落ち始め
水を含んでいるかのような空気だった。
雨が降るのか降らないのか、晴れるのか晴れないのか、
そんな真夏の暑さの日。
月の半ばでOJTインストラクターを担当するという女性社員が、私の部署に挨拶をしに来た。
私たちの会社は、毎月長続きしない社員や、
心の病をこじらせて長期に渡って休みを取る社員が多く、
慢性的な人出不足に悩んでいた。
そのため、他の部署から人が来ることは多かった。
「初めまして秋林です。」
髪を男の子のように短くしており、化粧を全くしておらず、クールな印象だ。
年は私のひとつ上の31歳。
何でも、日体大卒だと言う。
さばさばした挨拶だった。
よく笑い、淡々と思ったことを明るく口にする。
そんな女性だった。
立替金の発生する事案のロールプレイングをしていた時のことだった。
17時前になり、会議室からオフィスに戻ろうとした時のことだった。
「話し方はとても上手。でも。頭の回転が遅いね。」
「…すみません。」突然の秋林のハッキリとした言葉に驚き、私は謝ることしか出来なかった。
「タイムに表れているよ。頭の回転が。」
確かに、この遅さでは繁忙期に支障が出るかもしれない。
「もっと練習します。」私はそう答えた。
レンの献身的な愛で心も身体も癒されていると感じ始めた、そんな中での出来事だった。
彼女と接する機会が徐々に多くなっていった。
他の社員が昼休みを取り始め、電話の取次ぎをふたりでしていた時のことだった。
「すごいクマだよね。」
「…えっ。」またもや突然の棘のある言葉に驚いて私は反応が出来なかった。
「すごいクマだよね。」
この人は、こんな風にいつもハッキリと話すのだろうか。
「クマ、前からできやすくて…」愛想笑いを必死に作り、傷付いていないフリをすることに必死だった。




