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アンバーの瞳  作者: 尹茅
story:3 色番外
24/27

湊鼠-4


「ごめんっ、桐生さん!」

「……大丈、夫」


 抱き着いてきた七瀬を素早く引きはがした能登は、困惑の表情のまま固まった奈津の目の前でばっと頭を下げた。なぜ能登が謝るのだろうという疑問はありはしたものの、奈津は大人しく能登の謝罪を受け入れる。


「こいつの行動の大体には悪気はないんだけど、ちょっと唐突すぎるというか、勢いが良すぎるというか」


 能登の苦しいフォローの言葉に、隣の七瀬はあからさまに不満そうな顔を隠そうともしない。見かねた能登が片手で七瀬の頭を押さえようとするものの、七瀬は栗鼠を思わせる素早い動きでするするとかわしていた。

 そのままちゃっかり奈津の背中に逃げて、能登にべっと舌を出す。


「仕方ないじゃんっ、桐生さんの笑顔なんてレアもの見れたんだから」


 その言葉に、奈津はふと教室で笑ったことはあっただろうかと記憶を探る。

 今まで過ごしてきた高校二年間を振り返ってみるものの、笑った記憶なんて数えるほどしかないんじゃなかろうか。そうして数えるほどの笑顔を浮かべたシーンを思い返してみると、ほとんどと言っていい割合でアイツ(朔夜)が出てくる。

 そのことに思い至って難しい顔をした奈津を見て、七瀬は無邪気に首を傾げた。


「桐生さん、最近すごく雰囲気柔らかくなったし、今ならクラス会にも来てくれるかなって能登と話してたんだ。来てくれて嬉しい」


 能登に負けず劣らずの真っ直ぐな好意に、奈津は思わず赤面する。教室内において、朔夜関係以外で自分が純粋に誰かに気にかけられていたなんて、思いもしたことがなかった。

 こういうやりとりに慣れていなさそうな奈津の赤くなって戸惑う様子に、七瀬は再び悶えそうになるのをぐっとこらえた。


「ね、桐生さんが可愛くなったのってさ、やっぱり朔夜が原因だったりするの?」

「っ!?」


 そうして興味とほんの少しの悪戯心を加えてされた七瀬の質問は、落ち着こうとグラスに手を伸ばした奈津に見事にクリティカルヒットした。ぐっと言葉に詰まってますます赤くなる奈津の何とも女の子らしい一面に、奈津を見るふたりの視線が一気になまあたたかいものになったことに当人は気が付くはずもなく。

 手にしたグラスがすでに空であることを見て取った奈津は、これ幸いとこの場から離脱することを決めた。


「の、飲み物! 取ってくる」


 奈津が孤立しないようにと話しかけてくれたふたりの心遣いはとてもありがたかったけれど、奈津はいまだに朔夜のことを聞かれてもほぼ何も答えることができないのだ。

 それは人気者の『朔夜』とつき合っているという実感のこもらなさだったり躊躇いだったりしたけれど、大部分はそのことを話すと必然的にこれまでのあれこれを思い出して恥かしさで居たたまれなくなるというなんとも言えない理由からだった。


 赤い顔をした奈津がらしくない性急さで部屋の外へと逃げていくのを見守った能登は、奈津に話しかけてからずっとそれとなくこちらの様子を伺っていた人物へと振り返る。部屋の中心の賑やかな輪を離れてずんずんと歩いてくる人物――、朔夜の勢いに、思わず後ずさって七瀬の腕を引いた。


「……何、話してたの?」


 きれいに微笑みを浮かべる朔夜は一見、全くのいつも通りなのにそれがなぜか逆に怖い。笑顔なのにぴりぴりとした威圧感を放つ朔夜にそこはかとない恐ろしさを感じたふたりは、冷や汗を流し慌てて弁明を開始した。

 最近の奈津がぐっと話しかけやすくなった、と聞いた朔夜は変わらぬ笑顔のままだったけれど。一層増した威圧感に、七瀬は朔夜の不機嫌の理由を知る。


「もしかして朔夜、桐生さんが他の人に取られるかもって思ってたり?」

「七瀬!?」


 隣でぎょっとした顔をする能登を気にかけることもなく、にまにまとした笑みを隠さずに朔夜をからかいに行った七瀬。

 じいっと朔夜を見つめる七瀬の視線から、朔夜はふいと眼を逸らした。よく見なければ分からないけれど、染めた髪からのぞく耳朶がほんのりと紅く染まっているのを恋話好きの女子というイキモノである七瀬が見逃すはずもない。


「ソクバクする男は嫌われるよ~」


 そう嘯く七瀬は、もう完全に面白がっている。

止める気力もなく七瀬と朔夜のやり取りを眺めることにした能登は、その後ろから新たな闖入者が登場するのもそのまま静観することにした。


「その通りだ。言ってやれ、七瀬!」

「うわ、宮代にまで言われるって、桐生さんのこと可愛がり過ぎなんじゃん?」

「……余計なお世話」

 

 朔夜の後ろからひょいと顔を出した青葉の加勢に、七瀬はむしろ呆れの表情を浮かべる。一気に機嫌が悪そうになった朔夜の珍しい姿をクラスメイトの女子どもには見せないように身体で隠している青葉に感心しつつも、七瀬は手首に巻いた腕時計を確認した。

 そうしてちょうどドアが開いて奈津が入ってきたのを認めると、ぱっと身をひるがえして静観していた能登を引っ張り出す。


「ほら、時間。そろそろでしょ?」


 言われて気が付いたらしい能登が、慌ててクラスメイトたちに解散を告げに行くのを見送ってから、それとなく朔夜たちの方へ聞き耳を立てる。

 真っ直ぐに朔夜のところに帰ってきた奈津は、どうやら七瀬たちと何の話をしていたのか聞かれているらしい。答えない奈津にもどかしい思いをしているのが丸分かりの朔夜の声音に、七瀬はひとり、こっそりと笑みを浮かべた。



こんにちは!

珍しく午前の投稿です。


あと1話でひとまず湊鼠は終わる予定になってます!

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