『殺された』
「 ・・ごめ、・・ほんと。 みんなに黙ってて・・・」
その、あげられた顔を隠そうとしている指の間から水がこぼれた。
ごめん、おれのせいだ、とつぶやく声もふるえ、とめようもない嗚咽で言葉がつまる。
それを眺めながらなにもできないザックの横に、羽織っていた制服をぬぎながらケンが並び、上着をルイの頭になげかけた。
「 おれだって、みんなにまだ黙ってることもあるぜ。 だけどルイ、自分のこと知ってもらうには、最低限のことは話さなきゃいけないってあるだろ?おれは、知ってもらったうえで一緒に仕事ができるか判断してもらいたかったし、みんなに知ってもらいたかった。 ―― おまえはどうなんだよ?」
そういってこちらの肩に腕をのせるケンをザックはおもわずじっと見た。
ケンがそんなことを考えていたってことに驚いたからだ。
ケンの上着をかぶりながら息を整えていたルイが、涙でぐしゃぐしゃな顔をのぞかせた。
目の合ったザックは言葉がかけられない。
あの、のんびりとしていて、それでもつかみどころのない、冷静な男が、こどもみたいに顔を赤くして小さくなって泣いている。
ザックのなかでルイは、自分の感情を思い通りに制御できる大人の男だった。
骨董品にかこまれて、静かで穏やかな時を楽しみ、冷蔵庫の残り物で手際よく料理をつくる落ち着いた生活をする。
混乱や不安なんてものとは縁遠い男。
初めてあったときに、班長である男を『弱い』とあらわし、ザックにも、自分のことは『弱い』と認めたほうが、人間らしくてよい、とうすくわらった。
あのルイが、混乱と不安にまきこまれて、椅子の上で小さくなっている。
なにか声をかけたいのに、なんといっていいのかが、わからない。
「 母は・・・ 」水でぬれて赤くなった目をどこか遠くにただよわせた男は、こどものように息を吸って、かすれた声で言った。
「 ―― おれの母親は・・・、カラスに殺されたんだ。 ・・・『白いカラス』に 」
グアアウウアア
窓の外で、鳴き声がした。




