助かったよ
うまそうに盛り付けられた皿を目で追って言った。
「もう、 ―― ほんとにだいじょぶだからさあ」
ルイのなさけない声をききながしてテーブルに食事をならべたレイが、果物は冷蔵庫にはいっているから、とふりかえる。
椅子においてあったバッグをとりあげて腕時計をみた。
「ごめん、今日はどうしても出ないといけない打ち合わせがあって」
「そりゃそうだろ。きみがそんな暇じゃないってのくらい知ってるよ」
それなのに、彼はずっとうちにいてくれたのだ。
「今日の夕食はなにか食べたいものある?」
あたりまえのようにきく。
「ない。ないよ。レイ。 ―― この一週間できみのつくってくれるものはなんでもうまいってことは証明された。おれはそれを十分堪能したし、こうして体調も戻ったから、きみは今日からもう自分の家にもどってくれ」
たのむ、と祈る思いで口にした。
「そっか・・・」
あいては首をかしげてこちらをみていたが、なんともいえない笑顔で「わかった」と了承した。
「・・・レイ、違うから。きみといっしょがもういやだとか思ったわけじゃなくてだね」
「わかってるって。顔色もよくなったし、体重もすこしもどった? でも、すぐにトレーニングはじめないでよ。少しずつって約束だからね」
「うん、わかった」
右手を差し出し、つながった手をひきよせてかるくハグした。
「ほんとうに助かったよ。ありがとう」
相手はその整った顔をあげ、役に立ててうれしい、とはにかむようにわらった。
この距離でみても相手の男の顔はつくりもののようだと感じる。
だが、照れたようにかきあげた髪のすきまに古い傷跡をみつけ、つくりものでない、と実感する。
「バートに、明日から出るっていってくれるかい?」
「わかった」
こんどはいい笑顔を浮かべたレイは、また電話するといいおき出て行った。
階段をかけおりる音が響きルイは苦笑する。
彼は人のことにすこし力をいれすぎだ。
自分が遅刻をする心配よりも、相手においしい食事をさせるのを優先するなんて。




