表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/56

11 前半シオン視点

そうやって、日々を重ねたある日のこと。

今日は、細々したものを買いに町へ向かっていた。


リシェルが主役。シオンはその付き添いという体だったけれど、実際には「痛みを和らげてもらうため」に必要不可欠な存在として、当たり前のようにリシェルの手を握っていた。


と、その時。


「リシェルさん、お元気そうですね! いつも、よく効く薬をありがとう!」


背後から明るい声。長身の見目麗しい青年が歩み寄ってきて、笑顔でリシェルの前に立った。自然な流れで、リシェルの手はシオンから離れる。


「…………ッ」


何とも言えない、冷たい風がシオンの胸の奥に吹いた気がした。


青年は、リシェルに薬の礼を言い、「またよろしくね」と笑顔を向ける。リシェルはにこやかに応じている。至って普通のやりとりだった。


なのに。


(なんだ……これは)


見ているだけで、胸がざわつく。喉が乾いて、目の奥がじんとする。

つないでいた手が離れたのが、こんなに堪えるとは思わなかった。

リシェルが笑っているのに、それが自分に向けられていないのが嫌だった。


嫌だ。

あいつに、リシェルと話して欲しくない。


気づいたときには、青年とリシェルの会話に割って入っていた。


「リシェル、そろそろ行くよ」


「あっ、はい! すみません、失礼します!」


あわてたようにリシェルが頭を下げてその場を離れると、青年は少し残念そうに見送った。


「手。繋いでも、いい?」


驚いたように瞬きをしたリシェルは、すぐに微笑んで、その手を差し出す。


「もちろん。どうぞ」


指先が触れた瞬間、さっきまでの不快な感情がふっと消えた。


(ああ、そうか)


そのとき、はっきりと自覚した。


(自分は、リシェルと一緒にいたい)

(だけど、他の誰かが彼女と一緒にいるのは、嫌だ)

(それって……)


「シオン様?」


リシェルが心配そうにのぞきこんでくる。その優しい紫色の瞳に、胸の奥がまたざわつく。今度は、別の意味で。


「……ううん、なんでもない。手、ありがとう」


「ふふっ、どういたしまして」


手のひらのぬくもりに包まれて歩き出すふたりを、背後で見守るカイルとアラン。


「ついに気づいたっぽいな」


「長かった……鈍すぎだぜ」


「でも、リシェルに礼を言っていた青年、シオンに怯えていたな。『リシェルさんと一緒にいたフードの男がなんか怖かった』って言って、町で噂になるぞ」


「だな」


そう呟きながら、ふたりの護衛は今日も静かに見守るのだった。





森の中の小さな家に戻ってのティータイム。

穏やかな午後、三人は、テーブルに座ってお茶を飲んでいた。

シオンは着替えをする為に、一旦部屋に戻っている。


カイルがぼそりと呟いた。


「……リシェルと手を繋ぐと、日が落ちてもシオンは腕が痛まない。

寝ている時も、身体に激痛が走らない、と本人が言っていた。つまり、呪いが解けない限りは、ずっと、リシェルが必要なんだ」


アランが茶を啜って頷く。


「でも、逆に言えば、呪いが解けたら、シオンは王族として誰かと政略結婚しなければならなくなる。どこかの国の王女か、国内の有力貴族の娘か……」


「それってつまり、呪いが続いてくれた方が、リシェルといられるってことになるな」


「皮肉な話だな。呪いがある方が、幸せでいられるとは。だが、呪いが解けなくては、シオンは自分の子供にも触れない。愛馬のルーシーにすら」


ふたりがため息をついたそのとき、

お茶を追加していたリシェルが、くるりと振り返った。


「なにを言ってるんですか!」


キリッとした目がふたりを見据える。


「私は……私は、必ずシオン様の呪いを解きます。治癒魔法がまともに使えるようになったら、絶対に!」


カイルがちょっと焦ったように手を振る。


「お、おう、そうだな! もちろん、それが一番大事だよな!」


「そうそう、冗談だ、冗談」


ふたりはバツが悪そうに視線を合わせた。

でも。


(いや、でもな。もし、リシェルが本当に治癒魔法を取り戻したら……聖女ということにならないか?)


(聖女なら、逆に、王子と結婚できるかもしれないぞ?)


(平民だろうが何だろうが、聖女なら、きっと国王陛下も認めるだろ)


(それに、もうほぼ恋人だしな)


そんなこそこそと小声で言い合う。

二人の心に宿るものは一緒だ。


彼らの大切な王子様。

シオンは、二人が命を懸けて守ると決めた、かけがえのない彼らの主だ。

婚約者のエリザベスが去っていった時に見せた、あの悲しい瞳はもう二度と見たくない。


――シオン、あなたが幸せでいられるなら、俺たちリシェルとの仲を応援するよ。


こそこそ話すまでもなく、カイルとアランの中では、確信していたことがあった。


――シオンは、リシェル以外無理だ。


そしてそれは、シオン本人も気づき始めていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ