迷子の影
ただ、凋む。
ただ、笑う。
第二章 迷子の影
*
主討や影討が嫌いかと訊かれると、どうだろう。
ロッソは頬杖をついたまま、ぼんやりと考えていた。
世界を救うヒーローならば、「元の世界に戻す!」と高らかに宣言して、諸悪の根源とやらをやっつけに行くのかもしれない。
けれど、わからない。
主討の身体を覆う影。その内側で、元の主はまだ生きているのだろうか。
その命で影が生きているのか。それとも、中身などとうに死んでいて、影だけで動いているのか。
仮に生きていたとして、影を取り除けば元の主が戻ってくるのかさえ、わからない。
そもそも、救いたい誰かがいるわけでもない。
それに――。
「やーい! 脳筋探偵魔法使い!」
窓の外から、たいへん不名誉な肩書きが飛び込んできた。
「今日も放ってくれよ!決め台詞!」
「『影の針の名において!…拘束します!』」
最後の声には、ご丁寧に気取った間までついていた。
(……はぁ)
近所の悪ガキ主討どもだ。
ロッソは頬杖を解くと、椅子から立ち上がった。窓を開け、大きく息を吸い込む。
「さかさまァ!!」
窓の下を走り回っていた三人のうち、一人の進行方向が不意に逆転した。
後ろの一人がぶつかり、その後ろの一人もぶつかった。
「いでぇ!!!」
決め台詞をご所望だったので、ご期待には沿えたはずだ。
盛大な玉突き事故の末路を見届けるまでもなく、ロッソは窓を閉めた。
さて、どこまで考えただろうか。
椅子に戻ろうとしたところで、針子と目が合った。
小さな肩が、くすくすと揺れている。
「なんですか? 何が言いたいんですか? 脳筋ですかそうですか」
「ケケケ」
脳筋と呼ばれて、力ずくで黙らせた。
針子には、それが面白くて仕方がないらしい。
(はぁ〜……)
今度の溜息は、先ほどよりも長かった。
しばらくして、扉を叩く音がした。
「ん? 誰でしょうか?」
ロッソは顔を上げ、扉へ向かった。
「……どーぞ。本日は予約はありませんので――え?!」
扉を開け、言い終えるよりも早く、黒く小さなものが飛びついてきた。
腰のあたりに細い腕が回され、服をぎゅっと握られる。
見下ろすと、少女が一人、顔を押しつけていた。
「ぬ、主討さんですか?」
「あ……あの……あのね……!」
少女は顔を上げた。涙で濡れた目が、必死にロッソを見つめている。
「お母っさんも……お父さんっも! い……いないの……!」
*
「……どーぞ。コーヒーしかありませんが……」
「……ありがとう……ございます……」
両手でカップを包み、少女は腫れた目元を伏せた。
まだ時折、息が小さくしゃくり上がる。それでも、話のできる程度には落ち着いたようだった。
傍らでは針子が、少女の顔を覗き込もうと身を乗り出している。
「針子、今日は話せる主討さんですので、すっこんでいなさい」
針子が勢いよくロッソを振り向いた。
ロッソは少女に向き直った。
「それで、主討さん。まずはお名前をお伺いしてもいいですか?」
人の主討は、大抵、生前の主の名前を引き継いでいる。
少なくとも、ロッソがこれまで会った者たちはそうだった。
蛇足だが、先ほどの悪ガキ三人組は、背の高い順に「たあや」「あれく」「ごんべい」だそうだ。
「……私は……フィリスって……いいます」
「フィリスさん……ですか……」
外国の出身だろうか。
少なくとも、旧都国ではあまり馴染みのない名前だった。
「フィリスさん。あなたがこの体に入ってから、一番最初の記憶はなんですか?」
「学校にいました……日本のお勉強をするために、きたんです……」
「これは……」
日本。
旧世界で、この国がそう呼ばれていた。
主討は、生前の主の記憶を朧げに覚えている。フィリスの中にも、この国を訪れた理由が残っているのだろう。
(ということは、留学生……?)
両親も一緒に来ていたのだろうか。
それとも、ホームステイか寮生活か。サマースクールのようなものだった可能性もある。
ロッソは、カップに添えられた小さな手を見つめた。
「わからぬ……」
思わず口からこぼれた。
ひとまず、両親がこの国にいるとは限らない。少女一人で学びに来ていたのなら、海の向こうだ。
そして、今の主討たちは、まだ船や飛行機を動かせない。
会話はできる。近所の探偵をからかうこともできる。
けれど、身体を扱う器用さも、生前の主が身につけていた技術も、記憶と一緒にそっくり引き継げるわけではなかった。
慣れて、繰り返して、少しずつ取り戻していく。
子供が子供らしく駆け回れるようになるのと、操縦士が飛行機を飛ばせるようになるのとでは、わけが違うのだ。
両親の居場所がわかったとして。
そこまで、この子を送り届ける手段があるだろうか。
ロッソは、まだ湯気の立つコーヒーに目を落とした。
「……フィリスさん。ご両親のお名前は覚えていますか?」
少女はカップを見つめたまま、唇を開いた。
けれど、声は出てこなかった。
「お母さんは……お母さん、で……」
ロッソは黙って待った。
「お父さんも……」
カップを包む指に、きゅっと力が入る。
「……すみません。変な訊き方でしたね」
海の向こうを案じる前に、わかっていないことが山ほどあった。
名前。顔。最後に会った場所。
両親がこの国にいるかどうかさえ、まだ確かめていない。
「では、学校に来たときはどうでしたか? お父さんか、お母さんも一緒でしたか?」
「……わかんない……です」
「学校に来る前に、泊まっていた場所は?」
フィリスは首を振った。
そのまま、顔が少しずつ下を向いていく。
「……ごめんなさい」
「謝ることではありませんよ」
ロッソは頬杖をつきかけ、やめた。
「覚えていることだけで結構です。わからないことを調べるのが、私の仕事ですので」
傍らから、針子がひょいと顔を出した。
ロッソを指さし、両腕を大きく振り上げる。
「力ずくで調べるわけではありません」
針子は腕を下ろした。
フィリスが、その顔をじっと見つめている。
「……その子も、探偵さん?」
針子は胸を張った。
「助手です」
さらに胸を張った。
「今日はまだ何もしていませんが」
針子がロッソを振り向いた。
すっこんでいろと言ったのは誰だったか。たいへんわかりやすい顔をしている。
「……ふふ」
小さな声に、二人とも動きを止めた。
フィリスは口元を隠すように、カップを持ち上げていた。
一口飲んで、今度は眉を寄せる。
「……にがい」
「でしょうね……」
ほかに何かあっただろうか。
ロッソが棚へ目を向けると、針子も同じ方を見た。
しばらく見た。
何も増えなかった。
「無理に飲まなくて結構ですよ」
フィリスは小さく頷いて、カップを置いた。
「それで、その学校ですが。場所は覚えていますか?」
「……たぶん」
先ほどまでとは、少し違う返事だった。
ロッソは椅子から身を起こした。
「ここへ来る前にも、そこに?」
「うん……いました」
「では、そこまで一緒に行ってみましょうか」
フィリスが顔を上げた。
「学校に、いるの?」
「ご両親が、ですか?」
頷く。
ロッソは一度、言葉を選んだ。
「それは、まだわかりません」
少女の目元が曇った。
「ですが、フィリスさんがどこから来たのか、知っている方がいるかもしれません。何か残っているかもしれませんし」
ロッソは立ち上がった。
「ここで私が唸っていても、わかることは増えませんので」
針子が口元を押さえた。
「今度はなんですか」
針子は首を横に振った。
肩は揺れていた。
*
扉を開けると、少し離れたところに悪ガキが三人、しゃがみ込んでいた。
一人がこちらに気づき、残りの二人を肘で小突く。
三つの顔が、一斉に上がった。
「あっ、出てきた」
ロッソは息を吸った。
「待て待て待て! まだなんも言ってねえ!」
「深呼吸です」
三人とも、もう立ち上がっていた。
学習はしているらしい。
「あれ。そいつ、誰?」
ロッソの後ろへ、フィリスが半歩隠れた。
服の端が、そっと引かれる。
「依頼人さんです。お仕事ですので、邪魔をしないように」
「なんの依頼?」
「お前らの逮捕じゃね?」
「黙れゴンベイ」
ロッソは扉を閉めた。
「針子、行きますよ」
針子が悪ガキたちへ何やら身振りをしてから、ついてきた。
何を伝えたのかは知らない。知ると面倒そうだった。
「では、フィリスさん。道案内をお願いしてもいいですか?」
「……はい」
フィリスは通りを見回して、片方を指さした。
それから歩き出そうとして、自分の手元を見た。
まだ、ロッソの服を握っている。
「あ……」
「そのままで結構ですよ」
ロッソは少女の隣に並んだ。
「私からも迷子になられては、困りますので」
*
フィリスは、一つ目の角を迷わず曲がった。
二つ目の角では少し立ち止まり、三つ目では、ロッソの顔を見上げた。
「……こっち、だったと思います」
「はい」
「……たぶん」
「戻ることもできますので」
少女は頷き、服を握り直した。
ロッソも歩き出す。
針子だけが、曲がり角にしばらく残っていた。通ってきた道を振り返り、それから二人を追いかける。
通りの先では、店先に椅子を出した主討が、外れた引き出しと向き合っていた。
押し込む。引き抜く。ひっくり返す。
もう一度押し込もうとして、ようやく上下が逆だと気づいたらしい。
ロッソたちが通り過ぎる頃には、引き出しは無事に収まっていた。
取っ手が内側だった。
「……あ」
フィリスが立ち止まった。
道の向こうに、傾いた看板がある。
「あれ、見ました」
「ここへ来るときに?」
「うん。あの、鳥が……」
看板の上に鳥の主討が一羽、止まっていた。
こちらを見下ろし、嘴を開く。
「……ケッ」
「態度の悪い目印ですね」
フィリスはその下の細道を指さした。
今度は、足取りに迷いがなかった。
*
学校の門は、片方だけ開いていた。
もう片方はレールを外れて途中で動かなくなっている。
門柱に残る文字を、ロッソは指先でなぞった。
「華見川中学校…ここですか?」
「……はい」
フィリスの手が、服を引いた。
門の奥を見つめたまま、動かない。
校庭には草が伸びていた。
その間を縫うように、何度も踏まれた道が校舎まで続いている。
割れた窓もあったが、すべてではない。開いた窓の一つには、雑巾らしきものが干してあった。
誰もいないわけではなさそうだ。
「フィリスさん?」
「……また、ここ」
ロッソは少女を見下ろした。
「ここから、捜しに出たんです」
服の皺が深くなる。
「それで……」
戻ってきた。
フィリスはその先を言わなかった。
「まだ、ここを調べていませんから」
ロッソは、開いている方の門へ身体を向けた。
「今度は私もいます」
しばらくして、小さな足がついてきた。
針子も反対側からフィリスを覗き込み、自分を指さした。
「助手もいます」
針子は満足そうに頷いた。
校舎の入口には、片方だけの上履きが置かれていた。
針子が足を入れようとする。
「それは借りなくて結構です」
奥で、何かを引きずる音が止まった。
「誰かいるのかい」
廊下から現れたのは、箒を持った人の主討だった。
灰色の顔に眼鏡をかけ、袖を肘まで捲っている。
その視線がロッソからフィリスへ移った。
「ああ。帰ってきたんだね」
フィリスは小さく頭を下げた。
「……ただいま」
「お知り合いですか?」
ロッソが訊くと、その主討は箒を持ち替えた。
「ここにいる子だよ。君は?」
「探偵です。ご両親を捜してほしいと、ご依頼を受けまして」
「ああ……」
眼鏡の奥の目が、フィリスへ戻った。
返事までに、少し間があった。
「私にも、何度か訊きに来たよ。ただ、私が覚えているのは、この学校のことばかりでね」
「こちらで先生を?」
「たぶん、そうだったんだろうね。職員室の自分の机は、すぐにわかったから」
その主討は、廊下の奥を指した。
「ほかの机を開けると、どうも落ち着かなくて」
「なるほど……」
判断の仕方には少し引っかかったが、今は机の所有権を調べに来たわけではない。
「生徒さんの名簿などは残っていますか? フィリスさんが、どちらからいらしたのか。滞在先だけでもわかればと思うのですが」
「紙なら、まだずいぶんあるよ。何が何だか、私も全部は見ていないけれど」
箒を壁に立てかけ、その主討は歩き出した。
「こっちだよ」
フィリスが、ロッソの服から手を離した。
廊下の壁を見つめている。
掲示板には、端の丸まった紙が何枚も留められていた。
「何か、覚えていますか?」
「……これ」
少女が指したのは、一枚の写真だった。
校門の前に、子供たちが並んでいる。
服の色も、背丈もばらばらで、何人かは隣を向いていた。
その列の端に、フィリスと同じ顔の少女がいた。
ロッソは写真と、隣の少女を見比べた。
「フィリスさん、ですね」
「うん」
写真の中の少女は、両手で紙を掲げていた。
ほかの子供たちも、それぞれ一枚ずつ持っている。
ロッソは少し顔を近づけた。
「……お名前が書いてありますね」
今のフィリスは覚えていない、続きの名前も。
「フィリス・シンクレア……」
隣で、少女の唇が同じ形に動いた。
「……シンクレア」
もう一度、小さく繰り返す。
「そう、だったと思います」
ロッソは手帳を取り出し、その名前を書き留めた。
フィリスはまだ写真を見ていた。自分の顔よりも、掲げられた紙の方を。
「こちらの写真は、いつのものかわかりますか?」
先を歩いていた主討が戻ってきた。
眼鏡を押し上げ、掲示板に顔を近づける。
「下に、何か書いてあるね」
写真の下には、細長い紙が貼られていた。
端が捲れ、文字の半分ほどを隠している。
ロッソがそっと押さえると、『短期留学生交流会』という見出しと、その日付が現れた。
「この頃の資料から探してみましょう」
*
職員室には、机が並んでいた。
机の上にも、机の下にも、紙があった。
棚にもあった。
床には、棚に入らなかった分があった。
「……ずいぶんありますね」
「言っただろう」
確かに言っていた。
何一つ誇張していなかった。
一つだけ、きれいに片づいた机があった。
主討はその前を通り、椅子の向きを少し直した。
「そちらが、ご自分の?」
「うん」
ロッソは隣の机を見た。
書類が山になっている。
「……こちらの紙を、そちらへ移したわけではありませんよね?」
「少しは」
少しの範囲について話し合うのは、後にした。
写真の日付を伝えると、主討は棚の前で首を傾げた。
背表紙に並ぶ数字を順に指で追い、一冊抜き出す。
「この辺りかな」
机に置かれた綴じ込みを、ロッソは開いた。
行事の予定。配られたらしいお知らせ。何かの見積書。
探している名前は、なかなか出てこなかった。
隣では針子が紙を一枚持ち上げ、光に透かしていた。
裏返す。
また透かす。
「透かしを探すお仕事ではありません」
針子は紙を下ろした。
「あの……私も、見ていいですか?」
フィリスが机の向こうから訊いた。
「もちろんです。何か覚えのあるものがあったら、教えてください」
ロッソが紙の束を分けると、フィリスは椅子を引いて座った。
一枚ずつ、両手で端を揃えながら読んでいく。
針子もその隣に収まり、覗き込んだ。
しばらく、紙を捲る音だけが続いた。
フィリスは一枚ずつ丁寧に目を通している。
針子も大人しい。
大人しく探偵業務に励むことは、大変好ましいことだ。
……好ましい。
ロッソは紙を捲る手を止めた。
針子が、大人しい?
「むしゃむしゃ」
振り向いた先で、針子が複合機の給紙トレーを器用に開けていた。
まっさらなA3用紙を、口いっぱいに頬張っている。
一枚取る。折る。詰める。
手際がよかった。
(うわぁ、バケモノ……じゃなくて、針子って紙を食うタイプのクリーチャーだったんだ……じゃなくて、A3なんて贅沢な…
B5にしなさい…じゃなくてっ!!!)
「何してるんです針子っ!」
針子は動きを止めた。
口から、紙の角が出ている。
ロッソを見る。
手元の紙を見る。
差し出す。
「いりません!」
針子は引っ込めた。
口へ運ぼうとした。
「ぉおかわりすな!!!」
ロッソは残りの紙を取り上げた。
針子が両手を伸ばす。
「人様の学校の備品を食べないでください!」
「……お腹、空いてたのかな」
フィリスが困ったように針子を見た。
「だとしても、紙で満たそうとしないでいただきたいです……」
先生らしき主討が、開け放たれた給紙トレーを覗き込んだ。
「そこ、そうやって開くんだね」
「今覚えることはそれですか」
ロッソは紙を戻し、トレーを閉めた。
針子が、その取っ手を見つめている。
「おかわりはありません」
針子は肩を落とした。
席へ戻ると、フィリスが一枚の紙を両手で持っていた。
針子から、少し遠ざけている。
「……これ、写真のと同じです」
差し出された紙の上には、『短期留学生交流会』とあった。
日付も一致している。
ロッソは手元の綴じ込みを脇へ寄せた。
「それです。ありがとうございます」
ようやく、食用ではない紙が見つかった。
もとより、一枚も食用ではない。
フィリスが少しだけ背筋を伸ばした。
交流会の案内に続いて、日程表があった。
到着。学校訪問。市内見学。
その後ろに、参加者の名前を並べた表が綴じられている。
ロッソは指で行を辿った。
「……ありました」
フィリス・シンクレア。
写真から書き写したものと、同じ名前だった。
隣の欄には、受け入れ先として日本人の名字と住所が記されている。
ほかの参加者にも、それぞれ別の名前が割り振られていた。
「滞在先の一覧のようですね」
「……お母さんたちの?」
「いえ。こちらで泊めてくださっていた、お家の方だと思います」
フィリスは紙を引き寄せた。
住所を見つめ、それから受け入れ先の名字へ目を移す。
「覚えていますか?」
「……わからない、です」
今度は俯かなかった。
もう一度読み直すように、紙へ顔を近づける。
ロッソも続きを確かめた。
電話番号はある。けれど、それだけだ。
両親の居場所を示すものは、この表にはなかった。
「先生。地図はありますか?」
「地図なら、そこの壁に」
ロッソは振り向いた。
書類の山の向こうに、大きな市街図が貼られている。
近づいて住所を探すと、学校からそう離れていない区画に行き当たった。
道を二本。
橋を一つ。
今も通れるなら、歩いて行ける。
「こちらも訪ねてみましょう」
フィリスが椅子から立ちかけた。
机の上の紙に気づき、慌てて座り直す。自分が見た分を揃え、元の束の隣へ置いた。
「……ここで、いいですか?」
「うん。ありがとう」
主討は頷いた。
針子も紙を置いた。
フィリスが、その一枚だけ上下を直した。
ロッソは住所を書き写し、手帳を閉じた。
「何かわかりましたら、またお知らせに来ます」
「そうかい。気をつけて」
職員室を出ると、フィリスは掲示板の前で一度足を止めた。
写真の中の自分を見て、それからロッソの手帳に目を向ける。
「……名前」
「はい?」
「書いてくれて、ありがとうございます」
ロッソは手元を見下ろした。
「大事な手がかりですから」
少女は頷いた。
今度は自分から、校舎の出口へ歩き出した。
しかし、校門を出たところで、ロッソの腹が鳴った。
フィリスが足を止める。
針子も止まった。
ロッソだけが、何事もなかったように二歩進んだ。
「……お昼にしましょうか」
針子が腹を押さえ、こくこくと頷く。
「あなたは先ほど召し上がったでしょう。A3を」
*
学校から少し歩いた先に、小さな公園があった。
ベンチに積もった葉を払い、ロッソは腰を下ろした。
フィリスも隣に座る。
針子は二人の間へ入りかけ、ロッソに端へ寄せられた。
鞄から包みを取り出す。
中には、パンが二つ。
ロッソはその一つを、フィリスへ差し出した。
「どうぞ。フィリスさんも、お食事はまだでしょう?」
「……いいんですか?」
「はい。影の実もありますので、そちらもどうぞ」
フィリスは受け取ったパンと影の実を、広げた包みの上に載せた。
「……ありがとうございます」
針子も両手を差し出した。
ロッソは残ったパンを見た。
針子を見た。
「……よく入りますね」
針子は頷いた。
感心したわけではない。
ロッソは自分のパンを少しちぎり、その手に載せた。
針子は早速、口へ放り込んだ。
「味わってください。紙との違いを」
フィリスもパンをひと口齧った。
ゆっくり噛んで、もうひと口。
「……おいしい」
「それはよかったです」
隣から、早くも空になった両手が伸びてきた。
「早いんですよ、何もかも」
ロッソは自分の分を遠ざけ、ようやくひと口齧った。
「あ……あの」
フィリスがこちらを向いた。
何か言いかけて、口を閉じる。
「……えっと」
ロッソは飲み込んでから、首を傾げた。
「はい?」
「た、たんていさん?」
パンを持つ手が止まった。
「……私ですか?」
フィリスが小さく頷く。
「すみません。なんてお呼びしたらいいか……お名前、まだ……」
そういえば。
名前を訊いた。両親のことも訊いた。覚えている場所まで訊いた。
自分は名乗っていない。
ロッソはパンを包みの上へ戻した。
「……こちらこそ、失礼しました。私、名乗っていませんでしたね」
針子がゆっくりと顔を向けた。
ロッソは見なかった。
「ロッソ・グールと申します。探偵事務所《影の針》の所長です」
「ロッソさん……」
「はい。こちらが助手の針子です」
針子が片手を上げた。
もう片方は、ロッソのパンに伸びていた。
その手首を捕まえる。
「勤務中にA3を食べるおばかです」
針子は首を振った。
空いている手でパンを指さす。
「今は私物ですね。どちらにせよです」
「……針子さん」
フィリスに呼ばれ、針子は姿勢を正した。
「ケケケ」
手首は捕まれたままだった。
「それで、どうされました? フィリスさん」
「あ……」
フィリスは膝の上の包みを見下ろした。
しばらくして、顔を上げる。
「……ロッソさん。ありがとうございます」
「パンでしたら、お気になさらず」
「それも、ですけど……学校にも、一緒に来てくれて」
ロッソは針子の手を膝へ戻した。
「ご依頼ですので」
「でも、私、わからないことばっかりで……」
「資料を見つけてくださったでしょう」
フィリスの指が、包みの端で止まった。
「おかげで、午後に行く場所ができました。助かりましたよ」
少女は少しだけ頷いた。
それから、食べかけのパンを持ち直した。
ロッソも昼食を再開する。
ひと口齧る。
針子が、隣で口を動かした。
もうひと口齧る。
針子も動かす。
ロッソは横を向いた。
その手には何もない。
ただ、こちらに合わせて噛んでいた。
「……食べづらいので、やめていただけますか」
フィリスが口元を押さえた。
笑いを飲み込んでから、自分のパンを少しちぎる。
「針子さん。これ……」
「甘やかすと、際限がありませんよ」
言い終える頃には、針子は受け取っていた。
今度は両手で持ち、小さくひと口齧った。
ゆっくり噛む。
もうひと口。
ロッソは目を細めた。
「……できるんですね。そういう食べ方」
針子は丁寧に頷いた。
フィリスは、今度こそ声を立てて笑った。
*
食べ終えた包みを畳み、ロッソは鞄へ戻した。
針子の手が、その動きを追う。
「包みは食事に含みません」
手が引っ込んだ。
フィリスが立ち上がり、ロッソも手帳を開く。
道を二本。橋を一つ。
その先に、目当ての家がある。
橋があれば、の話だった。
「……ありませんね」
橋は、途中からなくなっていた。
こちらの岸から伸びる路面が、不揃いな断面を晒して途切れている。
向こう岸にも、残りが少し。
間には川が流れていた。
ロッソは手帳を見た。
地図では、繋がっている。
目を上げる。
繋がっていない。
「大きく回り道をするしか……」
フィリスが川の上流へ顔を向けた。
次の橋は、ここからでは見えなかった。
「ですが、回り道って私、嫌いなんですよね……」
ロッソは手帳を閉じた。
「針子」
針子が振り向く。
「あなた、飛んでますよね?」
針子は自分の足元を見た。
浮いていた。
ロッソを見る。
もう一度、足元を見る。
「……?」
「まだ……ろくなお仕事、してませんよね……?」
「ケケッ?!」
針子が慌てて両手を動かした。
来た道を指さし、何かを訴えている。
「お食事の話はしていません」
針子は頭を抱えた。
*
川の上を、針子が進んでいた。
右手にロッソ。
左手にフィリス。
二人をぶら下げ、少し進んでは沈み、持ち直しては横へ揺れる。
「ケ……ッ、ケケ……ッ」
「やればできるじゃありませんか」
針子がロッソを睨んだ。
その分だけ、少し下がった。
「前を向いてください。前を」
フィリスは針子の手に両手で掴まり、足を縮めていた。
「あの……針子さん、大丈夫ですか……?」
針子は頷きかけた。
やめた。
頷く余裕もないらしい。
ロッソは向こう岸へ目を向けた。
あと少し。
針子の足が、宙でぐっと踏ん張っている。
踏むものはなかったが、本人には必要なようだった。
ようやく靴の先が地面に触れた。
ロッソは岸へ上がり、隣のフィリスにも手を貸した。
「ありがとうございます。助かりました」
フィリスも何度も頷いた。
「ありがとう、針子さん……!」
針子は二人の手を離した姿勢のまま、ゆっくりと地面へ降りた。
膝をつく。
両手もつく。
そのまま、額までついた。
「……帰りは別の道にしましょうか」
針子が勢いよく顔を上げた。
*
住所のある通りへ入ってから、ロッソは歩く速度を落とした。
道に、瓦が落ちている。
その先には折れた木材。
塀の上に、窓枠らしいものが引っかかっていた。
手帳の番地と、残っている門柱の数字を見比べる。
合っている。
隣の家も確かめた。
間違ってはいない。
「家が……ない……?」
フィリスが呟いた。
門の奥には、瓦礫が積み重なっていた。
柱が折れ、屋根が落ちている。
壁だったものと床だったものの区別も、すぐにはつかなかった。
「破壊されていますね」
ロッソは手帳を閉じた。
昼に見つけた住所が、急に頼りなく思えた。
「さっきの橋といい……何か、きな臭いですね……」
「ケケ?!」
針子が顔を上げた。
「きなこじゃありません。砂利食わせますよ」
「……」
針子は足元を見た。
「選ばないでください」
フィリスは門の前で立ち尽くしていた。
庭まで続いていたはずの道が、崩れた壁の下へ消えている。
「ここに……泊まってたんですよね」
「資料では、そうなっています」
ロッソは瓦礫へ目を戻した。
何があったのか。
家にいた者たちは、どうなったのか。
まだ、見ただけではわからない。
「ひとまず、この中から手がかりを探しましょう」
フィリスが顔を上げる。
「何か、残ってるでしょうか」
「確かめましょう。触ると崩れそうなところには、近づかないでくださいね」
ロッソは足元を確かめながら、門をくぐった。
針子も続く。
今度は何も拾って口へ運ばず、折れた木材の向こうを覗き込んだ。
崩れた屋根の端を避け、ロッソは庭へ回った。
割れた鉢。横倒しの物干し台。
その先に、引き出しが一つ落ちていた。
中には濡れて固まった紙が詰まっている。
端を持ち上げかけ、やめた。
無理に剥がせば、文字ごと千切れそうだった。
「フィリスさん。そちらには何かありますか?」
「……靴が、あります」
少女がしゃがみ込んでいた。
土埃を被った片方の靴を見つめている。
「見覚えは?」
少し待ってから、首が横に振られた。
「そのままで結構です。ほかも見てみましょう」
針子が折れた板の隙間へ潜り込んだ。
ほどなく、小さな手が出てくる。
握られていたのは、テレビのリモコンだった。
「相撲は昨日も見たでしょう?」
針子はリモコンを置き、また潜った。
ロッソは足元の紙を一枚拾った。
知らない店の広告だった。
その下も広告。
さらに下は、破れた封筒だった。
宛名の名字が、学校の資料と同じだった。
住所も合っている。
やはり、この家で間違いない。
ただ、それを確かめたところで、瓦礫が家に戻るわけではなかった。
「……ここにいた人、どこへ行ったんでしょう」
フィリスが辺りを見回した。
「今のところ、わかりません」
ロッソも崩れた家へ目を向けた。
声をかけても、返事はなかった。
誰かが出てくるような物音もない。
奥から、針子の腕が伸びた。
「ケケッ」
今度は、小さな箱を押し出していた。
蓋が斜めに食い込み、閉じなくなっている。
ロッソは両手で受け取り、平らな場所へ置いた。
「ありがとうございます」
針子が這い出てきた。
頭に積もった埃を払おうとして、ロッソに向かって盛大に撒いた。
「……ありがとうございます」
二度目は少し、声が低かった。
箱の中には、葉書や封筒が入っていた。
折れた蓋に守られていたのか、下の方は潰れずに済んでいる。
ロッソは一枚ずつ取り出し、宛名を確かめた。
家の住人に届いた手紙。
何かの案内。
その間に、学校で見たものと同じ交流会の冊子が挟まっていた。
「これですね……」
フィリスが隣へ寄ってきた。
ロッソは冊子を開く。
日程表。集合場所。受け入れ先への注意事項。
ページの隅には、手書きで丸がつけられていた。
『帰国』
その横の日付を、フィリスが指で押さえた。
「……帰る日、あったんですね」
「はい」
少女の指は、しばらく動かなかった。
連絡先の欄には、学校と交流団体の名前があった。
ロッソはそれを書き写し、次のページを捲った。
両親の名前や住所は見当たらない。
冊子の下に、小さな封筒が残っていた。
表には、フィリス・シンクレア。
「フィリスさん。こちらは、あなたのものでは?」
少女が受け取った。
封筒の口を開き、中へ指を差し入れる。
一枚の写真が出てきた。
色のあるフィリスが、二人の大人の間に立っていた。
少女は、動かなくなった。
写真を持つ指だけが、端を少し強く挟んだ。
「……お母さん」
ロッソは手帳から顔を上げた。
「お父さん……」
フィリスは片方ずつ、確かめるように見つめた。
それから真ん中の自分へ目を移した。
「……こんな顔、だった」
ロッソは隣にしゃがんだ。
写真の二人を見る。
母親らしき女性と、父親らしき男性。
今まで名前さえわからなかった相手に、ようやく顔がついた。
「裏に、何か書いてありますか?」
フィリスがそっと返した。
白かった。
隅に小さな汚れがあるほか、何もなかった。
「……ないです」
「では、なくさないように。大事な手がかりです」
少女は頷き、もう一度だけ写真を見た。
それから封筒へ戻し、服のポケットにしまった。
上から手で押さえる。
針子も箱を覗いていた。
底には、もう何もない。
ひっくり返そうとするので、ロッソは押さえた。
「出汁も出ません」
*
その後もしばらく捜したが、両親に繋がるものは見つからなかった。
ロッソは見終えた手紙を箱へ戻し、雨の当たりにくそうな壁の陰へ寄せた。
「今日は、一度戻りましょう」
フィリスの手が、ポケットへ触れた。
「……はい」
ロッソは手帳を鞄へしまった。
名前と、顔。
持ってきたときより、手がかりは増えている。
ここから先をどう捜すかは、落ち着いて考えたかった。
「帰りは橋を探しますので。針子、今度は――」
低い音がした。
ロッソは口を閉じた。
遠くで、大きなものを引きずっているような。
けれど、その音は途切れずに伸び、ゆっくりと高さを変えていった。
遠吠えだった。
そうわかっても、知っている犬の声とは結びつかなかった。
腹の底にまで届くような低さだった。
ロッソは、音のした方を見た。
崩れた屋根の向こう。
何軒も先の建物の隙間に、黒い犬の形があった。
遠い。
そのせいで、小さく見えた。
隣の家の屋根より、頭が高かった。
「……ロッソさん」
フィリスも見ていた。
針子は、まだ半分上げていた手を下ろした。
犬の形が、ゆっくりと動いた。
上へ向けていた鼻先が下がる。
胴体は動かない。
頭だけが、こちらへ回ってくる。
片方の目が見えた。
いや。
目があるはずの場所に、穴があった。
光を返さない、黒い穴。
顔の向きが変わるにつれ、もう一つも見えてくる。
ロッソはフィリスの腕に触れた。
引っ張らず、声も出さず、すぐ隣へ寄せる。
何だ、あれは。
犬の主討なら、見たことがある。
あんなものは、ない。
二つの穴が、こちらへ向きかけていた。
「……下がりますよ」
ロッソはフィリスの腕に添えた手へ、少しだけ力を込めた。
一歩、後ろへ。
その瞬間、犬が吠えた。
音が、身体にぶつかった。
膝が曲がる。
踏み出すはずの足が、地面に貼りついていた。
ロッソは息を吸おうとして、喉が閉じていることに気づいた。
耳の奥で、まだ吠えている。
声はもう止まったのかもしれない。
それさえ、わからなかった。
フィリスの指が、ロッソの腕に食い込んだ。
針子も低い位置で固まっている。
いつもの笑い声は、出なかった。
黒い犬が、こちらへ踏み出した。
建物の隙間から肩が現れる。
その後ろに、まだ胴が続いていた。
大きい。
わかっていたはずなのに、近づくたびに、思っていた大きさを超えてくる。
ロッソのこめかみを、汗が伝った。
拭う手が動かない。
足も動かない。
犬だけが、動いている。
口を開いた。
息が漏れた。
「さ……」
犬の右前足が上がる。
「さかさまっ!」
その足先が、不意に後ろへ滑った。
巨体が傾く。
前脚が折り重なり、黒い顎が路面へ落ちた。
地面が揺れた。
その振動で、ようやくロッソの足が動いた。
「走って!」
フィリスの手を掴み、駆け出す。
針子が二人の後ろについた。
瓦礫を跨ぐ。
門を抜ける。
通りへ出て、ロッソは振り返った。
犬は、こちらを向いたままだった。
向きが変わっていない。
いや。
起き上がろうとする右前足。
その先だけが、踏み込むたびに逆へ逃げていた。
(……足先だけ?)
犬が、その脚を持ち上げた。
宙で一度、振る。
次には、残りの三本で身体を起こした。
大きすぎる。
あれ全体を、捉えきれていない。
考えている間にも、犬は走り出した。
「さかさまっ!」
今度は踏み出した左前足が滑った。
犬の肩が落ちる。
けれど、倒れない。
反対の脚を突き出し、低くなった姿勢のまま追ってくる。
「ロッソさん……!」
「前を見ていてください!」
角を曲がった。
直後、背後で塀が砕けた。
犬は同じようには曲がらなかった。
身体をぶつけ、角を削りながら抜けてきた。
破片が路面を跳ねる。
「さかさまっ!」
犬の脚が一瞬もつれた。
それだけだった。
もう一度。
もう一度、声を絞る。
滑る足をすぐに持ち上げ、別の脚で踏み込んでくる。
やがて、崩れかけた重心さえ次の一歩へ繋ぐようになった。
慣れている。
こちらが息を切らしている間に。
あれは、足の使い方を覚えている。
針子がロッソの袖を引いた。
前を指さす。
建物の間に、川が見えた。
来た道だった。
「……橋は」
言いかけて、ロッソは歯を食いしばった。
別の橋を探すはずだった。
けれど、曲がれる道を選び、犬から離れる方へ走るうちに、ここへ戻ってきていた。
右へ折れようとした。
背後から黒い前脚が伸び、曲がり角を塞いだ。
路面を擦った爪が、長い溝を残す。
ロッソはフィリスを引き寄せ、橋へ走った。
逃げ込んだ先には、空があった。
途中で切れた路面。
その下を流れる川。
靴の先で、小石が落ちた。
ロッソは踏みとどまった。
フィリスを背後へ庇い、振り向く。
針子が両手を伸ばしていた。
二人を掴もうとして、自分の腕を見る。
川を見る。
間に合わない。
犬は、もう橋の入口にいた。
「さかさま……っ!」
右前足が、僅かにずれた。
持ち上がる。
位置を変えて、置き直される。
巨体は揺れもしなかった。
ロッソの背後で、フィリスが小さく息を詰めた。
その手は服を握り、もう片方は写真の入ったポケットを押さえていた。
犬が頭を下げる。
二つの穴が、ロッソを覗き込んだ。
近くで見ても、底はなかった。
何を見ているのか。
何を考えているのか。
何一つ、読み取れない。
顎が開いた。
糸を引いて落ちた唾液が、ロッソのスカートにかかった。
布が重くなる。
脚に、冷たいものが触れた。
退こうとして、踵の下で路面が欠けた。
「……こんなところで、死ぬんでしょうか……」
声が、自分でも驚くほど小さかった。
その時。
「いやぁ……すごいおっきなわんちゃんですねぇ」
場違いなほど、のんびりした声がした。
「やっぱロッソさん、何か持ってるんでしょうかねぇ」
「……チェレステ、さん……?」
声のした方へ、ロッソは顔を向けた。
橋の脇に残った欄干へ、青い袖が軽く触れている。
チェレステは、いつもの笑みを浮かべていた。
「はい。こんにちはぁ」
散歩の途中で会ったような挨拶だった。
犬が鼻先を動かした。
二つの穴が、声の主へ向く。
チェレステはそれを見上げ、少しだけ首を傾けた。
「でも、さすがって言っても、まだこの程度の主討にもビビっちゃうんですねぇ。かわいいです♡」
この程度。
ロッソは、その言葉を頭の中で繰り返した。
返す言葉より先に、震えていた膝から力が抜けそうになった。
犬の顎が、大きく開いた。
「ぐぉぉぉぉおおおおお!」
フィリスが肩を跳ねさせた。
ロッソは少女を抱き寄せ、顔を伏せさせる。
耳の奥に、またあの音が押し込まれてくる。
「あらあら……ほんとう、うるさい犬っころですねぇ……」
チェレステの声だけは、変わらなかった。
ロッソがフィリスへ目を落とした、その僅かな間。
犬は、目の前の笑みが変わるのを見た。
口元は笑ったままだった。
細められた目の奥だけが、まっすぐに犬を捉えていた。
殺す。
声にはならなかった。
けれど、犬の顎は閉じた。
「ぐるるるるるる……」
低い唸りが残った。
巨体が、僅かに後ろへ引かれる。
爪が路面を擦った。
ロッソが顔を上げたときには、チェレステはいつもの笑みだった。
「あら、いい子ですねぇ。では……」
片手が、ゆっくりと上がる。
「おやすみ♡」
犬の鼻先が、薄くなった。
ロッソは瞬きをした。
その向こうの欄干が、透けて見えた。
頭から首へ。
肩へ。
黒い巨体の表面から、影が細くほどけていく。
スルスルと引き抜かれたそれは、空中で輪郭を失い、霧のように散った。
犬が脚を踏ん張った。
その脚からも、影が剥がれていた。
屋根より高かった背が、低くなる。
橋を塞いでいた胴が縮み、向こうの道が見えてくる。
先ほどまで届かなかった頭が、ロッソの目の高さを下回った。
胸の高さを過ぎた。
膝の近くまで、落ちていった。
最後に、尾の先から黒いものがひと筋、ほどけた。
橋の上に、普通の大きさの犬が横たわっていた。
吠え声は、もうしなかった。
ロッソは口を開いた。
息だけが出た。
背後では、フィリスがまだ服を握っている。
針子も、地面の犬を見つめたまま動かなかった。
チェレステは下ろした手を、背中へ回した。
「これで、少しは静かにお話しできますねぇ」
ロッソは犬から目を離せなかった。
何度向きを変えても、止められなかった。
走っても、離れられなかった。
あれほど大きかった。
それが今、チェレステの靴の先に収まっている。
「……何を、したんですか」
チェレステは、にこりと笑った。
「今回は、かなぁり薄くしましたよぉ」
*
橋から少し離れた石段に腰を下ろしても、膝はまだ落ち着かなかった。
隣のフィリスは両手を膝の間に挟み、じっと足元を見ている。ロッソはその顔を覗き込んだ。
「……どこか、痛いところはありませんか」
フィリスは首を横に振った。
「ロッソさんは?」
「私も、大丈夫です」
立ち上がろうとして、膝が笑った。
座り直す。
「……もう少し座れば、もっと大丈夫です」
針子が二人の前へ降りてきた。両腕をだらりと垂らし、ロッソの膝に片手を載せる。
もう片方は、フィリスの膝に。
そのまま少し浮き上がろうとして、腕が伸びきる直前にやめた。
「はい。帰りは歩きますから」
針子は深く頷いた。
「行きはどうやって渡ったんですかぁ?」
「……この子に、運んでもらいました」
「お二人を?」
チェレステが針子を見る。
針子は二人の膝から手を引き取り、自分で片腕を揉み始めた。
「それはそれは。お疲れさまですねぇ」
ロッソは姿勢を正し、チェレステへ頭を下げた。
「助けていただいて、ありがとうございました。本当に……危ないところでした。」
「間に合ってよかったですよぉ。あれだけ吠えてくれれば、場所もわかりますしねぇ」
つられるように、フィリスも頭を下げる。
「ありがとうございました……」
「いえいえ。あぁ、あなたには初めましてでしたねぇ。秩序院の者です。チェレステと申します」
「フィリス、です」
チェレステは細い目をさらに細め、にこりと笑った。
ロッソは橋の方へ目を向けた。
ここからでは、あの犬は見えない。それでも、家々の上に突き出していた頭の形が、まだ目の奥に残っていた。
「……あんな主討、初めて見ました」
「でしょうねぇ。そうそういるものではありませんから」
「あれも、元は普通の犬だったんですか」
「ええ。影の実を食べすぎたんでしょうねぇ」
ロッソはチェレステを見上げた。
「……食べすぎ?」
「途方もない量を、ですよぉ。少し余計に食べたくらいで、ああはなりません」
フィリスの手が、膝の間で動いた。
「今日、パンも……」
「パンは大丈夫ですよぉ」
チェレステはゆっくり首を振った。
「影の実を極端に摂りすぎると、ああして姿まで変わってしまうことがあるんです。珍しいですけどねぇ」
「それで、あの大きさに……」
あの口なら、一度にどれだけ頬張れるのだろう。
考えかけて、やめた。
「橋を壊したのも、あの犬でしょうか」
「おそらく。自分の縄張りに入られたくなかったんでしょうねぇ」
「家も、ひどく壊されていました」
「あちらの家ですかぁ?あれは、マーキングでしょう」
「……あれが?」
ロッソは思わず、来た道を振り返った。
柱も壁も崩れ、屋根が部屋の中へ落ちていた。
「ずいぶん、迷惑な印のつけ方ですね……」
「その家で、何かしていたんですかぁ?」
「捜し物を。……しばらく、瓦礫を動かしていました」
チェレステが、なるほど、と頷く。
「それは怒るでしょうねぇ」
「先に表札でも出しておいてほしかったです」
フィリスが服のポケットに触れた。
封筒の角を確かめるように押さえ、それからロッソを見る。
「……聞いても、いいですか」
ロッソは頷いた。
フィリスは封筒を取り出し、中から写真を抜いた。端を両手で持ち、チェレステへ差し出す。
「この二人を、捜しているんです。私の……お父さんと、お母さんで」
チェレステが身を屈めた。
写真とフィリスの顔を順に見て、もう一度、写真へ視線を戻す。
フィリスの指が、写真の端で動いた。
「……見たこと、ありませんか」
少し間を置いて、チェレステは首を横に振った。
「すみませんねぇ。私には、見覚えがありません」
「……そう、ですか」
写真がゆっくり下がった。
フィリスはそれを封筒に戻そうとして、一度、縁に引っかけた。差し込み直し、奥まで収める。
ロッソはその手元から目を離し、チェレステへ向き直った。
「今日、学校で調べて、滞在先まで来たんです。写真は見つかったのですが、居場所につながるものは、まだ」
「それで、ここまで」
「はい」
フィリスが封筒をポケットへ戻す。
ロッソは立ち上がり、今度は膝が支えてくれることを確かめた。
「……今日は、一度戻ろうと思います」
「でしたら、川沿いを上流へ行ってください。次の橋は渡れますよぉ」
「次の橋ですね。ありがとうございます」
フィリスも立ち上がった。
針子はすぐに川沿いの道へ向かい、少し進んだところで振り返る。両腕はまだ垂れたままだった。
「わかってます。そっちから帰ります」
ロッソが答えると、針子はようやく前を向いた。
「お気をつけてぇ」
「チェレステさんも。……本当に、ありがとうございました」
フィリスがもう一度、小さく頭を下げた。
歩き始めてすぐ、ロッソの袖が引かれた。
振り返ると、フィリスの指が布を握っていた。
ロッソは歩幅を少し狭めた。
*
《影の針》の看板が見えた頃には、ロッソの足はすっかり重くなっていた。
隣を歩くフィリスも口数が少ない。針子だけが歩く必要のない高さを漂っているが、両腕はまだぶら下がっている。
事務所の前には、朝と同じ三人がいた。
一番背の高いたあやが、こちらに気づいて顎を上げる。
「よぉ、脳筋。そこの影人形に言われて少しこっちでも調べてやったぜ」
「……脳筋で返事をすると思わないでください。何を調べたんですか?」
「返事してんじゃん」
あれくが笑う。
たあやはその横から、フィリスを見た。
「親、捜してんだろ?」
ロッソは針子へ顔を向けた。
針子は三人を指さし、次にフィリスを指さして頷いた。
出かける前、三人を呼び止めていたのを思い出す。
「……あの時、頼んでくれていたんですか」
「ケケ」
「こいつの説明、半分くらいわかんなかったけどな」
たあやは肩をすくめた。
「この辺で、子供捜してるやついねぇかって聞いて回った」
フィリスの手が、ロッソの袖から離れた。
「……それで?」
「ま、大した事はわかんなかったけどなー」
あれくが頭の後ろで手を組んだ。
たあやも、少し口を曲げる。
「知らねぇって。聞いたやつ、みんな」
「……そう、ですか」
フィリスは一度目を伏せた。
けれどすぐに、三人へ向き直る。
「捜してくれて、ありがとうございます」
三人が黙った。
ゴンベイが靴の先で地面を擦る。あれくは組んでいた手を下ろし、たあやはなぜか事務所の看板を見上げた。
「……詫びにさ、ゴンベイが面白い動きしながら歌を歌うから、笑ってやってくれよ」
「あぁ?!」
ゴンベイの声が裏返った。
「なんで俺なんだよ!」
「お前、今日一番何やってたかわかんなかったじゃん。」
「人に話しかけるのが苦手なんだよ!!」
「いいから。ほら」
あれくが一歩退き、たあやも横へずれた。
事務所の入口の前に、ゴンベイだけが残される。
「……無理にやらなくてもいいんですよ」
ロッソが声をかけると、ゴンベイはむっとした顔をした。
「やんねぇとは言ってねぇだろ」
「そうですか」
ゴンベイは一度、咳払いをした。
右手を顔の前へ持ち上げ、指を大きく開く。
「おーれの右手が、帰りたがるー♪」
右手が、すうっと横へ流れた。
慌てて左手で手首を掴む。引き戻す。右手がまた逃げる。
ゴンベイは口をへの字に曲げ、両足を踏ん張った。
「まだ帰らねぇって、言ってんだろーうー♪」
あれくが、歌に合わせて手を叩き始めた。
たあやも加わる。妙に揃った拍子に乗って、ゴンベイの横歩きが速くなった。
「おーれの右手、話をきけー♪」
右手がくるりと向きを変えた。
ゴンベイも合わせて回る。足がもつれ、片足で二度跳ねた。
あれくの手拍子が、笑い声で崩れた。
「右手つえぇ!」
ゴンベイは必死の顔のまま、右手に引っ張られて角を曲がった。
手拍子だけが、二つ三つ残った。
たあやが瞬きをした。
「え、帰ったんだが」
「恥ずかしくなって逃げたか」
角の向こうから、何か言い争う声が聞こえた。
声は一人分だった。
「……お前な、そっち俺んちじゃねぇだろ?」
「いえ、なんか、ブツクサ言いながら帰ってきましたが」
ゴンベイが戻ってきた。
右手を左の脇にしっかり挟み、左手でその肘まで押さえ込んでいる。
「ふふ…っ」
フィリスの口から、小さな声が漏れた。
ゴンベイが顔を上げる。
フィリスは口元に手を添えたまま、その右腕を見ていた。
ゴンベイは一度、腕へ目を落とした。
脇の下から、右手の指先がそろそろと顔を出す。
「こら」
指が引っ込んだ。
フィリスの肩が揺れた。
たあやが横から覗き込む。
「もう帰んねぇの?」
ゴンベイが答える前に、右手だけが勢いよく飛び出し、たあやへ手を振った。
「お前には聞いてねぇよ!」
あれくが吹き出した。
フィリスも、今度は声を立てて笑った。
ゴンベイは右手を捕まえ直そうとしていたが、その口元は、もうへの字ではなかった。
「……ほらな」
「何がほらななんですか」
「お前も笑っていいんだぜ、脳筋」
「その呼び方をやめたら考えます」
たあやとあれくが、また笑った。
その間で、フィリスもまだ口元を押さえている。
ロッソは鍵を取り出した。
鍵穴へ差し込む間にも、後ろではゴンベイの左手まで帰りたがるよう要求されていた。
*
机に広げたメモの端を、ロッソは指で押さえた。
学校で確かめた名前。ホームステイ先の住所。瓦礫の中から書き写した、学校と交流団体の連絡先。
その隣に、フィリスが写真を置く。
朝にはなかったものが、机の上に並んでいた。
「……今日は、お二人を見つけられませんでしたね」
フィリスは写真を見つめたまま、頷いた。
「はい」
「危ない目にも遭わせてしまいました。すみません」
膝の上で、両手を重ねる。
橋の縁で聞いた唸り声は、まだ耳に残っていた。
フィリスが首を横に振った。
「一緒に、逃げてくれました」
「……逃げるだけでは、探偵として困るんですけどね」
ロッソは少しだけ笑い、机のメモへ目を戻した。
「でも、今日一日で、手がかりは十分すぎるほど見つかりました。あなたのお名前も、ご両親のお顔も。まだ、話を聞けそうなところがあります」
書き写した連絡先を、フィリスの方へ向ける。
「明日、もう一度学校へ行きましょう。先生にこの団体のことを――」
「いえ、もう大丈夫です」
ロッソの指が止まった。
「……フィリスさん?」
フィリスは写真を手に取った。
両親の間に立つ少女を見つめ、それから顔を上げる。
「私、お母さんとお父さんに会いたいです。……でも、きっと今は、近くにはいないんだと思います」
「まだ、そうと決まったわけでは――」
「はい。だから、捜したいです。これからも」
写真を封筒へ戻す。
今度は引っかからずに、まっすぐ収まった。
「あのね、ロッソさん。私、今……お母さんたちを捜すことよりも、したいことを見つけたんです」
ロッソは口を閉じた。
フィリスの手が、封筒をそっと机へ置く。
「……なんですか?」
「私も、ロッソさんみたいに、困ってる影のためになりたいです」
膝の上で握られていた手が、机の縁へ移った。
「今日のロッソさんを見て、そう思ったんです。知らない私の話を聞いて、一緒に捜してくれて……」
フィリスは一度言葉を切り、息を継いだ。
「私にも、お手伝いさせてもらえませんか。ここの、助手として」
ロッソはすぐには答えられなかった。
机の上のメモへ視線を落とす。
紙の角に、乾いた土がついていた。指で払おうとして、やめる。
「……今日、私がどれだけ慌てていたか、見ていましたよね」
「はい」
「最後は、助けてもらいました。チェレステさんが来なければ、あなたを守れなかったかもしれません」
フィリスの目を見た。
「また、ああいうことがあるかもしれないんです」
フィリスは黙った。
机の縁に添えた指が、一度だけ握られる。
「……犬は、怖かったです」
小さな声だった。
「もう会いたくないです」
ロッソは頷いた。
そこは、まったく同意見だった。
「でも、学校で資料を探すのは、私にもできました」
フィリスがメモを見る。
「お話を聞いたり、調べたり……そういうことからでも、だめですか?」
断る言葉を考えた。
今日は疲れていますから。
もう少し、ゆっくり考えてから。
けれど、フィリスは返事を待っていた。
朝のように服を握ることもなく、自分の席から、まっすぐこちらを見ている。
ロッソは重ねていた手をほどいた。
「……わかりました」
フィリスの背筋が伸びた。
「いいんですか?」
「まずは、資料の整理や、事務所のお仕事から。危ないことは、勝手にしないでください」
「はい!」
「それと、ご両親を捜す依頼は、まだ終わっていませんからね」
フィリスが瞬きをした。
「そちらも続けます。助手になったからといって、ご自分の依頼を遠慮しないように」
「……はい」
今度の返事は、少し静かだった。
フィリスは封筒を胸元へ寄せ、それから丁寧にポケットへしまった。
ロッソは机の引き出しを開け、ノートを一冊取り出した。
使っていないページを確かめ、鉛筆と一緒に差し出す。
「では、今日わかったことを、こちらにまとめてもらえますか」
「はい。……あ、学校の先生にも、ここで働くことを伝えないと」
「そうですね。明日、一緒にお話ししましょう」
フィリスはノートを開いた。
日付を書き、その下へ、自分の名前を記す。
針子が机の向こうから覗き込んできた。
フィリスが顔を上げると、右手を差し出す。
「……よろしくお願いします、針子さん」
握手した手を、針子が上下に振った。
フィリスも笑って振り返す。
一度。二度。
三度目で、針子の左手がそっと右肘を支えた。
「……今日は、そのくらいにしてあげてください。腕を酷使しましたので」
フィリスは慌てて手を離した。
「ご、ごめんなさい」
針子は首を横に振り、今度は腕を動かさず、深々とお辞儀をした。
フィリスも座ったまま頭を下げる。
ロッソは頬杖をついた。
窓の外では、まだ三人の声がしていた。
机の向こうでは、新しい助手が鉛筆を動かし始めている。針子はその隣へ回り込み、ノートを逆さから覗くのをやめた。
今まではこの部屋に自分以外の誰かがいることさえ、ひどく落ち着かなかったはずだ。
静かで、何も起こらない場所の方がいい。そう思っていた。
けれど今は、窓の外の話し声も、紙をめくる音も、針子の控えめな動きも、不思議と耳障りではなかった。
むしろ、それらが途切れないことに、わずかな安心を覚えている。
ロッソは机の上のメモを見下ろした。
朝にはなかった名前が増え、明日することまで決まっている。
その隣には、フィリスのノートがあり、彼女の字が少しずつ増えていた。
「……明日は、学校へ行って、それから連絡先を整理して……」
口に出してみると、予定は思ったより自然に形になった。
誰かと一緒に明日を考えることが、こんなにも簡単にできるとは思わなかった。
ロッソは目を細めた。
そうだ。朝、何を考えていたのだったか。
この世界に戻ってきてから、何もかもが変わってしまったと思っていた。
けれど、変わったのは世界だけではないのかもしれない。
自分の机に誰かの名前が増え、明日の予定を誰かと分け合い、帰る場所に声がある。
ロッソは、フィリスの鉛筆が紙を走る音を聞いた。
そして、ほんの少しだけ口元を緩めた。
……ああ、そうだ。
私は今の世界が、好きなのだ。
置いてけぼりになって欲しくない!作者の設定説明コーナー!
第1話、2話まとめて対して説明してないやつです!
《新世界》
誰が呼び始めたか、世界に影が現れ、文明が終わった「あの日」から今日までを《新世界》と呼びます!
「あの日」から前の時代を《旧世界》と呼びます!
《影》
この世界では「あの日」を境に植物や粘菌、細菌、菌類等を除く生き物すべての影が主に襲いかかりました。
あの日以降も新しい命が生まれた場合、その影は主人に襲いかかり、体を乗っ取ろうとします。
光の当たらない場所に暮らしている生物も関係なくです。
《影の実》
主討が自信を、また影討が自分の影の力を維持するために必要な特別な実
主討はこれだけで生存でき、ご飯や美味しいものを食べる必要はありません。ケド、食べたっていいんです。
《影抜き師》
新世界が始まってしばらくして秩序院影討が編み出した特別な資格です!
この世界では植物や粘菌、細菌、菌類等を除く生き物は生まれた瞬間に自身の影に襲われてしまいます。
影抜き師は生まれた瞬間の赤ちゃんの影を討つ専門の職業です。
自身以外の要因で影を討たれた生き物は影討でも主討でもない、普通の生き物として生きられます。
この世界ではそうして生き物のみ食用として使えます。美味しいものを食べたい方々のための職業!!




