僕を飼って下さい。後編
「一花ちゃんの夢はなに?」
「漫画家っ!」
小さい頃からの夢だった。
絵を描くのも物語を考えるのも大好きだった。
真っ白なノートに鉛筆で、毎日毎日漫画を描いていた。
同級生が休み時間の度に私の机の周りに寄ってきて見して見して〜って言われたっけ。
高校生の時に大手の出版社の雑誌に応募して新人賞を取った時はこれで夢が叶ったと思った。
子供の頃から考えていた一番大好きなお話を連載漫画として描けることが決まった時は最高に嬉しかった。
産まれた時から家が隣同士の、女の子と男の子のほのぼのとした恋愛話……
私はこの二人のキャラがとても大好きだった。
これからもずっと漫画を描き続けられると思っていた。
でも現実はそんなに甘くない。
恋人を寝取られ、連載も打ち切りになり、大好きだったキャラもハッピーエンドを迎えることなく、思いを告げぬままで終わらせることになってしまった。
なにもかも上手くいかない。
貯金だって底をつきそうだ。
私はもう…田舎に帰るしかないのかな?
私は……
私はこのまま……
このまま中途半端なままで───────
目が覚めるとベッドの上だった。
体がやけに重い……
また風邪を引いてしまったのだろうか?
いや………いや、違うぞこれは!!
後ろを振り向くとタマが私にしがみつくようにして寝ていた。
ちょっと待ってよこれは……
なにがどうなったの?
ヤッた?ヤッちゃったの?
服は二人とも着てる。
自分の体をチェックしてみたけど変な痕とかもついてない。
下にも特に違和感は……
はっ……何年もしてないからヤッたあとの違和感なんてわからないっ!
「……大丈夫。なんもしてないから。」
隣でゴソゴソと慌ててる私に気付いてタマが話しかけてきた。
「あの状況で我慢出来る男なんて滅多にいないんだから感謝してよね?」
うっ…確かに……私からキスしてとかせがんでおきながら途中で寸止めさせてしまった。
「ゴメンなさい……」
「別に謝らなくてもいいけど…はいコレ。」
タマが保冷剤をタオルで包んで渡してきた。
「泣きながら寝るから目が腫れてる。朝食、目玉焼きトーストでいい?」
タマは大きく伸びをしたあと、テーブルに置いていたメガネをかけて台所へと向かった。
良かった…いつものタマだ。
昨夜のメガネをしてないタマは色気がありすぎて心臓に悪い。
数日間、私は毎日描いていた漫画を全く描かずに過ごした。
テレビを見たり散歩をしたり……
時間が余り過ぎてヒマで死にそうだ。
テーブルを見ると私が描いた連載漫画の単行本が置かれていた。
「タマ、これ読んだの?」
「読んだよ。その二人可愛くていいね。応援してたんだけど…残念。」
本当はハッピーエンドにするはずだったんだけどね……
漫画家デビューしてからちょうど10年。
最初の頃は自分の描きたいものを描きたいように描いていた。
でもボツになることが多くなり、いつしか三田さんが好きそうなもの、読者にウケが良さそうなものばかり意識するようになっていた。
それでもここ一年、単発すら掲載されていない。
三田さんからことごとくダメ出しを食らってすっかり自信を失ってしまっていた。
純粋に漫画を描くことを楽しんでいた私はどこか遠くにいってしまった。
この二人……
やっぱりくっつけてあげたかったな……
単行本を手にため息をつく私に、タマが体を擦り寄せてきた。
なんだか落ち込むご主人様を励ますペットのように見えた。
「どしたの?タマ。」
「お姉さん、今日は俺とデートしない?」
「散歩に連れてって欲しいの?」
「……散歩じゃなくて、デートだからっ。」
「タマ、お手。」
「ペットじゃないからっ!」
ヨシヨシと体を撫でてあげたらすねてしまった。
ちょっとからかいすぎたかな。
タマとももうお別れしなきゃいけない。
私はもう…来週田舎に帰ることを決めていた。
なんでタマはこうなることがわかってて見たがるんだろう?
「ダメだっお姉さん!俺もう…怖いっ!」
「タマ…周りの人が見てるから静かにっ。」
スプラッター系のホラー映画……
タマは私にしがみつきながら目を閉じて、ほぼ画面なんか見ていなかった。
入る時に私は止めたのに…これは作り物だから大丈夫っとか言ってなかったっけ?
「うっわ──!血がっ血が!飛んでくるっ!!」
「飛んでこないからっ!」
周りの席の人達にひたすら頭を下げまくった。
「おいし〜いっ。」
さっきとは打って変わって上機嫌のタマ。
タマはスイーツバイキングのお店で甘いお菓子をパクパクと頬張っていた。
どうやら甘いものが大好きらしい。
可愛いスイーツがここまで似合う男子も珍しい。
「お姉さんさっきからパスタばっか食べてるけど、甘いの苦手?」
「うん…まあ……」
タマが入りたそうにしてたから付き合ったけど、私は甘いのは嫌いだったりする。
「お姉さん、あ〜ん。」
苦手なのをわかっているのに生クリームたっぷりのケーキを私に差し出してくるタマ……
仕方がないのでパクっと食べたけど、甘さ控えめで意外とおいしかった。
「結構いけるでしょ?」
タマのキラキラした笑顔に胸がキュンとなった。
タマといると本当に癒される……
このまま田舎に連れて帰りたい。
そんなこと無理なんだけど……
涙が出そうになってきた。
タマのスマホに誰かから電話がかかってきた。
「うん、わかった。ありがとう。」
電話をし終えると、メガネの奥の目が艶っぽく光った。
「お姉さん、もう出よう。」
椅子から立ち上がり、私の手をギュッと握った。
「どこ行くの?」
「いいところ。」
私に向かって意味ありげにウインクをするタマ。
さっきまでの子供みたいなタマとは全然違う、その色っぽい仕草にどう返していいのやら戸惑ってしまった。
早足で歩くタマに付いて行ってはいるけれど、いつの間にか私達はラブホテル街に来ていた。
なになに?なんなの…まさかまさか……
「あのホテルに入ろう。」
「えっ?ちょっとタマっ……」
引っ張られるようにホテルに連れていかれた。
ロビーでは部屋ごとのパネルが光っていて、いくつか消えている部屋もあり、その生々しさに目がチカチカした。
タマは302号室のボタンを押した。
なんなのタマ……なに考えてんだか全然わからないっ!
「なにお姉さん?別の部屋が良かった?」
「そんなんじゃなくてっ。」
「いいからおいで。」
タマは今度は私の肩を引き寄せて強引にエレベーターへと乗せた。
狭いエレベーター内。タマと体が密着している……
私はあの夜からタマのことを意識している。
メガネを外したタマの色気には正直、参りそうになった。
でもこんな急なのは困る……
私にも心の準備ってもんがっ……
「お姉さんの描く漫画、あんなに面白いのに全然掲載されないなんておかしいと思わない?」
…………はい?
なぜこのタイミングで漫画の話?
「そんなこと言われても…担当編集者からOKもらえないと社内コンペにも出してもらえないから……」
「知ってる。三田ってやつのとこで全部止められてたんでしょ?」
タマに三田さんの話、したことあったっけ?
タマはカギを受け取った302号室の前を素通りして、隣の301号室のドアをノックした。
「すいませ〜ん、フロントの者です。ご注文の料理をお届けに参りました〜。」
少し開き始めたドアをタマは蹴破って開けた。
「なっ、なにをするんだ?!」
部屋にいた男が叫んだ。
その部屋にいた男の顔を見てビックリした。
──────三田さんだったからだ。
「い、一花ちゃん?!なんでっ?」
なんでと言われても……なんでだろう……?
タマがわざわざラブホテルにいる三田さんのとこに私を連れてきた理由ってなに?
あれ……三田さんて確か妻帯者だよね?
小さなお子さんも二人いたはず……
「三田さ〜ん、どうかしたのぉ?」
奥の部屋から聞こえてきた甘ったるい女の人の声。
聞いたことのある声だった。
「あら…やだぁ。」
クスクスと笑う女性を見て、私は空いた口が塞がらなかった。
私から彼氏を奪い、連載漫画を打ち切りに追いやったあの南ちゃんだったからだ。
「この三田ってやつはその南ってのに言われて、お姉さんが持ち込んでくる漫画を故意にボツにしてたんだよ。」
えっ……?
タマの言うことが信じられない……
だって三田さんはデビュー当時からお世話になっていたのに。
南ちゃんだって、珠希と結婚するんでしょ?
「ごめんっ一花ちゃん!ボツにしないとこの関係を妻にバラすと脅されてたんだっ!」
「なに被害者ぶってんの?お姉さんが本来得るはずだった利益を奪ってるんだから、あんたも共犯だよ?」
三田さんが言うには、南ちゃんとは私のところにアシスタントにきていた時に、誘惑されて関係を持ってしまったらしい。
南ちゃんは連載漫画を持ちたいがために、私から珠希を奪って漫画を描けなくし、三田さんを上手く使って自分の漫画を私の後釜として無理矢理ねじ込ませたと言うのだ。
珠希とも一回の浮気だけで付き合ってもいなかったのに、付き合って仲良くしているとか結婚するとかの作り話を私に聞かすよう、三田さんに指示していたらしい。
三田さんは泣きながら全てを話してくれた。
南ちゃんは悪びれる様子もなく、タバコを吸いながら静かに傍観していた。
「君はなんでお姉さんにこんなことしたの?」
タマからにらみつけられ、南ちゃんはタバコの煙を大きく吐き出した。
「なにもかも持ってて幸せそうだったから。」
─────南ちゃん…………
「なにその理由?情状酌量の余地ゼロだね。」
タマは吐き捨てるように言った。
遠い目をしながらそう答えた南ちゃんが…私には泣いてるように見えた。
南ちゃんは元々は私のファンの子だった。
漫画家である私を尊敬していて、アシスタントになりたいと志願してきたのだ。
いつも私のことをうらやましいと言っていた。
自分にないものを全て持っているから私がすごくうらやましいのだと……
ある日南ちゃんから自分は幼い頃に両親を亡くし、孤児院で誰にも愛されずに育ったのだと聞かされた。
当時の私は連載を抱えていて時間に余裕がなく、寝不足でろくに話を聞いてあげられなかった。
その後すぐだ……
珠希から裏切ってしまったから別れようと言われたのは……
「ねぇ南ちゃん。引退するのは本当なの?」
私の問いに、南ちゃんは小さく煙を吐いた。
代わりに三田さんが話をし出した。
「私との関係が編集長にバレて……私も来週から別の部署に行きます。一花ちゃんが新しい担当に代わる前に、漫画家を続けることを諦めさせろと言われて……本当にすまない。」
そう言って三田さんは頭を床にこすりつけるように土下座をした。
「タマ……行こう。」
「えっ?いいのお姉さん、訴えたりとかしないの?」
「うん。いいの。わかったから。」
南ちゃんが今まで私にしてきたこと。決して許すことは出来なかったけど、不思議と腹は立たなかった。
それは多分きっと────────
「南ちゃんの漫画、面白かったよ。」
彼女も心から漫画を愛していたことを知っていたから……
南ちゃんは相変わらずタバコをふかしていたのだけれど、その目には涙がにじんでいた。
「お姉さん人が良すぎ。ほっぺたぶっ叩くぐらいしてやればよかったのに。」
部屋を出るとタマにブーブー文句を言われた。
そんなことをしても手が痛いだけだ。
「タマ…ありがとう。」
新しい担当編集者の元でまた大好きな漫画が描ける。
私にはそれで充分だった。
「あ、そうだお姉さん!」
「どしたの、タマ?」
「まだ時間余ってるからせっかくだし、やらしいことしよう。」
「しないからっ。」
302号室のドアを開けようとしたタマを止めた。
にしてもタマって何者なんだろう?
長年そばにいた私でさえ二人の関係なんてちっとも気付かなかった。
しかもその二人があの部屋にいるってのも知っていたようだし……
「……タマって大学生だよね?」
「あれ?ようやく俺に興味持ってくれた?」
今まで興味がないから聞かなかったわけではないのだけれど……
「大学生だよ〜4回生なったとこ。」
そう言ってタマは上着のポケットから学生手帳を取り出し見せてくれた。
タマの本名……
────轟 龍馬─────
「名前……ピカチュウじゃないじゃん。」
「俺、いつ自分の名前がピカチュウだなんて言った?」
だってキラキラネームだと思ってたから期待してたのに。
歴史上の人物と一緒なだけで全然普通だし……
まあ確かにタマの怖がりな性格からして完全に名前負けしてる節はあるな。
ふと大学名の方を見て超びっくりした。
そこには……
────東京大学、法学部────
と書かれていたからだ。
ととと、東大?
法学部って法律学んでるってことよね?
なに…タマってすっごい頭いいじゃんっ。
「ここを卒業した人達がどんな職業につくかわかる?」
「……弁護士とか…政治家とか?」
「まあそれもあるけど、俺の場合は警察官。」
「警察官?」
お巡りさんになるのってこんなに頭が必要だったっけ?
「お姉さんが想像してる警察官とはちょっと違うかな。俺が目指しているのは警察庁に採用されるキャリア組の方だから。」
キャリアって……
刑事もののドラマで地方の刑事達を見下して偉そうにふんぞり返ってるあの悪者役?
「お姉さん変な想像してない?実際はキャリアとノンキャリアってしてる仕事が違うし、対立なんてしてないからね?」
タマって私の心の中が読めるのかな。
「今回のは警察官の親父に協力してもらって調べたんだ。」
「お父さんもキャリア組なの?」
「いや…親父はノンキャリア。今も警視庁の捜査一課に務めてる凄腕の刑事だよ。」
なんか怖そうなお父さんだ。
タマを見てそんな父親がいるだなんて想像がつかないのだけど……
「やっぱり親父のような現場で働く刑事になりたいって言ったらぶん殴られたんだ。お前みたいな怖がりなやつに現場はムリだって。」
「お父さんの言うことは一理あるよ。犯人がゴキブリだったらタマは真っ先に逃げるでしょ?」
「……犯人が虫とか有る?それにその名前言うのやめてっ。Gって言って!」
ゴキブリって聞くだけで怖がるのはどうかと思う。
「……家出してみて、親父が俺を甘いって言った理由がわかったような気がする。俺は覚悟が足りてなかったんだ。」
タマは歩いていた足を止め、私と向かい合うようにして立った。
「夢が叶ってからも、さらに努力しなきゃいけないんだって…お姉さんを見て気付かされた。まだ学生の俺が、仕事の内容にケチつけるだなんて…つくづく子供だった。」
私を見つめるタマの目が、悲しげに揺れていた。
それを見て私は、もうタマとは一緒には居られないのだと悟った。
「家に帰るよ。キャリアを目指すにはまず、国家公務員採用試験に受からないといけないから勉強しないと。」
「もう…タマには会えない?」
これで終わりだなんて思いたくない。
タマとはたった二週間くらいしか一緒にいなかったけど、タマがいない生活なんて考えられなかった。
「……お姉さん…まだ、別れた彼氏のこと忘れられない?」
「なんでそんなこと聞くの?わからない?」
私はあなたのことが……
好きと伝えたいのに、涙があふれて声が詰まる……
タマは照れくさそうに笑いながらメガネを外した。
「言わなくていいよ…わかってる。確認したかっただけ。」
そう言って、ボロボロと流れる私の涙を拭い、そのまま顎を持ち上げ……キスをした─────
「落ち着いたら会いに行くよ……
迎えに行くから…待ってて。」
国家公務員採用試験は日本の中でも有数な難易度を誇る資格の一つで合格率はたったの5~6%。
高学歴の人がしっかり勉強し続けてきてのこのパーセンテイジなのだから、超難関試験なのである。
この試験を合格しても、警察庁に採用されるのはその中から毎年たったの15名程度……
キャリア警察官になるというのは、とても狭き門なのだ。
晴れてキャリアとして採用されたあとも、警察大学校で3ヵ月の研修、大都市圏での9ヵ月の見習い勤務が待っている。
いったい、タマはいつになったら落ち着くのだろうか……
私の新しい担当は山内さんという若い女性編集者だった。
私は山内さんに、今まで三田さんからボツを食らった原稿も全て見てもらった。
山内さんはすごく気に入ってくれて、とりあえず5つほど次の社内コンペで推してくると言ってくれた。
「山内さん実は……」
私は漫画家としてどうしても叶えたい夢があった。
連載漫画が中途半端に終わったために、くっつけてあげられなかったあの二人……
どうしてもハッピーエンドで終わらせてあげたかったのだ。
そう、私は…………
「あの漫画の…続編を描かせて下さいっ!!」
私より年下の女性編集者に、深々と頭を下げてお願いした。
描いたところで掲載されると決まるわけではない。
でも山内さんの協力がなければ日の目を見ることも有り得ない。
頭を下げ続けたまま山内さんからの返事を待っていたのだが、シクシクと泣き声が聞こえてきたので驚いて顔を上げた。
「私あの漫画の大ファンだったんです〜。まさか私の担当であの二人の続きが読めるだなんて…感激です。」
山内さんは私の手を両手で強く握った。
「頑張りましょう一花先生っ。私も意見をバンバン言わせて頂きますからっ!」
この人とならまた一つ、夢が叶えられると思った。
─────あの単行本の続きが描けそうだよ。
タマにメールで送ろうとしたのだけど止めた。
タマと別れてからまだ五日しか経ってない……
勉強の邪魔になるようなことはしたくない。
タマからメールくれたらすぐ返すのにな……
「……会いたいなぁ。」
─────確かに私はそう言った。
神様に切実に祈ったわけじゃない。
なんとなくつぶやいただけだったのに……
「また親父に殴られた!」
家に帰るとタマがいた。
会えるのは嬉しいけど…早すぎやしない?
「今度はなんで殴られたの?」
「惚れた女に寂しい思いをさせるなんて、そんなの男がすることじゃないって。」
なかなか男前なことをいうお父さんだ。
「……だから…お姉さん家にずっといてもいい?」
捨て犬みたいな目で私におねだりをしてくるタマ……
ダメだ…すっごく嬉しくて顔がニヤける。
「し、仕方ないなぁもう。」
「やった──っ!お姉さん優しーいっ!」
誰しも子供の頃に憧れた夢があると思う。
でも、その夢を叶えられるのはほんのわずかな人達だけ。
そのわずかな人達でさえ、じゃあ幸せなのかと聞かれればそうじゃない。
夢と現実との差にもがき、苦しんでいたりする。
だからといって辞めたりなんか出来ない。
だって、子供の頃の自分に聞かれたらどうする?
なんで辞めちゃうの?
せっかく夢が叶ったのに?って……
夢に向かって努力していた子供の頃の自分を裏切ることなんて出来ない。
失望したって、やりたくないことをやらされたって心を腐らせてる場合じゃない。
だってこれは……
私がずっとなりたかった
夢なのだから────────
タマは国家公務員採用試験に難なく合格した。
思った以上に相当頭が良いらしい。
タマは一歩夢へと近付いた。
性格の方は相変わらずなのだけど……
「わ────っ!お姉さんっ出たぁ!」
またか……
私は近くにあった雑誌を丸めてタマのいる台所へと向かった。
「Gはどこ?」
「今度は違うっ!そこにいるアイツっ!
濃いグレーの毛が全身に生えた丸いモノが壁際にうずくまっている……
「ネ、ネズミは私もムリっ!」
「じゃあどうすんの?!俺、アイツがいたら台所に近づくのさえマジでムリだよ?!」
「タマ警察官なるんでしょ?犯人がネズミだったら捕まえなきゃダメでしょ?!」
「犯人がげっ歯類とか有るっ?それに俺がなりたいのは現場じゃないから!」
ネズミがこちらに向かって突進してきたもんだから、タマと一緒に後ろにすっ転んでしまった。
いっ、痛い……
連載が決まったらこんなボロアパート、絶対引っ越してやるっ!
「最終兵器…親父を呼ぼう。」
「こんなんで呼んだら私まで殴られるからっ!!」
タマと私の夢が叶うかどうかなんて、まだまだ先のお話なのだけど………
「お姉さん、今日も一緒の布団で仲良くしようね〜。」
「……特大号の〆切近いから、1回だけにしてね。」
「それは俺の息子に聞かなきゃわかんない。」
「タマ、描きにくいからベタベタくっつかないの。」
「じゃあ今夜は寝かさない。」
二人の最終話はとっくにラブラブハッピーエンドを迎えております。
やっぱり物語は、
ハッピーエンドじゃなくっちゃねっ。




