表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/56

昼の作業を終え、森の風がひんやりと心地よい夕暮れ時。

リシェルはカイルとアランが道具を片付けるのを手伝いながら、ふと思いついたように尋ねた。


「そう言えば、お二人とシオン様は、学生時代からのご友人でしたよね?」


「うん。俺たち、同じ学校で同じ寮で過ごしたんだ」


カイルがにこりと笑って、草の上に腰を下ろす。彼にとって、嬉しい質問だったのだろう。かなり誇らしげな顔をしている。


「一緒に剣を習って、校庭を走って、馬に振り落とされて……まぁ、にぎやかな日々だったよ」


「なんだか、楽しそうですね」


リシェルも隣に座る。


「昔から、シオン様は今のような方だったんですか? えっと、つまり我慢強くて優しいって意味です」


「んー、変わらないな。昔から、困ってる奴を見ると、放っておけない性分だ。だから、学生時代から、騎士団と共に魔獣討伐に参加していた。国民が魔獣の被害に会わないようにって」


「それで、俺たちもシオンに付いて魔獣討伐に行ったんだ。おかげで、それまでパッとしなかった剣の腕が、驚く程上達した。今では、俺たちは、国で最強の“三人騎士団”と言われている」


アランが肩をすくめて言うと、カイルが苦笑してうなずいた。


「なあ、昔話してもいいよな? ちょっと暗い話なんだけど」


「ええ、ぜひ聞かせてください」


カイルは少し黙った後、ぽつりと語り始めた。


「俺たち三人には、婚約者がいたんだ。まだ十代半ばの頃だな。もちろん、政略上の婚約だけど、みんな、それなりに仲良くやってた」


「貴族や王族なら、婚約者がいるのが普通ですね」


「うん、そうなんだよ。六人で遊んだり、お茶を飲んだり、楽しくやってたんだ。

シオンの婚約者もエリザベスって名前で、明るくて優しい人だったよ。ふたりは、本当にお似合いだったんだ」


カイルが遠くを見る目をした。シオンの婚約者と聞いて、リシェルの胸がチクッと痛んだ。

だけど、カイルが深刻そうな声音になったので、リシェルは黙って聞くことにした。


「でも、ある時、留学生が来たんだ。どこかの国の平民の特待生だ。話がうまくて、顔も良くて……平民ながら、物語の王子様みたいな男だった。女生徒たちの一部は奴に“王子様”ってあだ名をつけて夢中になったんだよ」


カイルの言葉にアランが眉を寄せた。


「そうは言っても、本当の王子のシオン程ではなかったぞ? なぜ、あんなに人気があったのか、俺にはいまだに理解できん」


アランの言葉に、カイルが、

「そうだな。俺もそう思う。あいつはどれをとっても、シオンの足元にも及ばない。

俺たちは魔獣討伐に行って、しょっちゅう学校を休んでいたのがいけなかったかな」と言って、小さく吐息をこぼす。


そして、暗い口調で先を続けた。


「気づいた時には、俺たち三人の婚約者は、その男について他国へ行くって言いだしたんだ。まるで申し合わせたみたいに、同じ日に。そして、その男と一緒に消えていった」


「まさかそんなことが……」


リシェルは息を呑んだ。あのシオンを振る女性がこの世にいるとは、彼女には想像もできなかった。


「俺たちもショックだったよ。けど、一番落ち込んでいたのは、やっぱりシオンだった。

シオンは愛情深いからね。婚約者を本気で愛していたんだと思う」


アランの目が、また遠くを見つめるように細められる。


「それから、シオンは女性を避けるようになった。表では笑ってても、心の距離を詰めることはなくなった。ああいう裏切り方をされて、もう女性は信じられなくなったのかもしれない。そんなことは口にはしないけどな」


カイルはそこまで言って、ふいにリシェルを見た。


「だから、君がシオンと仲良くしてくれるのが、俺たち、すごく嬉しいんだ。少しはシオンの心も癒されるかなって」


カイルが照れたように言う。


「そんな悲しいことが、あったんですね。私で癒しになれればいいんですけど」


リシェルは、胸の奥がきゅっとなるのを感じながら、静かに頷いた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ