↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼は今日も壁打ちをくりかえす  作者: 津山直太


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/18

第18話 ぶり大根は意外と簡単

「綾乃さん、こんなに頻繁におじゃまして申し訳ないです」


 深々と頭を下げて、ちょっとお高めのプリンの入った紙袋を差し出す。


「気を使わなくてもいいのに。直人君のことは気に入っているから、大歓迎よ」


 綾乃さんの後ろから手が伸びてきて、紙袋が消えた。


「わー、これって、この前デパ地下で見ていたやつだよね! あっ、だから少し遅くなったんだね」


 紙袋の中を確認した美里さんが、綾乃さんの肩から顔をのぞかせた。


「お疲れ様です」

「ん、お疲れ! お腹空いているでしょ、入って」


 前に出てきた美里さんはスーツではなく、ジーンズにTシャツ姿だった。一度自宅へ帰ってから来たようだ。


 リビングに入ると、綾乃さんがテーブルに料理を運んでいた。美里さんは、 冷蔵庫を開けてプリンを並べる。


 大きめの皿に盛られた「ブリ大根」「卯の花の煮物」「焼きナス」「ほうれん草と小松菜のお浸し」が並べられていく。


 どれもこれもが旨そうだ。一人暮らしだと、和食はそうそう食べないから、今から食べるのが楽しみだ。


「直人君はご飯にする? それともビールがいいかな?」


 おひつをテーブルに置いた綾乃さんに聞かれる。


「ビールでお願いします」

「ご飯が食べたくなったら、セルフでよそってね。沢山食べる子がいるから、おひつが空になってるかもしれないけど」


 味噌汁の入った椀を持ってきた美里さんが綾乃さんを睨む。


「いくら私だって、そんなに食べないもん」


 オレの向かいの美里さんが座り、その隣に綾乃さんが座る。


 全員が席に着いたのを確認した美里さんが手を合わせる。


「いただきます」


 オレと綾乃さんも「いただきます」と言って、缶ビールで乾杯をした。


 それを見た美里さんが、なぜかお椀を差し出してきたので、缶ビールをコツンと当てる。


「うまっ!」


 大根を食べた瞬間に声が漏れた。


「ほんとに?」


 美里さんが腰を浮かせて、少し大きな声を出す。


「味がしっかりしみていて、口の中でほどけるような食感がいいですね。オレ、これ好きです」


「好きだってさ、美里」


 綾乃さんがからかうように言って、美里さんの肩を叩く。


「直人君、それね美里が作ったんだよ。直人君のために」


 美里さんの方を見ると、笑顔の見本のような表情をしていた。


「本当に美味しいです、美里さん。えと、ありがとうございます」

「よかった……。出先から直帰したかいがあったよ」


「ん? 帰社する時間が遅くなるから直帰したんじゃないんですか?」

「今日のクライアントがこっちの方だったから……往復時間がもったいないなって。あはっ」


「松岡課長に叱られますよ」

「これから、サービス残業の会議をするからちゃらよ。ちゃら」


「そういうことにしておきますか」

 オレは焼きナスを皿に取り、すりおろした生姜をのせ、少しだけ醤油をたらす。


「ナスって、秋の食べ物じゃないんですか?」

「ナスは夏も旬よ。夏ナスはしっかりした食感で、秋ナスは柔らかいのよ。煮物とかカレーとかは夏ナスの方がいいのよ」


「知らなかったです」


 皮がむかれた焼きナスは口の中でとろけた。


 向かいに座る美里さんは、ご飯の上にブリを乗せて、ご飯をかきこんでいる。


「このおひたし、出汁でしっかり味が入っているんですね」

「そうよ。いきなり醤油をかけちゃう人が多いけど、直人君は違うんだね」


「そのままで食べてみないと、どれくらい醤油をかければいいか、わからないですよね?」

「ふふふ。そのとおりね」


 オレは、何か変なことを言っただろうかと、首を傾げた。


 缶ビールを一缶飲み終わるころに、美里さんが二杯目のご飯を食べ終わった。


「直人君、その料理だと日本酒が飲みたくなるでしょ? 美里も飲む?」

「私は梅酒がいいな」

「オレは日本酒でお願いします」


「よし、腹……七分目? になったから、AIのお話を始めようか」


 若干食べ足りないらしい。


「そうですね。美里さんは営業で困ったなとか、面倒だなって思うことあります?」

「どうだろう……」


「えーと。仕事で悩んでいることとか」

「うーん」


 松岡課長、人選ミスじゃないですか?


「あっ! 私、担当者が男の人だと緊張して、話せなくなることがある」

「……トラウマみたいなやつですか」


「うん。慣れたら大丈夫なんだけど。たまに、ダメな人もいてね」

「そんなときはどうしているんですか?」


「松岡課長が担当先を変えてくれるんだよね」


「あの人、ただのおちゃらけキャラじゃないんですね。知ってはいましたけど」


 綾乃さんは話を聞きながら、おひつに残ったご飯でおにぎりを握っている。


「直人君、こんな話でAIの会議になるのかな?」

「いいんですよ。AIで何をするのかじゃなくて、AIに何をさせるのかなので。普通に出来ていることもAIを通すことで楽になったり、精度が上がったりするので」


 おひつの蓋にのったお握りを美里さんに差し出しながら、綾乃さんがオレに問いかけた。


「それじゃあ、AIにレシピの検証とかもさせられるの?」

「ユーザーが料理の知識と経験があれば出来ると思いますよ」


「素人じゃダメなの?」

「ダメではないですけど、プロがAI使ってこそ意味がある部分が大きいんですよね」


 そういう意味で、美里さんの問題はAIでは解決できないんだよな。


  オレは別のアプローチがないかと虚空を見つめていると、美里さんがおにぎりを一つ差し出してきた。


「直人君、はい。おにぎり」

「あっ。ありがとうございます」


 美里さんの笑顔は守りたいよな。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。