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役目を終えたオカン系勇者の現実スローLIFEはままならない  作者: ほしのしずく


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第34話 トイレでハプニング?!

「おお! トール! これで助かったぁぁー」

 

「って、あぶな! なんやこれ!?」

 

 転移した瞬間、あまりの惨状にトールは反射的に浮遊魔法を発動した。

 

 転移先は、一階の男子トイレ。

 

 本来なら、百貨店らしい清潔感のある大理石調の床が広がっているはずだった。


 だが――。

 

「……なんでこうなったんや」

 

 床には膝下ほどまで水が溜まり、出入り口は土魔法で封鎖されている。


 さらに、個室の一つは無残にも大破していた。

 

 さすがのトールも思考が一瞬止まる。

 

 やばいものを目にしたとき、人は言葉を失う。

 

 トールも例外ではなかった。

 魔王と初めて対峙したときも、宏斗の全力を見たときも、その凄まじさに絶句した。

 

 ――だが、まさか日本のトイレで同じ感覚を味わうとは。

 ……いや、意味合いはだいぶ違うが。

 

「と、トール! 早く助けてくれんか! 儂のケツに強烈な水がだな――」

 

「うん、それは送ってきたから知ってる」

 

 ドンテツのメッセージは途中で途切れていた。

 

 “水を流した後にケツに強烈な水が――”

 

 おそらく初めてのウォシュレットに戸惑っているのだろう、とは思っていた。

 

 ――だが、これは想定外だ。

 

「あ、あのだな……儂もどうにかしようとしたんだ! 水を止めようと、横のボタンを押したり、手で押さえたり……だが、無理だった……」

 

 全身ずぶ濡れのドンテツが、今にも泣き出しそうな顔で訴える。

 

「手ぇか……そうかいな……」

 

 本当なら怒りたい。

 だが、その姿を見れば、必死だったことは嫌でも伝わってくる。

 さらに、出入り口を土魔法で塞いで被害を抑えている点も評価すべきだ。

 

 結果として被害は、破壊された個室一つと水浸しの床――そして、見るも無惨なドワーフ一人。

 

「しゃーないな……ちょっと下がってて」

 

「わ、わかった!」

 

「創造(クリエイト)、清掃(クリーン)」

 

 トールは右手で破壊された設備を修復しながら、左手で水を一掃する。ついでにドンテツの全身も綺麗にした。

 

「……見事だ。一時はどうなることかと……儂、あのままやったら……ズズッ」

 

 鼻を啜る音が聞こえたが、トールはあえて触れなかった。

 ――これは、心にくるやつだ。

 

「どうする? 一応綺麗にはなったけど、買い物続ける? それとも一回帰る?」

 

 本音を言えば、全員で買い物を楽しみたい。

 だが、ドンテツの状態を考えると無理はさせたくない。

 

「……儂は大丈夫だ。お主に綺麗にしてもらったしの。まぁ、当分トイレは遠慮したいが」

 

「そ、そうか。ほな今度、家で使い方教えたるわ」

 

「あ、いや……もう横のボタンは押さん……絶対にの……」

 

「ははは……まぁ、そうなるか」

 

 

 ☆☆☆


 

 五階のたこ焼き屋。

 無事に合流した一行は、老舗【はっちゃん亭】を訪れていた。

 ソースの香ばしい匂いが漂い、店内は賑やかな声で満ちている。

 

「うふふ♪ では、やはり塗れになっていたのですね」

 

「くそっ……こやつにだけは知られたくなかったのに」

 

「くそって! うふふ……」

 

 ドンテツは悔しそうにおしぼりを握りしめる。

 それを見かねて、チィコが立ち上がった。

 

「まーまー! そんな怒らないで! カルファも、しつこいのはよくないよ?」

 

「チィコはええ子やなぁ……ほんま、どっちが年上かわからへんわ」

 

 学校に通い始めてから、チィコは見違えるほど成長している。

 何が良くて何が悪いか、自分で考えられるようになっているのだ。

 

(将来が楽しみやな……)

 

 そう思う一方で、隣を見れば――。

 

「そんなー……私だって褒めて欲しいです!」

 

 カルファは完全に別ベクトルで成長していた。

 

(ほんま、ややこしいな……)

 

 とはいえ、言うべきことは言わねばならない。

 

「ああもう……ちゃんと凄いとは思ってる。でもな、もう少し自重せなあかん」

 

「うえーん! トール様が怒ったー!」

 

「カルファ、謝らないとだめだよ?」

 

 チィコのフォローまで完璧だった。

 

(立派や……ほんまに立派すぎる)

 

 トールが目頭の熱をこらえていると、

 

「ズズッ……立派になったの」

 

 隣ではドンテツが普通に泣いていた。

 

(あかん、収拾つかへん)

 

 昔もこんな感じだった気がする。

 

 チィコの成長を見るたび、二人で泣いていた。

 

(……家族みたいやな)

 

 一瞬そんな考えが浮かび、

 

(いや、僕が母親になるんは違うやろ)

 

 と即座に打ち消す。

 

「どうかしたの?」

 

「あ、いや……なんでもない。なんか、僕ららしいなって思ってな」

 

「ふ~ん♪」

 

 チィコは楽しそうに笑った。

 世界を救うのもいい。

 だが、こういう日常も悪くない。

 

(……いや、むしろこっちの方がええかもしれんな)

 

「トール、早く注文しよ!」

 

「ごめんごめん、はよ頼まなあかんな」

 

「私はイカ焼きがいいです!」

 

「また変なこというエルフだの。ここはたこ焼き屋だぞ……儂はビールで」


 だが、カルファは一歩も引かない。

 

「いいんです! 私はイカ焼きがいいんです! というか、貴方だって、ビール頼んでいるじゃないですか?!」


「酒は、いいんじゃ!」

 

 相変わらずのやり取りに、トールはため息をついた。

 

(ほんま、大きい子供ばっかりやな)

 

「ほな、注文するで」

 

「「「はーい!」」」

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