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サタンクローズと真っ赤なリンゴ

メリークリスマス??

思い付いた事を、詰め込んでみました!!




「・・・殿下何をしてらっしゃるのかしら?」


王妃教育を終えて自室に戻ると、襟と袖と裾に暖かそうな真っ白な毛皮を取り付けた、真っ赤な服に、真っ白なカツラに真っ白な付け髭を付けた殿下が、白い麻袋を担いで、部屋の中央で立っていた。


「何を言う。私は、サタンクローズだ。」


「・・・・もう一度お願いいたします。」


「サタンクローズだ。」


「サタン・・・確か魔王の名前でしたわよね?それに、クローズ・・・確か閉じるという意味では??・・・魔王、閉じる?」


「サタン・クローズでは無い。何故態々分けて、更に異国の言葉に訳すのだ。」


「見た事の無い、不思議な格好をされていたので、異国の方なのかと思いまして。」


「確かに異国だが、私の名前はサタンクローズだ。」


目に前に立つ、サタンクローズと言い張る殿下。


派手で、不思議な格好をしているのだが、堂々としているという事は、何か意味があるのだろうかと、考えを巡らせてみるが、明らかに目立つ格好でシンディの部屋に堂々と立っていた理由など、全く見当が付かない。


「では、サタンクローズさん、いったい私の部屋で何をしてらしたの?」


「これを届けに来たのだ。」


そう言って、サタンクローズは麻袋を差し出した。

明らかに重そうな麻袋を受け取ると、やはり両腕にずしり重みが乗り、慌ててバランスをとり、なんとかゆっくりと床へと下ろして中身を確認すると、ふわりと甘酸っぱいほのかな香りが鼻をくすぐり、赤く色付いた、美味しそうなリンゴがいくつも入っているのが見えた。


「リンゴ・・・ですよね?」


「リンゴだ。」


「リンゴを私に?」


「プレゼントだ。」


リンゴは嫌いでは無い、むしろ好きだ。しかし、殿下が変装してまで何故リンゴを届けに来たのか分からない。


「理由をお聞きしても?」


「殿下に頼まれたのだ。シンディ嬢にリンゴを届けて欲しいと。」


何一つ分からない。

もし、本当にサタンクローズが殿下とは別人だとすれば、殿下が何故サタンクローズに頼む必要があったのか。何故リンゴなのか。

疑問を増やされただけだ。


「何故、殿下はサタンクローズさんに、リンゴを届けるように頼まれたのかしら?」


「私は、ここより遠く離れた国で、プレゼントを運ぶ使者をしているのだ。私が運んだプレゼントを受け取った者は幸せになれるのだぞ。」


王妃教育で、隣国の事を学んでいるが、そんな話を聞いた事など無い。まだ習っていないほど遠い国なのかと、考えていた。しかし、部屋の隅にそっと佇んでいる人物が視界に入った瞬間、深く考える事を止めた。


その人物は、表情こそ無表情を貫いているが、身体に力が入り、何かを我慢するかの様に拳を強く握りしめて、立っている。


「そのプレゼントは、リンゴと決まっているのですか?」


「いや、これは白雪姫という物語を参考にした。」


白雪姫・・・・美しさに嫉妬した王妃に殺されそうになった白雪姫が、森中にある7人の小人の家に逃げ込み、静かに暮らしていたのだか、生きている事を知られ、老婆に化けた王妃に毒のリンゴを食べさせられて、死んでしまう。しかし、死んだ白雪姫に恋した王子がキスをすると、白雪姫が息を吹き返す。


って、話だったはすだ。

この話を参考にして、何故リンゴをプレゼントしようと思ったのだろうか?


「殿下は、最初から最後までお読みになったのかしら?」


「それが、時間が無くてな、絵だけを見せられた様だ。」


時間が無い・・・

絵を“見せられた”・・・・


そっと視線を部屋の隅に滑らせると、その人物はこちらを見ない様に横を向いていた。


「で、殿下はどういう物語だと思われたのかしら?」


「いい話だと思ったから、その物語に登場したリンゴをプレゼントしているのだろう?」


「いえ、そういう意味ではなく、物語の流れというか、あらすじの様なものをお聞きしたいのです。」


サタンクローズは、何故知らないのだと言わんばかりに、眉間に皺を寄せているが、文句は言わずゆっくりと話し始めた。


「お婆さんが、美味しいリンゴを分けてくれ、そのリンゴを食べた白雪姫は、お腹いっぱいになって眠ってしまう。それに気づいた小人達は、部屋の中より外の方が気持ちがいいだろうと、白雪姫を外に寝かし。眠っている白雪姫を見ていた小人達も、眠くなって目を擦っていると、王子が現れ、眠っている白雪姫に一目惚れした王子は、思わず白雪姫の唇を奪い、それで目が覚めた白雪姫も王子に一目惚れし、結婚した話だろう。女性達には、とても人気の話しだと聞いたぞ。」


堂々と言ってのける殿下。

部屋の隅に立つ人物は、今や口元を手で抑えて震えている。


シンディの口から思わず、小さな声が漏れ出した。


「殿下は何故、恋愛事が絡むと・・・。」


その微かな声は、誰の耳にも届かず消えた。


「何故その物語にちなんで、リンゴを私にプレゼントされたのかしら?」


「それは・・・・・。」


途端に、サタンクローズの顔が真っ赤に変わる。

先程の質問の何処に、顔を赤らめる要素があったのか、分からない。


「どうされたのです?」


「いやっ・・・あの・・・その・・・。」


堂々とした態度は何処へやら、あたふたとし始めたサタンクローズに首を傾げ、殿下の白雪姫の物語を思い出していると、一つだけ思い当たる事に気付く。

もしかして、すっごく遠回しではあるが・・・


「もしかして、キスですか?」


その瞬間、殿下の顔は真っ赤に染まり、両手で顔を覆ってしまった。


そして、それと同時に部屋の隅からは『ブホッ』と、何とも品の無い音が漏れ聞こえた。


シンディは、溜息を吐き出し、目の前で乙女の様に恥ずかしがる、サタンクローズもとい殿下を見つめた。

シンディが、ガラスの靴を履かされ、殿下の告白を受け入れてから半年の時が経っているのだが、未だにキスの一つもした事が無い。最近になってようやく手が繋げる様になった程度だ。シンディも殿下との関係を急ぐつもりは無かった為、あまり気にしてはいなかったのだが。

そういえば、何処から情報を手に入れたのか、殿下とシンディの現状を知った王妃様が、先日シンディに『あの子、結婚式で誓いのキスの時に、真っ赤になって逃げださないかしら?』と、心配をしていた。

今回の出来事の発案者は、間違い無く部屋の隅に居る人物なのだが、許可を出したのは王妃様だろう。


公務は完璧にこなし、次期国王として民から期待され、その期待に応えている殿下が、恋愛事・・シンディが絡むと、途端に腑抜けになるのは、半年前から変わらない。


シンディは、急に真剣な表情になると、サタンクローズの顔を見つめた。


「殿下。」


「サタンクローズだ。」


まだ、サタンクローズにこだわる気らしい。


「では、私がキスする相手はサタンクローズさんですの?」


「へぇ??」


「だって、リンゴを届けるように言ったのは殿下でも、下さったのはサタンクローズさんですもの。」


「いやっ・・その・・それはぁ・・・駄目だ。」


慌てながらも、最後の言葉だけは、はっきりと言い切った殿下に、シンディはにっこりと微笑み、サタンクローズに一歩二歩と近づく。

そして、耳に掛けていた付け髭の紐を、耳からするりと外し、その首に両腕を回すと、全体重をかけ殿下の顔を引き寄せ、そっと唇を重ねた。


柔らかく、シンディにとって初めて感じる暖かな感触。


「愛していますよ、殿下。」


小さく、殿下にだけ聞こえる様に伝え、そっと身体を放した・・・・


放した・・・・


放れなかった・・・・


シンディの腰を大きな手が、しっかりと押さえている。

もちろんその手は、殿下の手なのだが、シンディの予想では、顔を上げれば、そこには照れて赤くなっている殿下の顔があるはずだった・・・・


はずだったのだ・・・・


顔を上げた、シンディの口からは、思わず小さな悲鳴が漏れていた。


「ヒッ・・。」


「あぁシンディ、せっかく結婚式まで我慢してあげようと思っていたのに、私を煽るなんて、なんて悪い子なんだ。」


シンディは、今まで生きてきた中で、肉食獣が獲物を捕らえる時の目を見た事は無かった。しかし、今この瞬間、この目がそうなのだと確信した。

そして、きっと自分は、怯えた獲物の目をしているのだろうと。


・・・ああ、食べられる。


そう思った瞬間、ゴンという鈍い音が部屋の中に響いた。


「殿下、駄目ですよ。落ち着いて下さい。」


声の主は、先程まで部屋の隅に居た人物であり、今回の事を仕組んだであろう人物。


「ダグラス様、殿下はもう聞いていないと思いますわ。」


殿下の身体からは力が抜け、絨毯の上に倒れている。

一応シンディが支えていたのだが、シンディの力では殿下の身体を支えきる事は出来ず、ゆっくりではあるが、床に敷かれた絨毯の上に倒れてしまっていた。


「シンディ・F・レラジット様、私に様は付けなくて、よろしいのですよ。」


「いえ、今は付けたい気分なのですわ。」


それは、殿下から助けられたからではない、今回の事を仕組んだ理由を知っているからだ。


「大丈夫ですよ。王妃様に許可していただいたのは、ここまでですから。」


ここまで・・・・

殿下が暴走した場合、殴って気絶させる所まで許可を取っていたのだろうか。

そこも気になる所ではあるが、それよりも確認したい事がある。


「では、新婚旅行は行けるのかしら?」


「はい、勿論でございます。」


シンディの予想が正しければ、今回の事は、シンディと殿下の触れ合いが、あまりに進展していない事を危惧した王妃様と、結婚式の後に新婚旅行がしたいからと、2週間の休暇を要求した殿下に対する、ダグラスの腹いせが原因だろう。

ちなみに割合は、2:8 ・・・勿論、王妃様が2で、ダグラスが8だ。


そもそも、殿下が言い出したタイミングが悪かったのだ。

よりにもよって、ダグラスが婚約破棄した直後に言い出したのだから。

元々互いに思い合っていた訳でも無く、家同士の繋がりによる婚約だったらしいのだが、それでも婚約破棄直後に、新婚旅行で2週間休みたいと言われれば腹も立つだろう。


殿下が何と言うかは分からないが、シンディ自身は、今回の事に関しては、気にしない事に決めた。


「そう、それなら良いわ。」


ここまでされて、休暇をもらえ無ければ、流石に殿下がかわいそうだ。

シンディが小さな溜息を漏らしている間に、何処からとも無く男達が現れ、殿下をソファーまで運び寝かせると、部屋を出て行った。

それに、続いてダグラスも出て行こうとするが。その背に向かってシンディが声をかけた。


「少しお聞きしたいのですけれど。」


ダグラスは、足を止め、ゆっくりと振り返る。


「何でしょう?」


「サタンクローズの話は本当なのかしら?」


「ある国では、クリスマスと言われる日の前夜に、子供達に贈り物を届ける老人の事をサンタクロースと言うそうですよ。元々、司祭の男性が、身売りをする女性を助ける為に、窓から金貨を投げ入れたのが始まりとされてますから、あんな派手な格好はしていないらしいのですが、殿下は何故あんな格好をしていたのでしょうね?」


ダグラスは小首を傾げているが、シンディは確実にダグラスが何か仕組んだと思っていた。だが、あえてそこには触れない。


「そう・・・教えてくださってありがとう。まだまだ私も、様々な国について勉強しなければなりませんわね。」


その言葉には、副音声として、『ダグラスに、はめられない様に』と、ダグラスには聞こえていた。


「それでは、私は失礼させていただきます。殿下には後ほどお迎えにあがりますと、お伝え下さい。」


「わかりましたわ。」


ダグラスは、深々と頭を下げると、急いで部屋を出て行った。

きっと・・・ほぼ間違い無く、自室に戻り気がすむまで笑うのだろう。


シンディは、小さく溜息を吐き出すと、ソファーの上で横になっている殿下に近づき、そっと腰を落とすと、そのままゆっくりと殿下の髪を撫でた。


「殿下、何処から何処までが本気で、何処から何処までが騙されていたのですか?」


その言葉に、殿下の瞼がゆっくりと開く。


「何だ、気づいていたのか?」


「ええ、サタンクローズの辺りは、わざとですわよね?」


「まあ、サンタクロースの話しは、聞いた事があったしな。」


「この服は?」


「今朝、執務室に置かれていた。ダグラスが置いたのだろう。」


「分かっていて着られたのですか?」


「まあ、新婚旅行を思い付いた事に浮かれて、ダグラスの事情を忘れていた私が悪かったからな。これくらいは、してやらんとな。」


「では、白雪姫のお話も?」


「・・・・違うのか?」


「・・・・お話しの内容でしたら、違いますわ。読んだ事無かったのですか?」


「恋愛物語は、女性の読むものだと思っていたからな・・。」


小さく溜息を吐き出す殿下に、シンディは、優しく微笑む。


「では、今度私が読んで差し上げますわ。」


「そうだな、読み終わったら・・・・・。」


途端に、殿下の顔が赤く染まる。

それが、何だかシンディには嬉しくて、殿下の頬にそっと唇を触れさせた。


「今は・・・止める者がおらん・・・やめてくれ・・・。」


殿下は真っ赤になった顔を両手で覆うと、ソファーの背に顔を埋めてしまった。

これで本当に、結婚式の時に誓いの口付けができるのかと心配になるが、それと同時に、自分のせいで殿下が赤くなっている事に、喜びを感じてしまう。


「殿下、結婚式の誓いの口付け、頑張ってくださいね。」


「分かっている。私とシンディとの大切な日だからな。」


「では、失敗しないように、いっぱい練習しないといけませんね。」


その言葉に、殿下は両手で顔を覆ったまま


「今は・・・今は止めてくれ・・・理性が・・辛い。」


ボソボソと、小声を漏らす殿下に、シンディはふわりと微笑んでいた。







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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだかんださっさと2人がくっついたのが引っ張りすぎずちょうど良かった! 2人のやりとりが正月餅つき職人のようだった。 新しいガラス靴用意してあるのがグッときた。 創作ありがとうござい…
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