Coke for you
世界を鳴らして喪服の女は笑った。
「「「蹴られたくない」」」
ティーテーブルが、椅子が、輝く庭が崩れてゆく、
「「「瑞季」」」
喪服の女は輝く缶と、冷えた電子煙草を手にしていた。
「「「ちっぽけな私」」」
低い次元に落下してゆく俺達を見下ろす。
「「「もう、お前を助けない」」」
「ああ・・・」
俺の腕を取ったまま泣きだした久我山を、
『彼氏でもないのにドサクサで抱き締めたりするのは何らかのハラスメント&ムズ痒い感じがするので』
「お~、着地できんのか? コレ。なぁ」
等とボヤきつつ、なるべく見ずにやり過ごす作戦で対処することにした。
友人代表だしさ。
久我山瑞季はいくつかの進歩的な観測結果を残し、上位次元干渉型浮遊体症候群を完治させ、後少しの夏休みを待たずに休学し、夏休み明け、何の挨拶もセレモニーも無くアメリカに有るという元ジェリーフィッシュ症の人々の通う学校へと転校していった。連絡は取れなかった。
2年3組一同は、消化できない気持ちのまま高校を卒業してゆくことになった。
が、しかしだ。俺は久我山の『ファン』でもなければ、何億年か置いてけぼりにされ掛けるやら何やら、それなりに酷い目に遭わされるやらを経て大人しく、
『不思議でほろ苦な青春の思い出だった』
と引き下がるような行儀の良い人間ではなかった。何しろ俺の器は小さいのだ。
まず該当高校を数ヶ所まで絞り、得意でもなかった英語を数年掛けて習得。その間のバイトで渡航滞在費をどうにか捻出。大学の夏休みを利用し、渡米。数回現地警察や警備会社に捕まりながら高校を特定!
現地の上位次元観測機関等にも押し掛け、交渉。揉め過ぎて、いつかの病院スタッフの人が日本から緊急渡米してきて「霞ラボで粘るなりさ? 連絡くらいつくでしょうに」と呆れられつつ、ようやく居所を突き止めた。
「この農園だ。気持ちはわかるが、不審者のようになってはいけない」
「ストーカーじゃない。筋を通しに来た」
「筋ね」
俺は今は自衛隊に『戻った』らしい、元病院スタッフの人を車に残し、アラスカの、時代に取り残された風な農園に足を踏み入れていった。
ここは元ジェリーフィッシュ症患者が多くいるが、ポツポツ見掛ける人々の人種も年齢もバラバラだった。
果たして、久我山はあっさりいた。農機に乗ってガンガン芋を掘り返してる。
「うわ~、岡倉君だわ。しつこっ」
農機を止める農婦な久我山。
「どんな反応だよ、こんな最果てに居たのかよ。皆、何か、スパイとか次元観測員とか、カッコイイ感じになってるの期待してたぞ? まぁ委員長とか先生は普通に落ち込んでたが。それも何年も前だが」
「ごめんて、最近ようやく落ち着いてきた感じだから。観測とかもういいし」
農機から降りてタオルで汗を拭う久我山。
「日焼け止め塗った方がいいよ? ここオーロラ見れるし、土地安いし、人も居ないけど、冬の寒さと紫外線がヤバいから」
「喉乾いてんな? ふっふっふっ」
俺はリュックから年季の入った保冷袋を取り出し、さらにそこから冷えたコーラ缶を取り出した。
「やるよ、久我山瑞季」
「・・そんなドヤ顔で。でも、霞ラボで飲んだ以来だね」
久我山はグローブを取って受け取り、栓を開けるとゴクゴク飲んだ。
「ぷはーっ、そりゃ観測されるわ!」
2人で笑ってしまう。
「岡倉洋夢君、電子煙草は?」
「もうダメだ。アレ以来吸えなくなった。持ってかれたな。まぁ渡したワケだが」
「寿命伸びたんじゃない?」
「だからニコチン入ってないから。ここで暮らす方がよっぽどだぜ?」
「オーロラ綺麗何だってー」
他愛無く話し低い次元の俺達は、こんがらがった10代のあれこれに少しは区切りを付けた。




