第25話 職を求めて
ある日の平日。
鉄の国アイアンに工房を持つドワーフ族、ドンテツは、職を求めて街に出ていた。
年齢は三十。本人は若いつもりだが、よく年齢がわかりにくいと言われている。
ひょんなことから勇者一行の仲間となり、冒険の日々を経て魔王討伐を果たした。
得意とするのは土魔法。鉱物を生成し、味方の防御力を高める守りの要だ。
(トールは「今のままで問題ない」などと言っていたが、そうはいかんしな)
キッチンで夕飯の支度をしながらも、トールは包丁を止めることなく、いつも通りの軽い口調でそういった。
本心から言っているからであろう。
その顔も優しく、全く嫌味も感じなかった。
しかし、だからこそ――。
「世話になりっぱなしなど、ドワーフとしてありえん」
元々、ドワーフは働くことが好きな種族。
食わせてもらって終わりとはならない。
特にドンテツは、その傾向が強かった。
(まぁ、案外、外での暮らしも悪くはなかったしの)
そう心の内で呟きながらも、ドンテツはこの世界での生活を思い返す。
(公園……なかなかにいい場所であった)
これまでドンテツは、公園と呼ばれる場所を転々としながら寝泊まりしてきたし、念のため土魔法の大地生成で簡易な住居を作り、トールから教わった隠蔽魔法も施していた。
(だというのに、野盗も魔獣も襲ってこんのだからな)
それどころか、トイレや水飲み場まで備わっており、また朝になれば人々が犬を連れて散歩し、穏やかに言葉を交わす。
昼には老人たちがゲートボールなる遊びに興じ、夕方にはチィコと同じくらいの子供たちが駆け回る。
なんと平和で、居心地の良い世界か。
(まぁ……カルファなら発狂しておるかもしれんがの)
三度の飯より風呂が好きな、綺麗好きのカルファのことを思い浮かべて髭を触る。
――だが、それも今日までだ。
書店の店員になったカルファに続いて、チィコが学校に通うことになった。
この世界で生きる道を見つけていないのは、ドンテツだけとなるのだ。
(となれば、儂も覚悟を決めて動かねばならん)
ドンテツは魔法で隠していた仮住まいを風化させ、元の土へと戻すと、一週間前に渡されたスマホを取り出した。
カルファのものとは違い、「かんたんスマホ」と呼ばれる機種で、余計な機能を省いた扱いやすい代物だ。
(やはり、トールはよく見ておる。そういえば、ネットとやらで仕事を探すといいと言っておったな)
それは街に出て行く時に、教えてくれたこと。
現地に訪れて頼み込むより、効率的で見つけやすいということであった。
不採用でもすぐ次へ移れる。確かに合理的だ。
だが――。
(効率というものは、あまり好かん)
ドンテツの矜持がそれを否定した。
仕事とは、本来、自分の目と耳と肌で見極めるものだ。
けれど、伊達に馬の合わないエルフ、カルファといるわけではない。
(とはいえ、この国にはこの国の流儀があるしの、郷に入っては郷に従え、というやつだの)
その国、土地に沿ったルールを守ることも、大切なこと。ドンテツの頭は、ドワーフにしてはとても柔らかくなっていた。
ドンテツはスマホを操作し、働きたいと感じた店の名を打ち込んだ。
「月乃屋……だったな」
「目的地へ案内します」
「ほう、これがナビというやつか」
(話には聞いていたが、地図アプリの機能は実に便利だの)
目的地までの距離、時間、進むべき方向――すべてが表示される。
(冒険の最中にこれがあれば、どれほど楽であったか)
空を見つめて、そうぼやきつつも、ドンテツはナビに従い、公園を後にし、歩き始めた。
目的地の月乃屋は、ここから徒歩三十分ほどの場所にある商店街の一角にある。
創業百二十年の老舗だと、事前に調べていた。
だが――。
「ぬう……どちらへ進めばよいのだ?」
高層の建物が立ち並ぶ場所に差し掛かると、ナビの矢印が不規則に動き始めた。
「およそ七百メートルで右手前方向に曲がって下さい」
「それはわかっておる。だが、その“右手前”がどちらなのだ?」
「およそ七百メートルで右手前方向に曲がって下さい」
「だから、それがわからんのだ!」
何度問いかけても、同じ言葉しか返ってこない。
(……困ったものだ)
ナビは便利だが、融通が利かない。
このままでは目的地に辿り着けそうもない。
ドンテツは一度ナビを切り、電話帳を開いた。
カルファやトールは文字でのやり取りを器用にこなすが、ドンテツには指が太すぎて扱いづらい。
(やはり、声でのやり取りの方が楽だの)
「カルファに連絡するか……いや、あやつは仕事中だな。トールも役所に用事があると言っておったし……」
しばし思案する。
そして、再び地図アプリを開いて、一文字ずつ間違えないように入力していく。
表示したのは、チィコの通う学校だった。
「ほう……ここから二十分ほどか」
一週間も公園を渡り歩いていたというのに、意外と近くだった。
(ならば――)
「まずは、学校へ向かうとするか」
ドンテツは進路を定め、チィコの学校のある方向へと歩き出した。




