第十四章
ーーー私はレイシア。
レイシア・ヴァルグレイン。
ヴァルディア建国の日から国に仕えてきた、伝統ある騎士の血統、ヴァルグレイン家の長女として生まれた。
幼い頃から騎士を目指し、才覚を認められ、王国騎士団団長として今がある。
最年少での入団、団長指名は己れの自負するところである。
その私が今、地上5〜6メートルの木の枝に座らされ、奇妙な光景を見させられている。
眼下ではテンがヴェアウルフと戦っている。
いや、違う。
どう見ても仔犬と戯れあっている......
「ちょ、こら! やめなさい」
「離しなさいー!」
「いててて」
「こーら!」
内股。
腰をくねらせ、奇妙な踊り......
「だめー!そこはやめてー!」
よほど "それ" は噛まれたくないようだ。
「やーめーなーさーい〜!」
首根っこを掴み、腕から引き離し投げ捨てる。
「キャンッ!」
ヴェアウルフは甲冑ごと兵士の身体を食い千切る。
はずだ。
―――そう......
昨日は200匹ほどのゴブリンの群れに遭遇した。
テンを見たゴブリンたちは恐れ慄き、平伏し、震えながら命乞いをした。
無視して進むと、後からゴブリンキングが追ってきて、跪きテンに腰布を渡した。
その布もサイズが足りなかったが......
一昨日のレッドベアの群れ(本来は群れない)は2〜3頭テンに殴られたあと、腹を見せて寝転んだ。
服従の証だと思う。
―――テンはその腹をわしゃわしゃと撫でていた。
ここ数日そんなことが続いている......
「ヴォンッ!」
大きな鳴き声が響く。
テンにまとわりついていたヴェアウルフたちが離れた。
群れが道を開け、そこをゆっくりと向かってくる。
大きい。
ヴェアウルフたちの3倍はあるか......
テンを睨みつけ、立ちはだかる。
流石にあれは......
「おすわりっ!」
森が揺れた。
テンの地響きのような声が響き渡る。
あ、座った......
尻尾を振っている......
「いい子いい子〜」
ヴェアウルフの頭をわしゃわしゃと撫でている......
「ほら、帰りなさい!」
そう言うとヴェアウルフは何度か振り返りながら退散していった......
「僕、昔犬を飼っていて......どうしても殴れなかったです」
知らんがな......
ゆうに3メートルは超えているテン。
肩の痣は全身に広がり、真っ青な巨人になった。
どう見ても人間ではない。
人外......
レイシアは心の中でそう呼んで、正直引いていた。
「レイシアさん、そういえば魔竜ってどんなやつなんですか?」
左腕に抱えたレイシアに話しかける。
最近はずっとここに座っている。
歩くのが早過ぎて着いて行けないのと、全裸を見られたくない、とういう結果こうなった。
「そうだな。体長20メートル、全長はそれ以上だったと報告されている」
「すげー!会いたかったな!」
「テンの国、いや、世界にも竜がいるのか」
二人は話していくうちに、お互い別の世界の住人だという共通認識に達していた。
「そりゃあ、たくさんいますよ!ここにはいないんですか?」
「魔竜一体しか確認されていないな」
「俺、竜が大好きで」
「竜が好き!?」
「って言っても、魔竜と違い、大きいので人二人がやっと乗れるぐらいです」
「ほう」
興味深い。
「人や荷物運んだり、狩をしたり、畑仕事手伝ったりって、いないと困るんですよ」
「なんと......」
「竜の里ってとこがありまして」
「里?」
「はい、そこで竜を育ててるんです」
「竜を......育てる......」
「里の巫女さんがお腹に竜を宿すんです」
「腹に......!」
「回復術を使える巫女さんじゃないと、普通の人間には耐えられないそうです」
「まあ、今はお腹が大きくなったら転送術で取り出すんですが」
「昔は大変だったらしいです」
「テンソウジュツ......」
「何でもその場から移動させる便利な術です」
「そんなことが......」
他の世界から来たテン......
竜の里......
一体しかいなかった魔竜......
レイシアは何か繋がりがあるように感じた。
二人が話しながら歩いていると、突然目の前がひらけた。
石や岩だらけのガレ場だ。
遥か向こうには連綿と連なる山々、山脈が見える。
レイシアが両手で顔を塞いだ。
「こっちかぁ......」
第十五章に続く。
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