上位次元干渉型浮遊体症候群
約20万分の1の確率で、人類の中から後天的に発症する奇妙な病があった。
上位次元干渉型浮遊体症候群。通称ジェリーフィッシュ症。
発症者は任意で身体を浮遊させ、透明化や透過の能力を有するようになる。一方で徐々に自我と姿が希薄となり、治療せずにいるとやがて完全にこの世界から消えてしまう。
最新の研究では高次元にある自分自身の投影によりその存在性が揺らいだ状態にあるという。
大半の患者は十代中盤で発症していた。
・・桜の頃、その転入生は教壇で浮いていた。スパッツは穿いてんだな、て。
「久我山瑞季です。フワフワしてるけど、よろしく」
少しバツの悪そうに彼女はそう言った。
当然、休み時間になるとクラスメートは殺到し、他のクラスどころか学年中から人が集まってしまう。
何しろ20万分の1だ。メディアで見掛けても実際遭遇する機会、あるいはそうだとわかって話せる機会等そうそう無い。
「久我山さん! ジェリーフィッシュ症っていつから?! 大丈夫なの??」
「自覚したのは1年くらい前から。特に違和感は無いけど、通院しないと半年くらいで消えちゃうみたい」
他人事みたいに答える。
「久我山さん、その。透明化したり通り抜けたりって・・」
「こう? 別に普通だよ」
右手を半ば透明化させ質問したヤツの身体を貫通させてギョッとさせて薄く笑ってる。
「高次元の自分が干渉してくるんでしょう? どんな感じ? 怖い?」
「どうなんだろう? 誰かが遠い不思議な所に居て、ソレに私が珍しがられてる感覚。きっとあっちは退屈何じゃないかな?」
あっち、か。
質問の嵐は止まなかったが、久我山瑞季は自分だけじゃなく座った椅子と手で触れている机も浮かせて淡々と答え続けていた。
症状より態度が変なヤツが来たな、と思いつつ、昼休み俺は田中達と昼を食べ終わると手提げの保冷袋だけ持って1人抜け、校舎と校舎の隙間になってる死角スポットで無煙電子煙草を吸っていた。
昔ならこうしてるだけでヤンキーに絡まれたろうけど、いい時代になった、と思いつつ、薄荷の溜め息をついた。
「あ、不良だ」
唐突に二階くらいの高さの壁を擦り抜けて、久我山瑞季が現れた。
「うぉっ? 心臓に悪いっ」
「煙草が?」
近くにフワっと降りてきた。
「これはニコチン入ってないし、合法だ。・・校則は違反だが」
「やっぱり不良。ちょっと吸わせて?」
「・・・」
何だコイツ。半年後には消えてるかもしれないからって藪から棒だな。迷惑っ。
俺は電子煙草の電源を切って、代わりに保冷袋からコーラを取り出して久我山瑞季に押し付けた。浮いてるから押すとちょっと後ろに流されだして、体勢を立て直すのにあたふたした。
「それを奢ってやるよ。じゃあな、久我山瑞季」
「何だよぉ。君! 同じクラスだよね? 名前は?」
億劫だったけど、こっちだけフルネーム呼びってのもフェアじゃない。名乗るか。
「岡倉洋夢。人に吸わせる電子煙草は持ってないからな?」
「カッコいいこと言うね~」
「・・うるさいからな? 海月」
売り言葉に何とやらで強めに言い返しつつ、俺は退散した。
くっそ~、感じ悪いヤツみたいになった! なるべく関わらないようにしよう・・




