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22.火族支配計画

「お兄様を、亡き者にするのでございます」


「!」


 ガレンは絶句したが、女は何でもないような口調で


「そうすれば、全て円く収まるのではございませんの?」


と続ける。


 そして。


「もしよければ、私どもにアレン様のこと、お任せいただけませんか?」


と言った。


 その言葉で、さすがに頭に血が上ったガレンは、


「ふざけるなっ!」


と女に手を上げようとしたところで、


「……ハッ!」


と目が覚めた。いつの間にか居眠りをしていたのだ。

 急いで店内を見回したが、ガレン以外の客は一人もいなかった。


「今のは一体……」


 給仕やマスターに、今の女は誰だ、と訊いたが、誰もローブを被った女など見ていないというのだ。


「……夢か」


 女が言っていた言葉を思い返す。


 兄を殺す。

 それは、ガレンも考えないではなかった。


 だが、どうやって殺すというのだ?

 今、アレンは氷龍討伐部隊の一員として山の中にいる。


 例えば、ガレンがのこのこと出かけて行っても、アレンは不審がって、会うことすらできないだろう。

 

 もし誰か暗殺者を雇ったとしても同じことだ。

 部隊にいる者たち同士はすでに顔見知りで、そこに部外者が入り込む余地はない。

 

 かなうはずもない願望を抱いていたせいで、あんな夢を見たのだ……

 そう考えてため息をつくしかなかった。



 しかし、その日は突然に訪れた。

 ガレンのもとに、アレンが死んだとの報せが入ったのだ。


 頭をよぎったのは、あの女の言葉だった。

 女は、自分たちがアレンを殺そうか?と言ってきた。


「いや、偶然だ……」


 兄は氷龍によって殺されたのだ。奴らが何かしたわけではない。


 ガレンは兄を失った悲しみを装いつつも、内心は晴れ晴れとしていた。

 突然、無罪を言い渡された死刑囚のように、解放された気分が胸に広がった。


(これで、何も失わずに済む……)


 だが、その日の夜。

 例の酒場で、ガレンが久々に酒の美味さを感じていると、


「お隣、よろしいですか?」


 そう言ってきたのは、藍色のローブを被った人影だった。


「!」


 今度は男のようだった。


「何なんだ、お前は!」


とガレンが問いただすと、男は答えた。


「お約束、果たしましたよ」


「約束だと!?」


 あの夜の光景が頭をよぎった。


「左様です。お望み通り、アレン様のお命頂戴しました」


(バカなっ!……本当にこいつらが兄を殺ったというのか?)


「……どうやって!?」


「おや、お聞きになっておられませんか?アレン様の死因を」


 アレンは氷龍との戦いによって命を落とした。

 じゃあ、まさか……


「はい、氷龍を使って殺したのです」


「!」


 ガレンはローブの男をまじまじと見つめた。

 もちろん、ローブの向こうの表情は見えない。

 

 だが、ガレンには男がせせら笑っているように思えてならなかった。


「お、俺は約束などしてない!」


 そう。あのとき、ガレンは女の提案を断っているはずだ。

 だが、男は首を振った。


「しかし、もう私どもはあなたの秘密を知っているのです。何もかもね」


「……!」


 ガレンは唇を噛みしめ、うなだれるしかなかった。

 こいつらは、俺の素性も全て知った上で近づいてきたのだ。

 もう逃げられない。


「……何が欲しいんだ?金か?」


 ガレンは感情のこもらない声でたずねた。


「そうですねぇ、金もですが……もっと言えば、我々に協力いただきたいのです。我々の計画にね」


「計画だと?」


「はい。氷龍によって火族を支配する計画です」


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