母はつかまる
「 ―― それから《それ》が、夢にでてくるようになった」
「《白くてでかいカラス》が? そんなに鳥が嫌いだったっけ?」
ザックの質問にルイは首をふって、いちど息をはいた。
「・・・その、《白いカラス》が、・・・夢の中で、・・・・・死んだおれの母親をおいかけようとするんだ」
みんながすこし驚いたようにこちらに向くのを、意識しながら続ける。
「 ―― 彼女はおれに助けをもとめるけど、おれは、・・・その白いカラスがこわくって、とめることができない。 だから彼女は、カラスにつかまってしまう。おれが手をのばすむこう側でね。 恐怖で顔をおおったおれの耳に、いきなり鳥のはばたきと風がぶつかって、視界に白い鳥の羽がたくさん舞って・・・、―― むこうでおれの母親をつかまえたカラスが、今度はみたこともない『男』になってる。 ・・・母は、・・・彼女はその『男』にもたれかかるように倒れていて、おれは、どうしてもそこに近づけないまま、 ―― 目が覚める 」
顔をあげたルイに、だれもなにも言えない。
「・・・そうするとさ、アパートの窓の外で、ほんとうにカラスが鳴くんだよ。 真夜中なのに、あの、変な声でおれをばかにするように、威嚇するみたいにね」
そこで力がぬけたように椅子に腰をおとした。
みんなからの視線をさけるように額に手をかざし息をついだ。
「で、 ―― その夢を、みたくなくって、眠れなくなった。 ねむらないで『夢』をみなくなったら、こんどは起きてるときに、『白いカラス』をあちこちでみかけるようになった。 でも、ほかの人には見えてないようだし、倒れたとき、レイがうちにきてくれてからは『夢』にも出てなかったから、あれは、―― 寝不足のおれがつくりあげた《幻覚》だったと片付けたかったんだけどな・・・、やっぱ、無理だったみたいだな」
「じゃあ、おれの手に刺さったのは、 ―― そいつの羽ってことだな?」
ケンは包帯の巻かれた手をルイにむけ、おもしろそうにわらう。
「ああ。科学班に行って羽をみせてもらったよ。まちがいなくあのカラスの羽だ。・・・おれが最近のこの出来事をみんなに報告してれば、ケンだってうかつに拾ったりしなかっただろ。悪かったと思ってるけど・・・。 おれ、―――― ほんとは笑い出しちゃったよ 」
ルイの言葉にザックは顔をゆがめた。
「なんだよそれ。 あんときのケンを実際にみてたらそんなことぜってえ口にできねえからな。マジでやばかったんだぞ!」
「うん、ごめんごめん」
ルイは笑いをこらえるように口元をおさえうつむく。
「おい!わらいごとじゃっ、―― 」
つめよってルイの肩口をつかみあげたザックは、いけないものを見た気がしてあわてて手をはなした。




