追ってもムダ
「感動しすぎて、『白いカラス』のほう忘れないでくれよ」
念をおし、肩をつよくたたいてウィルもトムの家へむかう。
眼鏡をかけなおす男はいつもの愛想のない声でこたえた。
「それならいつでも教えるさ。―― いや、きょうはもう、お屋敷にいくといい。ここでさらに引き止めたりしたら、奥さまになにをいわれるかわからない」
同意した『奥さま』の息子は、次にあるミーティングに、ジョーもでてもらうかもしれないと伝えて、車をとめた裏へとまわる。
グウアアアウう
嫌な声がひびき顔をあげた。
「ジョー!!」
家畜小屋に聞こえるよう声をはりあげる。
小屋は牧場に続く私道沿いに立っている。
その私道の向こうの丘に立つ木の緑の中に、《白く大きな鳥》が、とまっている。
カラス? 冗談。あんなでかくないよ
腰の後ろにつっこんだ銃を抜こうとしたとき、バン、と破裂音がして鳥が逃げた。
「 ―― ウィル、追っても意味がない。 あれは、おまえたちをみてるだけだ」
自分の銃をふったジョーが、むこうへ飛び去る鳥をよくみていろ、と命じる。
「・・あれ?」
曇った空にすいこまれるように鳥は消えた。




