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秘密組織の序列十位は自称器用貧乏  作者: 使い捨て系鉛玉
閑話の二
33/33

ノイとハルカの共同任務②

カラオケで喉をやった隙に風邪にやられた。

ずっと真夜中ではいけないらしい。

 

 カツンと鳴らした靴音が、前方へとどこまでもどこまでも響いていく。

 薄暗い通路だ。

 右手のランプが唯一の光源として申し訳程度に足下を照らしている。


「なんか、雰囲気あるな」

「そーお?」


 ぽつりと漏らした声に隣を歩いていたノイがこちらを向いた。


 現在、俺たちは任務により大陸の復活とやらを掲げる組織の行方を追う為に先日ノイが襲撃したアジトに侵入している。


 その時の交戦の際にノイが聞き取った限りではその組織は古代文明の末裔を名乗っていて、目的の為にいくつもの儀式を行っては各国に被害を出しているらしい。

 その被害の内の一つが相次ぐ原因不明の誘拐事件というもので、これに関する調査、及び解決を本部より任されたのがそもそもノイが襲撃するに至った発端だったりする。


「やっぱり不気味だ。大分暗いし」

「割とよくある形の遺跡だと思うんだけどねー。

 魔術が張り巡らされてる訳でもないし。

 それより早く奥を調べたいかな。この前はゆっくり出来なかったから儀式に使ってた部屋とか見たい」

「……」


 こうした状況ではどちらかといえば女性の方が怖気付くものだと思うが、そこは流石ウチの誇るトラブルメーカー。そのくりくりとした黒の瞳はこれから起こるであろう事への期待に輝いており、怯えなど一切伺えない。


「つってもそりゃこんなんでビビるのは義姉貴ぐらいか」

「いやあ、いくらラル姉でも敵の根城で怖がったりしないでしょ」

「……そう言い切れないのがなあ」

「うそ。そんなに?」

「ああ。怖い夢を見ただけで弟のベッドに潜り込んでくるぐらいだからな」


『ボクは後ろを見ておこう。だから弟くんは前を歩くと良い』

 この場には居ない義姉の、あのすっかり震えた声が今にも聞こえてくるようだった。


「うーわぁ重症だね。怖がりももちろんだけど、そのブラコンっぷりが」

「本当にな。おかげでノヴァの将来が心配だ」

「ああいや、それは大丈夫だと思うけど」

「……?」


 ところで怖がりといえば、怪談だとこんな感じの何も無さそうな通路でこそ突然どちらかが姿を消すのが定番。

 それでなくともここは敵地真っ只中なのだからこちらを分断させる為の罠だったりがあるかもしれない。

 ノイと俺は身長差が三十センチ近くあるので、よく見ておかなければどちらかの身に何が起ころうとそのタイミングさえ分からないーーと思ったが、ノイの場合はその頭の上でぴょこぴょこ揺れるアホ毛のおかげで見失えばすぐに分かるのでこれは杞憂だった。


「そういえば敵と遭遇しないね。居ないのかな」

「そりゃ場所がバレたら根城は移すだろ」


 それでもここに来たのは魔術や儀式の後からもっと詳しく今回の敵に関して情報を得る為だ。

 少なくとも、そのつもりで俺は来た。

 もちろん残党の可能性を考えて隠密に徹しているつもりだが。


 ただノイは考えが違うようで頭をひねっている。


「んー?そうかな。ここなんか大事な遺跡っぽいし、儀式も私に邪魔されたのにそんな簡単に放棄するもんかなって思うんだけど」

「俺はその場に居なかったからなんとも言えないが、確かにそれもそうか。

 ちなみに一つ聞くがこの前戦った時、相手はどんな感じだった?」

「どんなって、含意が広過ぎてどう答えたら良いか分かんないんだけど」

「あーえっと。じゃあ相手は何を嫌がった?」


 お前の所感で良い。とも付け加える。

 するとノイは考え込むように無言になって、床を見ながら前を歩き始める。

 周囲の警戒を続けながら俺はその後ろを歩く。

 数秒ほどそうしていると、何かが頭に引っかかったらしくノイはパッと顔を上げた。


「あ、分かった。だから変なんだ」

「話してくれ」

「はいよー。じゃあ、とりあえずなんだけど、やっぱり連中はここを捨ててないよ」


 ノイはじっくりと自らの考えを披露し始める。

 基本的に問題行動しか起こさない所為でアホの子扱いされているノイだが、実はウチの組織の中でもかなり洞察力が高く、意外な事に思慮も深い。

 そもそも情報処理能力が人間の範疇を超えているのだから、思考力まで桁外れだとしてなんら不思議は無いのだが、それならもっとスムーズに物事を運んで欲しい、というのがこいつを知る人間共通の思いだ。


「で、その考えに至った根拠は」

「こないだ誘拐された人達を救出した時さ、逃げるのがすごく簡単だったんだよ。

 というかむしろ追い出そうとしてる感じだった」

「ほうほう」

「だからあっちにとってここって結構大事な場所だと思うんだよ」

「なのに放棄するのはおかしい、と」

「そそ。でもそれならこうまで静かなのはおかしい。

 となると別の狙いがあってそのために敢えて潜んでる可能性が高い」

「例えば……俺たちが隙を見せるのを待っている、とかか?」

「あるいは、奥で迎え討つ準備万全の状態で待ち構えているか、だね」

「となるとつまり……」

「そう。これはーー罠だよ」


 けれど、その結論に至るのはいささか遅すぎたようで。


「ご両人とも、ご明察なのだよ」


 不意に背後から鳴り響く乾いた拍手の大袈裟な音。


「なあ、ノイ」

「なあに?」

「その思考力は流石だと思うんだけどさ」

「うん。ありがと」

「次からは結論を先に言うように」

「はーい」


 直後、俺たちは白い光に包まれた。




 ◇



「よりにもよって、転移の魔術かよ」


 視界が復活するや否や、ボヤくように呟く。

 軽口が返ってこないところを見るとノイはこの周囲に居ないらしい。

 まさか本当に分断されるとは。


「とりあえず、ここはどこなんだ」


 先程の通路より暗くて手元さえ目を凝らさないと見えないが、地面の感触からしてまだ遺跡の中のようだ。


「ノイは……まあ無事だろうけど、とにかく居場所だけでも占っておくか」

「ーーいいえ。その必要はありません」


 懐からタロットカードを出そうとしていた手を止め、急いで魔術で辺りを照らす。


「御機嫌よう侵入者殿」


 そこに居たのは皆鮮やかな赤のローブを見に纏った同じような格好の四人。

 そう、たったの四人だ。しかし佇まいからして、その一人一人が恐ろしく腕の立つ精鋭。

 きっと、というか間違いなくこの組織の幹部だろう。


「……ハッ、随分と手の込んだ歓迎ぶりだな。

 俺なんかの為だけにここまで手厚いとノイの奴が退屈して暴れ出さないか心配だ」

「ですから心配には及びません。

 あの白髪(はくはつ)の少女でしたら遺跡の外に居ますし、なんなら下っ端総勢千人掛かりで足止めをしていますので」

「へえ……?足止めに千人とは豪華だな。そんなに時間を稼いで何をするつもりか……なんてのは愚問か」


 こいつらはノイの強さをある程度は理解しているはず。それでも戦力の劣る千人の下っ端を、それも囮として差し向けたという事はすなわち。


「もちろん、弱い方(あなた)から先に、そして確実に仕留める為です」


 完全に見下されているのがありありと伝わる言葉だが、あの歩く理不尽(チート)を引き合いに出されては悔しさなどもはや湧きはしない。

 我らが【秩序の鎖】にて、その気になれば一人であらゆる天災を起こしてしまえる少女が序列七位に甘んじる中で、身体能力に限れば剣聖さえ凌ぐ鬼人が序列五位に君臨する中で、それで尚も序列三位を名乗るという事の重大さがこいつらには理解出来ていない。


「……やってみろ。確かに俺はノイの足下にも及ばないがーー生き汚なさだけなら他の誰を差し置かずとも右に出る奴は居ないんだぜ?」

「ふむ。では我々も全力で掛かるとしよう」


 言い終えると同時、四人が一斉に動き出す。

 それに対して俺は、背に流れる冷や汗を笑い飛ばすように不敵な笑みを繕うのだった。



本編の推敲が終わらない……。

いっそのこと全体をリメイクしようかとさえ考える今日この頃です。

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