ジャンはどう?
ジャンはいつも朝日をみて思う。
「今日も無事に朝が迎えられた」
「え?なに?」
運転をまかせた若者がアクセルをふみこみながら眉をあげ、こちらをみる。
なんでもねえよ、とまだ《朝日》に分類されるだろう光をさえぎるため、サングラスをかけて目を閉じた。
この新人とこんなふうに二人ででるのも久しぶりだ。
このあたりはきっと、早朝の通勤渋滞もないのだろうと、かわり映えのない景色に飽きて目をとじたのだが、ザックが声をかけてきた。
「 ―― なあ、あのはなしってさ、ジャンはどう思ってんの?」
まるで昨日ナンパした女の感想を欲してるような聞き方に、眉をよせてしまう。
こちらをちらりと見た新人は、そういやジャンはママとあんま仲良くないんだっけ、とにやける。
「・・・おれ、そんなはなしお前にしたっけ?」
「酔うとすこし《おしゃべり》になるって、自分でも思わない?」
若者なりの忠告なのだろうと思うことにしてうなずく。
「そういうときも、ある。・・・いまいち大人になりきれてねえなあって思う時も多々ある」
「でも、そういうとこが女にモテるんだって、ジャスティンがいってたぜ」
ジャンになにかと迷惑をかけてくる警察官の名前がでて変な声がもれる。
だが、この新人が初めて挑んだ事件で彼が活躍したのは事実であり、それもあってか、ザックは彼のことを尊敬しているようだ。
「そういやあいつ、この頃おとなしいみたいだな」
酒場やちょっとしたパーティーでいつも顔をみかけていたのに、このごろまったく出会わない。
ときどき、生存確認のような電話がくるくらいだ。
ザックが笑ってまたスピードをあげる。
「なんか、昇進?したらしいぜ。そんで新人がくるからかわいがってやるんだって言ってた」
だから、『おれは忙しいんだ』とか、このまえの電話で嬉しそうにいってたわけかと納得して再度目を閉じる前に言ってやった。
「 ―― ここ、速度制限あるからな」




