巴の場合 japanese frappe No.2
お待たせしました。かわいいというよりも?σ(^◇^;)
こちらは、一つ前の「あやめの場合」の続きになってますので良ければ、そちらからお読みください。
男を一人、叩き斬った。
斬った感触が、生きた人とは違う。まるで血の代わりに泥でも詰まっているかのようだ。人ではない何かのようだが……やはりまだ終わらぬらしい。
傷口より黒い水飴のようなものが、這い出てくる。それがこちらへと意志を向けた。
我が号は、巴。銘はあるが長らく秘され、銘を身に刻まれることもなかった。何より彼の女傑、巴御膳よりとられた号を気にいっている。
今の持ち主の名は、あやめという。今は、なかなか危機的状況というやつか。
気が強く、武の腕前もなかなかの主とはいえ、相手が悪い。人ならざるものが相手では、英雄と呼ばれるものでもなくば真っ当な武では相手にはならぬだろう。
我が意志伝えられるのならば、手はあろうが……我が声に耳を傾けられるほどの資質があるわけでもない。
あの童がいれば、声を届けることもできようが、今は居らぬ。修行と称して家をでて幾つの春を越えたことか。
横手から銀色の光が飛来する。黒い塊に殴るような鈍い音をさせて突き刺さった。
飛来したのは、脇差し。黒い塊には、傷を負わせるほどではないだろうが、一瞬の時間稼ぎ程度には役にたったようだ。
やってきたのは若い侍。件の幼なじみのようじゃな。
彼はあやめの肩に一度に触れ、声をかけ守るように前に出る。
聞き取れなかったが、数度言葉をかわしたあと、あやめが安心したのだろう気を失うのが見えた。化生を前にして、今までよくもったと言うべきかもしれんな。
侍は、腰の太刀を引き抜く。
しばし腕前を見させてもらうとしよう。
侍は、下段に構え摺り足で あやめを巻き込まぬ位置に移動。
正体がわからぬものが相手ゆえに、防御に重きおいたというところか。人相手ならば、悪くはない。だが人相手ならば、の話し。
黒き塊は、黒い縄のようなものを数本生み出した。それを鞭のようにしならせ、ある黒縄は槍のごとく先端尖らせ突いてくる。
刀を使い鞭を切り裂き、槍を弾いた。一つ、二つ、三つ、四つ……よく凌いだが五つ目で、槍が侍の腕を突いた。傷は浅く、まだ問題ないだろう。
剣術にしろなんにしろ武術とは、人を相手取るための技術に過ぎない。そのため獣を相手取るにも、コツを知らねば苦労することとなる。真っ当な生き物相手でも、そうなるのだから化け物相手ならば尚更である。
ここいらで限界であろう。むしろよくやったと言ってよい。
まだ諦めぬと目が語り、後ろのものを巻き込まぬため不利を承知で己の動きを制限する。少しずつ傷を増やしながらも、勝機を探し続ける。
馬鹿者。まことに大馬鹿よ。勝ち目など今のままではないと解っておろうに。なのに諦めず。背後の大事なものを守るために、己を削る。傷つくのを厭わず愚直に退かず。
馬鹿者になったものだ。
だが……馬鹿者ゆえに、好ましく思う。馬鹿者ゆえに、天秤になどかけず己の大切なものを守るために労を惜しまぬ。
大馬鹿者ゆえに、我が心に触れられるのだろう。やれやれ、結局のところ我も主と同じか。あの大馬鹿者に、惚れておるらしい。
黒い槍に太刀を弾かれ、月明かりの中で見物と洒落込んでいた我のもとに、大馬鹿者が攻撃を避けつつ近づいてきた。
少し手を貸すとしよう。苦し紛れに、地に切っ先を突き刺した朱塗りの薙刀に大馬鹿者は手を伸ばす。
その指が我に触れた。
持ち主は、 あやめだが……我の使い手はやはり、このものか。やはり相性がよい。九十九の時を経て憑藻神となった薙刀、正宗の系譜に連なる、この巴と。
馬鹿者の背後に気配が生まれる。
朱の着物を羽織り月明かりより取り出したかのような白き髪。美しい女人。
「この大馬鹿者め。力で敵う相手ではない」
驚きこちらを見ようとするのを、言葉で押し止める。
「こちらを見る余裕などあるまい、うつけめ。我の言うとおりにせよ」
頷くのが見えた。見鬼の才は持っておったゆえ、多少の呪いの知識はあったはずか。なら…。
「まずは薙刀をもってドーマンを切り、早九字を唱えよ」
早九字とは密教に端を発する呪術だ。正式では九字護身法と呼ばれ手で契印を結ぶ。
早九字とは、それを簡略化したものである。
薙刀をもって縦四横五のドーマンを切り、一切りごとに呪を唱える。
「 臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前!」
ドーマンが淡き光で描きだされる。効果は、不浄なるものを入れぬ場を生みだすこと。
「これで攻撃は届かぬ、次にゆくぞ」
黒き攻撃を全てドーマンがはじく。
「我に続き唱えよ。ノウマク サンマンダ バザラダン カン」
不動真言と呼ばれる呪だ。不動明王、不浄を焼き尽くす憤怒の明王。
我に刻まれし独銛は、不動明王のもつ利剣を示す。
「ノウマク サンマンダ バザラダン カン !」
不動明王の威を借り受けるための呪。我が刀身は、邪を焼き尽くす炎に包まれた。
本来なら、これほど簡単に使えるものではない。我が身が明王に縁を持つがゆえであり、曲がりなりにも神を名乗る霊位を持つからである。
「あとはわかるだろう」
頷く姿が見えた。
「ならばこれで終に」
薙刀が振りかぶられ、黒き塊を両断し焼き尽くした。
「あとは任せた」
そう告げ消えようとしたところで、疑問の声が聞こえた。
「以前もあっておる。これからも会うこともあるであろう。
何より大馬鹿者のお主が戻ったのだから、おちおち昼寝もできぬ。
がっかりさせてくれぬなよ。遣い手殿?」
そう言葉を残し姿を消した。口元には、笑みがあった。
ごめんなさい。がっつり戦闘シーン書いたところ、かわいいとは違う何かに(^_^;)
最初から、巴の設定はあったのですが日の目みないかと思ってたら、話が膨らみ。こんな形に…。




