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役目を終えたオカン系勇者の現実スローLIFEはままならない  作者: ほしのしずく


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23/41

第23話 類は友を呼ぶ

 一週間後。子供たちの賑やかな声が響く教室の中。

 

「じゃあ、やっぱり穂乃花もトールの役に立ちたかったわけかー」

 

 チィコは、机をくっつけた穂乃花と給食を一緒に食べていた。

 今日の献立は、豚汁と豆ご飯、切り干し大根の煮浸し。

 パンは自分たちの世界にもあったし、牛乳と合わせるのにも違和感はなかった。

 

 けれど、この献立に牛乳を合わせる感覚だけは、どうにもまだよくわからない。

 

 とはいえ、おかずもご飯も相変わらず美味しかった。

 ちなみに、呼び方についてはもう敬称をつけない仲になっている。

 

「はい! トールお兄様の役に立つことが、何より一番嬉しいことですから! もちろん、私だけではなくて、施設出身者なら皆そう思っているはずです。トールお兄様は凄くてですね――」

 

 最初こそチィコの質問攻めを嫌がっていた穂乃花だったが、今では一つ問いかければ三つ四つと返ってくる。

 

 もっとも、その大半は“トールについて”なのだが。

 

「チィコ、ちょっと聞いていますか?」

 

「えっ、あっ、うん! 聞いてるよ! トールが凄いって話だよね?」

 

 チィコが苦笑い混じりに返すと、穂乃花はぱっと笑顔を弾けさせた。


「そうです!」

 

 そのやり取りが面白いのか、クラスメイトたちは「まーたやってる」とか「仲良しだよね」とか、好き勝手に言い合っている。


(また、この流れだ……)


 もはや、定番となってしまったやり取りに、辟易とするチィコ。

 

(仲良くなってみてわかったけど、ここにいる子供たちは、自我がないわけじゃないよね。ただ優しいって感じかなー)

 

 けれど――。

 

「トールお兄様って、全てが完璧なんです! 容姿も、あの関西弁も、そして優しくて強い! 完璧ですよね?」

 

 穂乃花を筆頭に、トールの話が始まると止まらない。


(なんていうか……ちょっと恥ずかしいや) 

 

 これがきっと、トールの心配していたところであり、自分が穂乃花に少し似ていると感じた理由なのだろう。


 チィコは、ふと冒険の途中で、トールがよく口にしていた言葉を思い出す。

  

(なんだったっけ?確か、「人の振り見て我が振り直せ」だったよね)

 

 意味は、そのままだ。

 人を見て、自分を省みること。

 

「これが、他の人から見たボクってこと……だよね……少し気を付けよー……」

 

 穂乃花がお喋りに夢中になっている姿を見ながら、チィコはそっと心に刻んだ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 色んな刺激を受けながら、迎えた土曜日。

 

 チィコはクラスメイトたちと、星屑の里、その施設内にある公園でドッジボールという球遊びをしていた。

 

 戦力が偏らないように、チーム分けは人族と獣人族が半分ずつ、全員と話し合ってきめた。


「おっと!」


 飛んでくるボールを華麗に躱していると、それがリンゴに見えて、ふと授業の内容が浮かんだ。

 

(確か数字で言うなら、五十パーセントと五十パーセントだったよね……?)


「って、なに言ってんだろ♪ ボク」


 いつの間にか、算数をごくごく自然に使っている自分がおかしくって、チィコはクスリと笑う。


(……冒険も戦いもない日々は、少し退屈かなーって思ってたけど――)


「これ、楽しいじゃん!」


 自然に浮かんでくる苦手な算数も嫌じゃない。 

 なんだったら、体育の授業より、ずっと面白い。


 そんな思いがチィコの胸を暖かくする。

 

「おーい! そっちにボール行ったぞー!」

 

 コートの外から味方チームの男の子が叫ぶ。

 

「はーい! ボクに任してー!!」

 

 チィコは飛んできたボールを滑り込みながら掴み、そのまま勢いよく宙返りして体勢を立て直す。

 

 そして、全体重を乗せるようにボールを投げ返す。

 

 狙うのは、相手コートに残った最後の一人――獣人の少年。

 

「いっけぇぇぇーー!」

 

 ボールは風切り音を上げながら一直線に飛んでいく。

 

「うわぁぁー! なんで毎回ボールの形変わるんだよぉぉーー!」


「ふふーん♪ だって、ボクだからね!」


「なんだよ、それぇぇぇーーー!」

 

「私に任せて!」

 

 諦めかけていた男の子の前に飛び出してきたのは、額を光らせたぱっつん前髪の少女――穂乃花だった。

 

 彼女はとっくにアウトになって外野にいるはずなのに、なぜかコートの中に踏み込んでいる。

 

「穂乃花! な、何考えてるの!?」

 

「大丈夫です! 私は信じていますから!」

 

「いや、意味わかんないから! んもう!」

 

 チィコは力いっぱい地面を蹴り、ボールより速く穂乃花の前へ飛び込んで、自分が投げたボールを掴む。

 

「ふぅー……間に合った!」


 チィコの手の中に、収まったボールは、キュルキュルと音を立てながら、勢いを失っていく。


 相手が獣人だとわかった上で、放った一発だった。

 だというのに、穂乃花は割って入ってきた。


(ほんと、なに考えてるんだろう……穂乃花じゃ、怪我しちゃうのに……)


 チィコが、ボールを見つめ首を傾げていると、その穂乃花の声が響いた。

 

「ふふっ! 作戦大成功です!」


 そして、次の瞬間。


 チィコの背中に何かが当たった。

 

 ――ボスッ。 

 

「えっ?」

 

 振り向くと、持っていたはずのボールとは別のボールが、後ろに転がっていた。

 

「ど、どういうこと?」

 

「ふふん! チィコ、あなたが強すぎたので、皆に一芝居打ってもらいました!」

 

「芝居? っていうか、なんでボールが二つあるの!?」

 

「むしろ、なぜ一つしかないと思ったんですか?」

 

「……いや、普通はそう思うでしょ」

 

 穂乃花は得意げに、しわの寄ったルールブックを掲げる。

 

「ダメダメですね! ルールブックには、シングルドッジボール、ダブルドッジボール、マルチドッジボールの三種目があるんです。そして今回は、どの種目をするか最初に決めていませんでした。つまり――二つでも問題ないということです!」

 

「なにそれー……むちゃくちゃだよー……それってさ、どうやっても勝ち目ないじゃん」

 

「そんなことはありません! きちんとルールブックを読んでいれば、気付けたはずですから!」

 

「うげぇ……なにそれ、カルファみたい」

 

 チィコが嫌味を込めて言っても、穂乃花はまるで気にしない。

 

「光栄です!」

 

 どうやら穂乃花は、チィコの話に出てくるカルファのことが気に入っているらしい。

 

(最初は、ボクに似ていると思っていたけど……なんかカルファに近い気がしてきた)

 

 トールを様付けで呼ぶし、理屈っぽい。

 きっとここにドンテツがいたら、「カルファにそっくりだの」と渋い顔をしていたに違いない。

 話せば話すほど、チィコはそう思っていた。

 

「そ、そう……あはは。光栄なんだー……」

 

「はい!」

 

 もう、どれだけ引いてもまったく堪えない。

 いや、たぶん引かれていることにも気づいていない。

 チィコがその反応に呆れていると、背後から聞き覚えのあるエンジン音が近づいてきた。

 

「お、なんや。楽しそうにしてるやん」

 

 振り向くと、バイクにまたがったトールがいた。

 

「あ、トール! って、ここにトールが来るってことは……」

 

「うん、時間やね」

 

 トールは頷きながら、公園の中央に立つ時計台を指差した。

 チィコが目を向けると、針は門限の十八時を示している。

 

「えっ、もうこんな時間?」

 

 獣人族の感覚からすれば、日本に危険な場所などほとんどないように思える。

 

 だが、トール曰く、そういう問題ではなく、子供は早く帰って早く寝た方がいいらしい。

 

(理由はよくわかんないけど)

 

 けれど――トールの作る、温かいご飯のことを思い出すと、それも悪くない気がしてくる。

 

「ほら、帰るで? 今日はチィコの好きなオムライスや」

 

「お、オムライス!」

 

 バターで炒めた玉ねぎと鶏。

 そこにコリコリしたマッシュルーム。

 甘酸っぱいトマトケチャップ。

 そして、ふわとろの卵。

 食べたい。

 今すぐにでも。

 

「ボク、帰る!」

 

「こらこら、その前にやろ?」

 

「あ、そうだった!」

 

 チィコは背筋を伸ばして皆を振り返る。

 

「今日も楽しかったー! またねー!」

 

「いい子や、ようできた」

 

 トールの大きな手が、頭を撫でる。

 

「えへへー、ありがとう」

 

 昼から集まって、気づけばもうこんな時間。

 楽しい時間というのは、本当にあっという間だ。

 

「トールお兄様!」

 

 しみじみしていたチィコの横を、穂乃花が勢いよく駆け抜けていく。

 

 それに続くように、ここにいた子供たちも次々とトールの元へ向かった。

 

「おー、よしよし! 皆、仲良くやってるみたいやな!」

 

「はい! 皆仲良くやっています!」

 

 一番にトールの前へ辿り着いた穂乃花は、トールがバイクから降りるのを待って、おでこをぴかりと光らせながら抱きついた。

 

 この光景を初めて見た時は、トールを取られたような気がして、少し嫌だった。

 けれど、今は違う。

 

(なんていうか……姉妹みたいかも)

 

「トール兄ちゃん、俺もー!」

 

 後ろにいた男の子も続く。

 それをきっかけに、他の男の子たちまで次々に抱きついていく。

 穂乃花が姉妹なら、この子たちは兄妹みたいなものなのかもしれない。

 血が繋がっていなくても、種族が違っていても。

 

「……皆、一緒だね」

 

 チィコはそう呟きながら、トールと一緒に、皆を施設まで送り届けた。

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