あの羽の問題
A班の《あの》ケンが入院したという話は、本人をよく知る人間ほど、信じようとしない事実だった。
「 ―― まあ、本人ですら、病院で目をさましたときに信じられなかった、って言ってたしね」
わらったウィルが仕事用の手袋をはめながら、ロッカールームにいる顔をみまわす。
「ルイもあれから休暇だし、うちはいま五人しかいないってのに、要請うけなきゃだめなの?」
班員数を手でしめし、これから出る墓場の監視《補助》について遠回しに文句をいう貴族の男に、班のまとめ役をまかされている男は、ばからしいことをきくなという顔をかえす。
「なんだ?おまえもザックみたいに夜の墓場が苦手なのか?」
「ひとけのない暗い場所には女性と行くことにしてるからね」
ザックにもそのうち暗い場所の良さがわかるだろうと装備を身に着ける。
「おれはべつに、『墓場』が苦手なんじゃなくって、このまえみたいにいきなりカラスが鳴いたらいやだってジャンに言っただけで」
「そりゃ確かにいやだな」
この前の補助には出なかったニコルが、新人をかばうようにうなずく。
ウィルをにらんでから自分のロッカーをしめたザックが、ふいになにか思いついたように動きを止め、副班長に顔をむけた。
「あのさあ、ケンに刺さったあの羽、なんの問題もなかったんだろ?」
「ああ。うちの化学班も、ちょっと鳥の種類はわからないらしいけど、成分的にただの鳥の羽だって。 『毒』とかなんとかもまったくナシ。 ―― ただ、羽の軸の根本にはしっかりケンの血がついてたから、あれが刺さったことは間違いないらしい・・・」
でもだからって、あんな『穴』になるとは思えない、とつけたしたいのをジャンはこらえる。
羽根の軸部分の根本はそれほど尖っていたわけではなく、針やなにかが仕込まれていたわけでもない。
あの硬さでほんとうに、てのひらの皮膚に『穴』があけられるだろうか?
 




