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魔物専門掃除屋『D & C』の日常  作者: クロード
『致命的に背徳的かつ、圧倒的に冒涜的な……』
28/38

その9

 ————意識が混濁する。


 安心できる場所で微睡んでいるようなふわふわした心地良さが、身体から徐々に大切なものが抜け出しているという脳からのアラームを遮断していく。


 何でこうなったんだっけ? 志音はぼんやりと自問する。

 確か『異世界さん』を試して、それから紙に書いた扉が開いて、吸い込まれて————。


 そう、吸い込まれたんだ。そして放り出された。着の身着のまま見知らぬ空に。そのまま体は物理法則に従って地面に落ちていく。


 最初は何が起きたか理解出来なかった。だが、眼下に広がる西洋チックな街並みを見た時に理解した。

 これはいわゆる『異世界転移』というものではないのか、と。それを確信した瞬間、今の状況すらも忘れて叫ぶ。


 自分は選ばれたのだと! 何らかの物語の主役になったのだと!


 ならば焦る必要はない。こういう話にありがちなチートスキルが身についているはずだ。それがこの状況を打破して物語を紡ぐだろう。

 それでは優雅に、瀟洒に、神々しく異世界への第一歩を踏み出————。


 そんな馬鹿げたことを地面に叩きつけられるまで考えていたのを朧げながら覚えている。


 選ばれた存在では無かったし、チートスキルも無かったが、それでも神は自分を見捨ててはいないと思う。

 うず高く積まれたゴミ袋の山に着地したおかげで本来ならば即死するところを下半身が弾け飛んぶだけで済んだ。だから、そう思う事にした。せめて最後くらいポジティブに逝こう。


「……!? …………!!」


 迫り来る『死』の感覚に目を開けておく事すらも億劫で、ゆっくりと闇に覆われていく視界の縁に最後に映ったのは駆け寄って来る誰かの姿だった。


 そこで限界が途切れ、意識すらも闇の中に沈む。全ての感覚が、魂が、少しずつ霧散して闇に溶けていく。


 暗い。寒い。寂しい。あぁ、死ぬのはこれ程に『孤独』なのか。


 誰か、誰か、誰か————。


「シオン? ねぇ、大丈夫?」


「うへっ!? ぼ、ボス……?」


「あぁ、良かった。気絶してただけだったのね」


 リューナクの声がシオンの意識を闇から引き上げた。

 酷い悪夢だ。自分がこの世界に来た時の記憶が夢に出ることは事はあったが、こんなに負の感情マシマシのものは初めてだった。


「あれ? 何で身体が……ハッ!? バーバヤーガは! アレはどうなった!?」


 寝起きのモヤがかかったような状態から徐々に明瞭になる頭は、ここがどこなのか、どうして生首だけで地面に転がっているのかを思い出させた。


「ほら見て。ちゃんと倒したわ」


 パニクるシオンの首を持ち上げて、額に風穴が空き、そこから脳漿と血をぶち撒け、地面に倒れ伏して天を仰ぐバーバヤーガの姿を見せた。


「おぉ! さっすがボス!」


「ふふん、当然よ! 私の実力と優秀なメンバーの力が合わされば誰にも負けないわ!」


 リューナクは気付いていた。自分の銃撃で意識を逸らされた事でひとまず投げ捨てられて地面に転がった時から、頭部を失ったシオンの身体は、延々とバーバヤーガの背中へ気付かれないように小石を投げ続けていた事を。


 弾除けの魔術でその小石は当たる事なく逸れていくが、シオンにとってはそれでよかった。必要な情報は魔術が発動しているかどうかなのだから。


 魔術の効果が切れれば小石が当たり、何事かとこちらを向くはず。仮に向かなければ他の手段で向かせる。

 そうすれば必ずボスが魔女の頭をぶち抜くと信じていたし、特にその案を伝えなくとも自身の行動を見れば絶対に意図を理解する。そんな信頼だけで彼は動いていた。


 結果的に少しだけ過程は違ったものの、最終的に彼女はその信頼に応えてみせたのだ。


「おー! じゃあ、そのテンションのまま……本来の仕事、どうするか考えようぜ……」


「えっ、しご……? って、ああああああ!?」


 勝利の美酒に酔っていたリューナクは、唐突に浴びせかけられた現実という名の冷水で強制的にシラフに戻された。


 忘れていたかった。


 そこまで広くない無縁塚『だった』場所は先程の戦いで墓石が散乱し、先程集めた死体の山は骨の槍を加工するときにでも使われたのだろう、見るも無惨な状態に。おめでとうございます、めでたく掃除屋史上最悪の仕事ランキング更新だ。なのに、こちらは右腕が使い物にならない自分と、首から下が物理的に使い物にならないシオン。これでどうしろと?


「いや、それは大丈夫だよ。2人とも」


 絶望感に打ち震えるリューナクの背中から、まさかこんな所に居るはずのない人物——グローの声が聞こえてきた。

 こんな最悪の状況で、ついに頭がおかしくなって幻聴まで聞こえるのかと悲しくなる。しかも、今の所1番聞きたくない声の。


「あれ、裏ボス? 何でこんなとこに?」


 何故かシオンにも聞こえてるらしいが幻聴だ。本当に居るはずがない。振り返ってもそこには何もいない。誰もいないハズで……「何故固まっているんだ、エンゲル」


 いた。いた! いた!! いたぁ!!! わざわざ正面まで回り込んで視界にカットインしてきたァァァ!?!?


「ぐ、ぐ、ぐ、グロー様!? 何でこのような所にいらっしゃりますんでございますでしょうかぁ!?」


「ボス、焦りすぎだぜ。まぁ、とはいえマジで何でこんな所にいるんすか?」


 いきなりの事態で多少の差はあれど混乱する掃除屋2人の質問に彼女は即座に「なんとなく、かな」と答えた。

 それは答えになっていない。誰がどう考えてもこんな所に「なんとなく」で来るわけがないのは明白だ。あまりにも不自然。


 恐縮してそれどころではないリューナクはともかく、シオンがその事を突っ込もうとする前にグローは矢継ぎ早に続ける。


「この現場は私が引き継ぐよ。報酬の心配しなくてもいい。ちゃんと出すさ。 君達の治療費や移動費もね」


「え? マジすか」


 終わっていない所か、無縁塚は最初よりとっ散らかっている。だというのに、ここまでの太っ腹な対応に流石のシオンも手放しで喜ぶ事は出来ない。あまりにも妙だ。


「あぁ、若い衆にやらせるさ。ちょっとした新人研修としてね」


 グローが指を鳴らすと周りからゾロゾロと黒いスーツ姿の屈強そうな男達が現れ、彼女の後ろに整列した。彼らがその『若い衆』なのだろう。

 彼女はその中の1人を呼びつけて何か指示すると、それを受けた黒服は眉ひとつ動かす事なくシオンの身体を拾い、リューナクが持つ首の元まで持って来た。


「失礼します」


「あ、ありがとうございまーす……」


 そのまま黒服は、リューナクへ一言断りを入れてから彼女の手にあるシオンの首を回収して合体させ、懐から包帯を取り出し念の為に結合部へ巻く。


「如何でしょうか」


「あ、えっと、大丈夫っす……」


 シオンの言葉を聞いた黒服は一礼するとグローの元へと戻って行った。

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