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仲間を作れ

 宗一郎(そういちろう)は、女子に取り囲まれながら先に出て行ってしまっている。熊谷(くまがい)に続いて三橋(みはし)があんなことになったのに、女子たちはさほど気にしていない様子で、きゃいきゃいと黄色い悲鳴をあげていた。


 その背中を、佳乃(よしの)が黙ってにらみつけている。彼女の全身からはすさまじいともいえる殺気が噴き出しており、宗一郎を見つめていた直美(なおみ)も思わずそちらに注目していた。


「ど、どうしたの? 何かあった?」


 (あらた)と佳乃は顔を見合わせる。今までの展開で、直美が宗一郎に惹かれ始めているのは分かっている。取り返しのつかないことになる前に、真相を話しておくべきだと、二人は無言で意見を一致させた。ついでに、全然警戒していない五郎(ごろう)にも釘をさしておかねば。


「何か面白そうなお話ですね。私たちも聞いてもよろしいですか?」


 鹿ノ子(かのこ)(ひじり)も近寄ってくる。得体が知れないのはこの二人も一緒だが──味方が欲しかった新は、彼女らも話に加えることにした。宗一郎に対応するためには、大人の力も必要になってくるかもしれないからだ。


「じゃあ、話すわ。今の段階ではあくまで可能性に過ぎないけど……宗一郎は、私の両親の仇である可能性がある」

「そ、それってどういうこと? 宗一郎さんが……佳乃のご両親を殺したってこと? そんなの嘘だよね?」

「おい、あの兄ちゃんは確かにいけ好かねえけど、お前のこと助けてくれたんだろ。そんな奴が人殺しなんかするかよ」


 直美はうろたえ、五郎は宗一郎を庇っている。やっぱりこの二人は根が善人だ、と新が思っていると、佳乃がため息をついた。


「両親を狙っていたかは分からない。三年前に大規模なホテル火災があったの、覚えてる? 一時期はニュースがその話題で持ちきりだったわ」

「あ、覚えてるよ。確か、百人以上亡くなったっていう……じゃあ、佳乃のご両親もその中に?」

「ええ。だから、奴がやったとしても、意図的に両親を殺そうとしたかはわからない。そもそも、ホテルの消火設備が老朽化していなければ、ここまでの大火災にはならなかったはずだもの。でもそれで罪が軽くなるわけじゃないわ」

「でも、どうして急に宗一郎さんを疑い始めたの? まさか彼の口から聞いたわけじゃないよね?」


 直美の問いに、佳乃より先に鹿ノ子が答えた。


「さっきのゲームでしょう? 各カードに、個人の知られたくない秘密が書いてあるとう悪趣味な代物でしたわね。それに、何か火災を思わせるような記述があったのではなくて?」

「……その通りだ。一番ランクの高い二のカードに、こう書いてあった。『火事の嘘』ってな」


 新が言うと、佳乃が体をびくりと震わせた。やっぱり見ていたか、と新は内心でため息をつく。


「オペラグラスまで用意してるとは思わなかったけどな。あいつはお前がゲームを終えて見てきたタイミングで、それが公開されて……少し満足そうだったよ」

「なるほど。佳乃さんがゲームを早く終わらせたがるので、おかしいとは思っていましたが……そういうことでしたか」


 九班より早くゲームが終われば、疑っている宗一郎の「秘密」を直接観察する機会が生まれる。佳乃と鹿ノ子の二強がゲームをあっという間に制圧したおかげで残りの二人は目が死んでいたらしいが、事情を知ったら許してくれるだろう。


「じゃあ、本当に宗一郎さんが……」

「まだ可能性があるってだけの話だ。『火事』って書いてあっただけで、三年前のホテル火災のことかは分からないからな。ただ、不用意にあいつに近寄らない方がいい。実際、今日それで女子が一人失格になってる」


 三橋のことを聞くと、鹿ノ子が特に大きく顔をしかめた。


「彼女は私と同じ三班でした。『私にぴったりの部屋がもらえたし、みんな優しいし、来てよかった』と昨日はとても喜んでいたんですが……まさかそんなことになるなんて」

「奴自身は一切手を汚さなかった。おそらくは、こっそり連絡先でも交換して甘いことを言っていていたんだろう」


 そのやり取りも、いつまで続くか分からない。三橋がこの村を出てしまったら、宗一郎にとっては完全に用済みだ。


「……と、とりあえず。あいつは女の子を弄ぶ、嫌な奴ってことだな!」

「大体あってる」


 五郎が雑にまとめたが、一言でいうとそういうことだ。本当のことを知った直美は完全に、怒りで顔を紅潮させている。


「なにそれ!? カッコいいと思った私が、馬鹿みたいじゃない!」

「まだあなたはそれで済んで良かったんですよ。そういう男に迂闊に個人情報を渡してしまったら、どうなるか分かりませんもの」


 鹿ノ子がため息をつきながら、新に向き直った。


「このこと、運営側には報告します? これだけの人数が固まって訴えたら、少しは聞いてくださるかもしれませんわよ」


 鹿ノ子の横で、聖もうなずいている。しかし新は、その申し出を断った。


「気持ちは本当にありがたいし、俺もそうしたい。だが、今の運営に言っても、握りつぶされるだけだと思う」

「どうしてそう思われるのですか?」

「運営は宗一郎のタチの悪さを分かってて、あえて放置してる。そう考えたほうが、自然だからだ」


 傍で見ていた運営の人間や、カメラでチェックした人間なら、三橋が恋でうきうきし、誰を見ているかなんてことは容易に分かったはずだ。それなのに宗一郎には何も言わなかったというのは、公平をモットーにしているにしては、不自然すぎる。


「でしょうね。だって、ゲームをひっかきまわすという点では、彼以上の逸材はいないわ。女同士の対立をあおり、男子からは警戒される。もし彼がいなかったら、この会は予想以上にほのぼのした感じで終わったはずよ。運営は、それを望んでいなかった……」


 佳乃が悔し気に言う。鹿ノ子が眉を寄せたまま、彼女に聞いた。


「さすがにそれは勘繰りすぎではありませんか?」

「でもさっき、あのお婆さんはこう言ったのよ。『ただし、残念だったのは反則による失格者が出てしまったことだね。願わくば、二度とこんなことが()()()()()()()()()』って」

「…………」

「これって、不正自体は黙認するけれど、あからさまにバレるような下手は打つなよ、と言っているように聞こえない? どうしても信じられないのなら行ってもいいけれど、目をつけられるだけだと思う」


 冷ややかに言い放つ佳乃に、その場の誰も反論できなかった。ぞろぞろと他の班の面子が引き上げていく中、新たち六人だけが取り残される。


「あの。時間さえよかったら、うちの宿舎で作戦会議でもしませんか?」

「え?」


 思わず新が聞き返すと、鹿ノ子はにっこりした。


「こうしている間にも、宗一郎さんは次々と女性の協力者を作っているかもしれませんよ。それなのにこちらがバラバラでは、勝てるものも勝てないと思いませんこと?」


 問われて、新は佳乃の顔をちらっと見た。今までずっと一人で犯人を追ってきた彼女は、他人の介入を嫌がるのではと思ったのだ。しかし彼女はすぐに、鹿ノ子に向かって頭を下げる。


「……正直、今はなんの証拠もないの。力を貸してもらえると、嬉しい」

「決まりですね。では、新さんたちも一緒にどうぞ」


 鹿ノ子はにこにこしながら言うが、新は素直に喜べなかった。


「俺は首つっこんじまったから仕方ないが、五郎と直美はもういいだろ? この二人は逆さにして振っても、大したもんは出てこないぞ」

「何だよその言い草はぁ!?」

「そうよそうよ、ズルいぞ!!」

「お前ら、今までの会話の中でずーっと黙りこくってたくせに何言ってる。大方、どうやって入ったらいいか分からなかったんだろうが」


 それを聞くと、五郎と直美はそろって顔を真っ赤にした。


「本当のことばっかり言うのは、お前の悪い癖だぞ!」

「そうだよ。真実は人を傷つけるんだからね」

「全面降伏してんじゃねーよ馬鹿!」


 新が思わず声を荒げると、鹿ノ子が「まあまあ」と割って入った。


「ここまで来たらついでですし、一緒にいらっしゃいよ」

「でもねえ……」

「この人たちも一緒の方が、『皆で遊びに来ただけ』という言い訳が立つかもしれませんよ。宗一郎さんだって、新さんと佳乃さんが怪しんでいることには気づいているはず。それがこそこそと私のところに来たら、またどんな手に出てくるか分かりませんよ?」


 鹿ノ子の言葉に、佳乃もうなずいた。


「この二人を人質にでもされたら、あなた身動き取れないでしょう。私もそれは困るのよ」

「……分かったよ」


 女二人に押し切られた格好になって、新はしぶしぶ承知した。横で「わーいわーい」と喜ぶ五郎たちが、無性に恨めしい。


「じゃ、行きましょう。聖、念のため道中には注意してね」

「かしこまりました」


 ここでようやく聖がしゃべり、五郎が「本当に人間なのかな……」と失礼な台詞を吐く中、新たちは第三班の宿舎まで歩いた。見える景色に大きな変化はないが、少し山が低く見える。


「同じ村でも、移動してみると違うもんだな」

「聖の一班の家からだと、海が見えるんですよ。海遊びをしたりはしなかったの?」

「私にそんな暇はありませんよ。他の面子も、ゲームに必死でしたし」


 あくまでも仕事人の仮面を崩さない聖を見て、新も彼に少しロボット味を感じた。五郎と同じ感想というのが心外だが、思ってしまったのだから仕方ない。


「着きましたよ」


 程なくして、第三班の宿舎に到着する。広い庭を持つゆったりした家だが、手が回っていないのか、庭のところどころに雑草が茂っている。そしてこの家は、二階建てだった。


「ここは二階もあるんだな」

「一階だけで十分広いですから、私たちの部屋は全部一階でしたよ。二階には上がるなと表示がありましたから、誰も行ってません」


 新の言葉に、鹿ノ子が答える。


 玄関を入ると土間と廊下がある。靴を脱いで一つしかないドアを入ると、細い廊下を抜けた先に広いリビングがあった。構造としては八班の家に少し似ているが、家具やカーテンに桃色が多く、男子はちょっと尻のすわりが悪い。それに、一つだけ客室が奥まったところにあるのが特徴だという。


「後は勝手口が少し広いくらいでしょうか。結構、近代的なつくりのお家なんです」

「うちは竈があったぞ」

「まあ、面白い」


 会話をしながらリビングに行くと、三班の女子二人がなんだかぼんやりしていた。同じ班の三橋がいなくなってしまったのがやはりショックだったらしく、「せっかく仲良くなれたのに」とつぶやいていた。


「今から少し部屋で話をしますから、用があったらノックしてくださいませ」


 鹿ノ子は彼女らの様子をちらっと見たが、特にコメントをすることもなく部屋に入った。彼女の部屋は全体的にピンクでまとめられたパステルカラーの多いつくりで、壁にも桜の絵が飾ってある。ここが家の主の部屋であったのなら、居間のインテリアも彼(または彼女)が選んだのだろう。


「では、どこから話しましょう。とりあえず、今日見つけた秘密の共有でもしておきます? 他の班のゲームの様子は、結局よく見えませんでしたから」

「同感。だが、明らかに秘密の質が軽い奴が混じってただろ。そういうのは省いてもいいんじゃないか」

「……九班もでしたか。実は、うちにもけっこう軽い秘密が。子供のいたずらや、大人になってみれば笑えるようなものしかないスートの方もいらっしゃいました」


 逆に佳乃だけが思いっきり「焼死」「復讐」とごっついのが書かれていたので、同じ卓の二人がすくみあがってしまったのだそうだ。


「二戦目でそれを見られてね。三戦目はほぼ二人が棄権したようなものだったから、鹿ノ子さんを一位にして早々に終わらせたの」

「お前は初日のゲームのこともあるからなあ……」


 あの時の佳乃の容赦のなさと、「復讐」の文字を見たら、普通の人間はすくみあがるだろうと、新はため息をついた。

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