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魔法使いの世界を旅する一年  作者: Zezilia Hastler
第3章 紳士と灰色の悪夢
32/72

12日目 ジェームズ VS ビリウス



21:30



 ビリウスは、席を立ち、ジェームズを見た。「──話は終わりだ」


 ジェームズは、腰を落ち着けたまま、ビリウスを見据えた。「君を騙すために話をしていたわけじゃない。ただ、君の人となりを知りたかったんだ。嘘を吐いたのは、君との会話を辞めたくなかったからだ」


「やめよう。観客も退屈している」


 ジェームズは、ビリウスの部下たちを見た。

 彼らはその手に武器を持ち、手の平に魔力を込めていた。

 

「やれ」


 テラス席に腰掛けていたジェームズは、横に飛んだ。

 

 直後、ジェームズとビリウスがついていたテーブルに、レーザーのような魔法が飛びかかり、小さな爆発を起こした。


 ジェームズは、広場を駆けて、闇落ちのドラゴンの信奉者たちから距離を置こうとした。


 だが、走り続けるジェームズに向けて飛んでくる魔法は、次から次へと止まることがない。


 ジェームズの背後を追うのは、次々と襲いかかってくる魔法の数々。

 それらによって生みだされる爆発が、建物を破壊していく。

 後に残るのは、瓦礫の山だけだ。


 困ったな。どうしよう。こうしよう。


 一瞬の間で考えをまとめたジェームズは、足元に万能の魔力を集めた。


 彼の体は、音速を遥かに超える速度で、自らに対して魔法を撃っていた者たちの懐へと飛び込んでいく。

 

 その一瞬にも満たない時間の中で、ジェームズは、この集団のリーダーであるビリウスへと視線を向けた。


 ビリウスの体が、淡く光っていた。

 体内を巡る、ありったけの魔素を魔力に変換しているのだ。


 石畳に足をつけたジェームズは、左の手の平に光の球を生み出すとともに、一番近くにいた男の腹を蹴り飛ばした。


 突き飛ばされた男は、背後にいた仲間たちを巻き込んで、石畳の上に倒れ込む。


 ジェームズは、左手の光の球を、倒れ込んだ男たちへ放ると、再び音速を超えた速度で動き、他の敵たちへと飛びかかっていった。


 倒れ込む男たちへ放り込まれた光の球は、目の眩むような閃光を放ち、爆発した。

 

 まずいな……。ジェームズは舌打ちをした。空間魔法か……、或いは、大規模攻撃か。彼は、部下のことをなんとも思っていない。その冷淡さは、悪意故ではなく、対象の人格を冷静に見定めた末のものだが……。


 ジェームズは、小さく笑った。


 やめろ。そんなことは、今はどうでも良い、余計なことに思考を割けば死ぬ。彼は、部下もろとも、こちらを攻撃してくる。空間魔法か、大規模攻撃か、或いは、彼だけが持つ奥の手か。


 魔法使いは、生まれ持って与えられた魔素の属性故に、制限を課される。他の魔素を扱いこなすことが出来ないのだ。魔法族の誰しもが持っている素の魔素を変換させることで、別の魔力を扱うことも出来るが、そのような形で得た魔力の扱いなど、どれほど洗練させても、生まれた時から扱っている者には敵わない。


 それは、右利きの者が、左手で綺麗に字を書こうとするようなものだ。


 ジェームズは、暇さえあれば、素の魔力を様々な魔力に変換させ、それらの扱いを可能な限り洗練させてきた。それ故に、影の魔法使いの身体能力にも、精神の魔法使いの精神攻撃にもある程度は張り合うことが出来る。


 だが、そんな努力は、ジェームズにとっては当然のものであり、奥の手は別に持っていた。


 魔法使いは、いずれも、長く生きていく上で、やりたいことや、やるべきことのために、自分の魔法を洗練させていく。それ故に、誰もが、自分だけの魔法の扱い方や、自分だけの魔法を生み出しているものだ。商人も、医者も、科学者も、芸術家も、兵士や騎士も、そして、ビリウス・ブルバリスも。


 ビリウスが、魔法に限った先天的要素で自分より勝っている点は、精神の魔力の扱い。

 

 対して、ジェームズが彼よりも優っている点は、万能の魔力の扱い。


 万能の魔力は、あらゆる魔力の特性を有する多彩さが特徴だ。


 例えば、光の魔力が生み出すことの出来る光速の大砲を、万能の魔力で生み出すことは出来ない。


 一方で、亜光速の弾丸を生み出し、弾丸に精神の魔法の特性を付与する事なら出来る。


 ビリウスに向けて亜光速の弾丸を放ち、着弾させれば、彼の心を一時的に読むことも出来る。


 精神の魔力を扱う事も出来るが、一方で、それはビリウスの扱う精神の魔力に勝ることはない。


 万能の魔力に加え、素の魔力を変換させて上乗せすれば、ビリウスの精神の魔力の総量に匹敵することも、勝ることもあるが、それはあくまで量が勝っているだけ。


 技量が勝っているわけではない。


 量だけ勝っても仕方がない。


 なんにせよ、使い道なのだ。


 ジェームズは、音速を超えた速度の中で、闇落ちのドラゴンの信奉者たちを倒しながら、妙に冷静に考えていた。


 そう。


 量だけ勝っていても仕方がない。


 それは、自分が今倒しているこいつらが証明している。


 使い方。


 立ち振る舞い方。


 どのように、戦うか。


 自分は、ビリウスは、一体どのように戦うか。


 ジェームズがそこまで考えたところで、周囲に、異変が起こった。


 広場の端から、グレーの幕が登っていく。


 空間魔法。


 ジェームズは、石畳を蹴り、ビリウスの下へ駆けた。


 右手に素の魔力を集め、左手に万能の魔力を集める。


 右手には短剣が生まれ、左手には鞭が生まれた。


 ジェームズは、左手の鞭をビリウスに向けて振るった。


 鞭は、ビリウスの首に巻きついた。


 空間魔法は、戦いで用いれば、ほぼ間違いなく相手を倒すことが出来る。


 ただ、その効果故に、発動には膨大な魔力と繊細な技術が必要になる。


 つまり、空間魔法を発動するまでは、ある程度の隙が生まれるのだ。


 その隙をつけなければ、鞭がビリウスに当たることもなかったはずだ。


 鞭を通して、ジェームズの脳内に、ビリウスの思考が流れ込んでくる。


 万能の魔力が有する、精神の魔法の効果だった。

 

 ジェームズは、ビリウスのそばで立ち止まり、そして、短剣を振り上げた。


 だが、脳内に流れ込んできたビリウスの思考故に、ジェームズの腕が止まった。


 音速を超えた速度で流れる周囲の景色が、止まった。


 ジェームズは、その場に立ち止まり、周囲を見た。


 ビリウスの部下は全員片付けた。


 ビリウスは、ジェームズを見上げていた。


 その眼差しを受けたジェームズは、小さく微笑んだ。「……良いだろう」


「私に勝つチャンスを逃したぞ」


「良いんだ。何をもって勝利とするかは、私が決めることだ」ジェームズは、スコッチのボトルとグラスを手の平に生み出し、グラスに注ぐと、ボトルを消した。「君も、これからはそうやって生きていけば良い。他人や先人の作った常識の指標なんか無視しろ」ジェームズは、グラスに注いだスコッチを一息で飲み干し、グラスを消した。彼は、グレーの幕の向こうに隠れそうになっている星空を見上げた。まだ、輝く月がこちらを見下ろしていた。「強く、善良に生きている者にはその権利がある」


 ビリウスは、悲しげな目で、微笑んだ。「強いな」


 ジェームズは、ため息を吐いた。「紳士だからな……。──」


 ジェームズとビリウスは、視線を合わせた。


 次の瞬間、グレーの幕が、星空を覆い隠した。



 ジェームズの世界が閉じ、彼の眼前に、ビリウスの世界が広がった。



ジェームズとビリウスの戦いはまだ続きます_φ(・_・


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