろうと判断されて、報酬が払われる事になった。勿論実際に支払われるのは後日だけどな。
そうして、やっと自分の部屋へ帰って来たわけである。
『ようやく片付いたねぇ』
『作戦大成功だったな』
「本当にな。提案してくれた人にはマジ感謝だよ」
正直ちょっと眠いんだけど、テイルさんと一緒に帰って来たので部屋に帰ってくるまではほぼ反応できないせいかコメント欄がくっそ活発化している。こっちはもう大半の人間が寝静まってるであろう時間帯だけど、日本側……というかこういう配信を見る人間にとってはゴールデンタイムだからなー。なので眠いのは我慢してコメント欄から目に付いたコメントに返事を返していく。
このまま寝ちゃうと丸半日以上ほぼ反応なしになっちゃうからなー。24時間配信を売りにしている以上そんな訳にもいかんのですよ。……お風呂も入りたいけど、時間が遅すぎるし何より今の状態で入ったら確実にお風呂で寝落ちするので明日だな。
「それに今日は皆お手伝いマジでありがとなー。ほんと俺一人でみてたら見落としてからさ」
『任せて!』
『いやー、サポート妖精という名前に恥じない仕事ができました』
「? サポート妖精ってなんだっけ?」
『ちょ』
『これはひどい』
『カズサちゃんのファンネームだよ!』
「あー……ごめんね?」
当然こっちではSNSとか全くみれないから、自身のファンネームとか全く見かける事ないんだよね。たまに配信のコメント欄で使ってる人を見かけるくらい? だから全く実感がないのだ。とりあえず素直に謝っておく。
『目線があざとい』
『顔の角度があざとい』
『なんなら声音もあざとい』
『でもあざといと解ってても許しちゃう……』
『順調にリスナーを手玉に取るようになってて、お姉さん嬉しいわ』
そりゃみんなに鍛えられたからね!
毎日配信で皆と話して、更にいろいろRPさせられてば、皆がどんな感じにすると喜ぶのかもわかってきますわ。慣れてきたからこの程度なら最早照れもないしな。……前にも思ったけど男に戻った時がちょっと怖いが。先の事は先で考えよう。
『なんにしても無事片付いてよかったねぇ』
『これでようやく俺の帰宅時間にお帰りって言ってもらえる!』
あー、会社員勢は帰宅時間くらいだと監視業務中だったからな。皆の要望で朝と夜は定期的に「いってらっしゃい」「おかえり」を言うってのを続けてるんだけど、「いってらっしゃい」はともかく最近は「おかえり」は全然できてなかった。一人暮らしだとこのお帰りが結構嬉しいらしい。とりあえず明日からは再開するから安心してくれ。
『それにしても、未知の化け物ってちょっと気になるよな』
「未知っていっても、別の大陸では確認されている存在だけどね」
あの後、ストラダ夫妻やグウェンさんからちょっと話を聞いたんだけど。こっちの大陸ではああいったほぼ魔力で構成された怪物は見られた事がなかったらしい(同じ実体を持たないゴースト系とは別物の存在だそうだ)んだ。ただ以前街で聞いた別の大陸で現れた怪物が似たような存在だったということで、グウェンさんとかは何らかの方法であっちの大陸に現れた奴がこっちに来たんじゃないかと言ってた。
確かにこっちの監視術式をかいくぐる上闇に潜んでいればほぼ姿を認識できないであろうアイツなら、船に密航するくらいなんてことなさそうだしな……
『てかさ、以前ちらっと話題にもあがったけど。やっぱり未知の怪物の出現ってカズサちゃんがそっちにいった理由とリンクしてないかな』
『タイミング、一緒くらいなんだっけ』
「怪物と俺の転移の関連はなんともだなぁ。今のところ紐づくのはタイミングなだけで、それ以外にリンクさせる要素がない」
『だとしたらさ、過去に同じような事例がなかったか調べてみない? せっかく近場に立派な図書館があるんだしさ』
あー、成程、確かにそれは悪くないかも。今回の1件もこれで片付きそうだし、そうすれば時間が取れるから調べに行くかなー。とっかかりが少ないから調べるのに時間はかかりそうだけど、別段急いで調べる事でもないし。他の調べ物の片手間くらいに調べよっか。この世界の歴史を知る事自体はそれに関わらず必要だな。
ま、そういったのはおいおいか。
「ふあぁ……」
口から大きな欠伸が漏れる。
『おねむ?』
『限界近そうだよね。さっきからまぶたぴくぴくさせてるし』
『無理しないで寝ちゃっていいよー』
コメント欄からはそういった有難い言葉が寄せられる。俺としてはもう少し皆の相手をしておきたいところだけど……とりあえずいつ寝落ちしてもいいように着替えておくか。さすがに今の恰好のままじゃ安眠できないだろうし……寝間着に着替えて布団に入っちゃえば、後はそのまま寝落ちしてもいつもの配信と変わらずだからな!
自分でいっててなんだけど、本当に特殊なチャンネルだよな、ここ!
俺は体を起こすと、寝間着を引っ張り出す。下着は……明日朝一で風呂入りたいしその時に替えればいいか。服だけ着替えよ……
『ちょっとカズサちゃーん!』
『やばい、ヤバいって!』
『本心では先見たいけどストーップ!』
んあ?
さっきまでも流れのはやかったコメント欄だけど、それが更に荒ぶっていた。内容を見てみれば、大体皆
同じようなコメントをしていた。
えっと、『カメラ、カメラ!』とか『BANされちゃう』とか『自分の恰好確認して!』とかそんな感じ。
えーっと……
俺は自分の体を見落ろす。
胸元に伸ばした手は、二つ目のボタンに手を掛けていた。一つ目のボタンを外したことで、まだ下着は見えてないけど、胸の谷間は露出されてしまっている。
俺はカメラの端末を確認する。
その胸を半分くらい露出した俺の姿が映っていた。
…………。
「おっと」
俺は割と冷静な動きで、カメラの向きを外に向ける。
「失礼、眠くてちょっと頭回ってなかったわ、ありがと」
『失礼って事はまったくないけど』
『むしろ本当なら黙って見守りたいけど、それでBANになったら困るしなぁ』
『カズサちゃんのチャンネルがBANにされたら生きがいがなくなるから、血の涙を流しながら止めました』
下着まで脱ぐ気はなかったからさすがにBANはないと思うけど……あーでもちら見えじゃなくてがっつり着替えシーンが映るのは流石に不味いか? そう考えると止めてくれて助かったな。
それにしてもやっぱり眠い時は頭回ってない分いつも以上の注意が必要だな。今後はもっと気を付けよう……。




