第8話 真っ逆さまに堕ちてデザイア。
「あ~れ~」
とたんに、三人は真っ逆さまに堕ちていった。
いや、落ちていったというのが正しいだろう。
つい、先ほどまでは、くつろいでいたのに。
時は少し前に遡る。
「センパイ。なに、してるんすか?」
「見てわかんないのかよ?」
「まったく、これだからトオルは」
いや、そう言われてもなあ。
名台詞のつもりらしいけど。
それは流行りもしないし、流行らせたくもない。
「だって、ひつじ雲じゃねえかよ」
だっても、なにも。
そう言われても、理解に苦しんでいた。
目の前で、むしゃむしゃと咀嚼している。
次々と、引きちぎっては食べて、引きちぎっては食べて。
「ほら、お前も食べてみろよ」
メエメエと鳴いている、それを食べてみろよと強要される。
生まれたての、可愛らしいひつじを、その麗しい瞳を、ふわふわの毛並みを。
抱きしめるならまだしも、匂いを吸うならまだしも。
それを食べてみろよという。
それはまさしく、パワハラであって、それ以外のなにものでもなかった。
「いや、遠慮しときますよ」
トオルは、丁寧に断った。
ついでに、どうぞどうぞと譲ったのに。
「なんだ? せっかく奢ってんのに」
「ユージ。それ奢ったって言わないぜ」
「マジで。タカさんのいうとおりッスよ」
と言いつつも、鷹野山は、まるでスルメイカをかじるように嗜んでいた。
サングラスをしたドーベルマンの刑事が、もぐもぐタイム。
その姿は、じつに異様だったのに、トオルには、なんとなくニヒルに思えた。
渋いという二文字があてはまる。
「っていうか……こんなことしてる場合ですか!?」
思わず、突っ込んでしまった。
ネオトキオという異世界の首都で、それを滅ぼしかねない大怪獣の頭のうえで、のんびりと、ひつじ雲とやらを味わっている。
異世界に慣れたつもりであったが、トオルは突っ込まざるを得なかった。
「焦ったって、しょうがないじゃないか」
「そうだぞトオル。ひと休み、ひと休みって。偉いお坊さんも言ってただろ?」
だったら、屏風から虎を出せるのか。
この橋、わたるべからず。
だったら、ど真ん中を渡ればいいのか。
トンチじゃあないんだから、とは言えなかった。
やがて、トオルの二番目の彼女。
真凜が、事態を解決するまでは。
そしていま、三人は真っ逆さまに堕ちてデザイア。
大怪獣がプチっと、真凜に潰されてしまったせいで。
「あ~れ~」と、遥か高い空から落とされていった。
「タカ! めっちゃ、爽快じゃん!」
「ユージ! こんなの、富士急でもUSJでもひらパーにもないぜ!」
「いや、伏せ字、要らないんですか!?」
「バカ、トオル! 言わなきゃいいんだよ!」
「ん~……そうッスね」
三人の刑事が仲良くスカイダイビングしていった。
それはじつに、斬新なアトラクションで。
まとめて、真っ赤なケチャップになるまえに。
ふわっと、手のひらに包まれていた。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう、真凜ちゃん」
超巨大化した彼女に、三人は救われた。
トオルは心底、ホッとしたけど。
この状況と、報告書と、真凜ちゃんが元に戻れるのか心配でしかなかった。
真っ逆さまに堕ちてデザイア。
バーニングハート。
ただ、そうくちずさむしかなかったのであった。
合いの手が、欲しかった。




