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秘密組織の序列十位は自称器用貧乏  作者: 使い捨て系鉛玉
閑話の一
14/33

閑話・ヒュノとハルカの迷宮探索③

すみませんまた嘘つきました。

この閑話もう一話だけ続きます。

八千字超えてたので分けました。

 

「え……?」


 突然の事に状況が飲み込めない俺をよそに、傷口からどんどん血が溢れていく。

 その血が銀の刃を伝って流れていくのを見て、遅れて痛みが走った。


「ぐっ、あ……ぅ」


 叫びそうになるのを寸での所で堪える。

『落ち着け』の文字で頭の中を埋め尽くして冷静をなんとか保ち、ゆっくり顔だけ後ろを振り向く。

 すると、真っ白の双眸と目が合った。


 瞬間、刃が無造作に俺の腹から引き抜かれる。

 再び激痛が腹に襲うが、分かりきった危険信号を訴える思考を無に、と言うよりは無視をして、とにかく『ソレ』と距離を取る事を優先する。


 そこから初めて思考を走らせた。


 傷は……致命傷ではない。内臓もまだ治せる。だが背骨が損傷した所為で戦う事は無理そうだ。ああ、二人で赴いてやはり正解だった。

 一人で来ていれば確実に死んでいただろう。

 いや、ヒュノならば不意打ちを食らう前に眼でわかるか。

 そう考え、ヒュノの方をちらりと見るとーーー


「え、ハルカ!?」


 ーーーヒュノから返って来たのはは素っ頓狂な声だった。

 まるで、今俺の状態に気づいたかのような……。

 まさか、気がついていない?


「来るな!敵だ!」


 こちらへ駆け寄ろうとするヒュノを手で制止する。

 今の言葉だけで意図が伝わったのかヒュノはすぐに足を止め、冷静に俺の視線を追って敵を睨みつけた。

 後はなんとかしてくれるはずなので状況だけ報告する。


「ちょっと傷がヤバそうだ。動けるようになるまで頼んだ」

「分かりました。一応周囲の警戒を頼みます」


 ヒュノから表情が消え失せ、その瞳が紅く染まる。そこにはもう動揺やらの感情が一切見当たらない。

 これが、ヒュノの戦闘態勢。

 こうなったこいつは本当に頼りになる。


 ヒュノが手をグーパーと開閉させると、手の平に銀色の閃光が走り、パチパチとスパークが起こる。

 その雷光はどんどん増幅して行き、やがて眩しいほどに集約すると化け物目掛けて放たれた。


 轟音が響き、部屋中に光がほとばしる。


 眩い光が晴れると、しかし化け物は無傷だった。

 それを見た途端、ヒュノは再び手に雷光を纏わせ、駆け出した。

 応じるように化け物も剣のようなその腕を振りかぶり駆け出す。


 と、そんな戦闘を端っこで見ながら俺は傷の治療に専念する。敵の対処はやる気全開のヒュノに任せた。


 ゴポゴポと血を吐き出す傷口に神聖術を施す。

 最近やっと習得した付け焼き刃でしかないが、無いよりはいい。

 こう言う時のために前々から覚えたかったのだが、組織のメンバーの内、神聖術を扱える者が全く居なかった為にここまで後回しになってしまった。

 いや、居ない訳では無いのだ。

 ただ知り合いの中では序列一位(ケトスカイス)くらいしか居らず、しかもそのケトスでさえ立場上全然任務から帰ってこない為、ちゃんと接する機会がほとんど無かった。

 先月やっと休暇のタイミングが重なり、基礎を教えてもらう事が出来たのだ。


 ちなみに俺の直属の上司である序列二位(エイナさん)も扱えるには扱えるのだが、あの人の神聖術は錬金術に組み込む事を前提とした邪道なので、専門的に学べない。

 最悪それでも治療の技術を得る事は出来るのだが、錬金術ではどうあがいても彼女のような超一流に至る事が出来ない分かってしまったので、神聖術の方があるいは向いているのではないかと思ったのだ。

 他に自分に見合った才能を見つける為にも、出来るならばちゃんとした技術を新しく学びたかった。


「まあ、神聖術の方ももう限界が見えちまったんだけどな」


 自嘲を交えた嘆息が思わず口から漏れる。

 全く自分の非才さを痛感する今日この頃だ。周りに追いつける技が俺にだけ無い。

 オッさんやセクマ兄さんには焦るなと言われたが、ここまで特技が無いと不安を覚えずにはいられない。

 っと、愚痴をこぼしている場合では無かった。

 神聖術に集中し、急いで止血と鎮痛を行う。背骨は氷の魔術で補強する事で応急処置。

 前者二つは治療として基本的な技術なのだが、習って一ヶ月程度、しかも初実戦ともなれば時間がどうしても掛かってしまう。

 一月ではモノに出来ないくらい才能が無いとも言う。


 治療に専念しながら、ヒュノの戦闘を見る。


 先程はちゃんと確認できなかったが、敵は人型をしていた。しかしほとんど人とは言えない、と言うか生物かどうかも怪しかった。

 青紫色の、どう見ても血の通っていない色合いをした体表に、鼻や口の見当たらない頭部。

 目も、眼球と言うよりは周囲を把握する為の感覚器官の一つと表現した方が正しいように思える。

 それほどに生物が有する目とは異なっていた。

 また、手が先程俺の腹に穴を開けた刃で出来ており、明らかに生活に適していない。


 そんな見るからにおぞましい怪物は、なんと無傷でヒュノと渡り合っていた。

 むしろ苦い表情を見るに、ヒュノの方が劣勢にさえ写る。あのヒュノが、だ。

 魔眼で魔力の流れから相手の動きを五秒先まで先読みするようなあのチートが、攻撃の魔術をことごとく外している。

 別にヒュノも手を抜いている訳では無い。むしろあいつにしては苛烈過ぎる程に本気だ。

 二階層の再現のような荒々しい放電の魔術。

 それは、ドラゴンさえ二秒で消炭に出来るほどの猛攻だった。だというのに一度も被弾しない。信じられない光景だった。しかも、相手は魔術を使ってこない。それどころか魔力による身体強化さえ施していないのだ。


「そんなのオッさん並み……いや、待て」


 そこまで考えて、ふと違和感を覚える。


 そう言えばさっき、俺が刺されてから数秒、ヒュノは敵の出現に気づかなかった。

 あいつは感知能力で言えば世界規模でもトップクラスだ。

 この部屋へ入る前、あいつは罠が無いと言っていた。魔物が潜んでいるならば魔力が見えた筈。

 となると、もしかしてあの化け物ーーー


「ーー魔力が無い?」


 そういうことか。

 ならばアレはヒュノが最も苦手とする相手だ。

 今まで魔力を見ての戦闘しか行って来なかったあいつにしてみれば、魔力の動きが視えない敵なんてさぞ戦いにくい事だろう。

 最大の長所を封じられているのだから。


 まあ、とは言ってもーーー


「慣れてきました」


 ーーーたかが一つ()武器を封じた()程度で秩序の鎖(うち)の序列四位は敗れない。


 瞬間、天井が瞬き、化け物の頭上に稲妻が走る。

 そしてその雷は龍が喰らいかかるかの如く化け物を呑み込んだ。

 呑み込まれた化け物は雷による熱で全身が発火し、しかし筋肉が弛緩して雷から逃れる事が出来ない。

 やがて原形が分からなくなるほどに黒焦げになると、粉状の灰にまで崩れ、空気へと溶けていった。


 なんとも呆気ない終わりだったが、あの化け物が弱かった訳ではない。

 ハンデがあったにしろ、ヒュノとあれだけ渡り合えたのならば国一つは滅ぼせるような災害だ。

 相手が悪かった。ただそれだけだった。



 化け物が空へ還るのを見届けると、ヒュノはこちらへ向き直った。


「大丈夫ですか?」

「動けるくらいには」

「なら早く帰りましょう」


 と、そこで、ヒュノはふと天井を見上げる。

 そして同時に、部屋全体を激しい揺れが襲った。


「ーーーこの迷宮、そろそろ崩落しそうです」


 どうやらこの迷宮は、道連れにしてでも俺たちを殺したいらしい。


 ◇


 背骨の痛みを誤魔化しながら、あの長い廊下をひた走る。

 ここ潜ってからずっと走ってんな。

 背後からは瓦礫が地面に叩きつけられる音が追ってくる。ちなみに真っ先に魔力が尽きた場所から崩落していく為、中枢に近い方が崩れやすく入り口が塞がれる心配はない。


 六階層にも、崩落の影響はあった。

 天井も地面も無いのにどうやって崩れるのか疑問に思っていたのだが、なるほどこれは思ったよりヤバイ。

 一面の青空が、闇に呑まれていく。

 空間そのものが、外側から侵食されるようにどんどん黒く染まっていくのだ。

 先程まであの黒くなった場所には、空間そのものがもう存在しないのだろう。

 ここで崩落が途絶えるなんて楽観視は流石にしてなかったが、これなら天井が崩れてくる方がマシだ。

 あの闇の中に呑み込まれると、肉体を構成する物質そのものが消えてしまうのではないかと思い至り、冷汗が背筋を伝う。


 地上では見る事もないような常軌を逸した光景に言い知れぬ恐怖を感じ、自然と俺たちは全速力で飛んでいた。


 なんとか六階層を抜けて中間地点の廊下に滑り込む。

 振り返ると、そこには壁しか無かった。そしてその壁にも亀裂が入り、再び入り口へと向かって駆け出す。


 五階層はあまり苦労しなかった。

 基本的にあそこは気持ちが悪いだけの場所だ。

 崩れたところから赤黒い液体が吹き出す程度で、障害となる魔物もそんなに強くない。

 後先考えない全力の魔術で魔物を蹴散らしながら、すぐに駆け抜けてしまった。


 その事で多少の余裕が生まれ、安堵していたまさにその時の事。

 五階層と四階層の中間地点で、ヒュノが倒れた。


「どうした!?」


 慌てて駆け寄ると、ヒュノの足から血が滲んでいた。

 浅くない切り傷。一度処置した跡が伺えるそれは、

恐らく先程の戦闘でついたのだろう。

 止血だけしたものが開いてしまったようだ。


「っ……すみません。

 走れそうに……ありません。先に一人でーー」

「乗れ!負ぶって行く!」

「え? あ……」


 全部聞いてる余裕がない。崩落が追いついてきている。

 慌ててヒュノを担ぎ上げ、無理やり背負いこんだ。

 軽い。全然問題なく走れそうだ。


「何か視えたら言ってくれ。

 次の階層は罠を気にしていられない」

「……はい」



 四階層は、溶岩の海だ。

 空中に設置された罠を注視なんてしてられない。

 恐らく俺の予想で四階層はーーー


「うわあ……」

「悪夢ですね」


 ーーー溶岩による津波が起こっていた。


 ◇


 うねりくねり、天井まで届くほどに大口開けてこちらを吞み込まんと迫る溶岩の大波。

 乗る事さえ叶わないこのビッグウェーブは、呑み込まれれば即死だ。

 そんな大波に囲まれながら、しかし俺たちは四階層の中を全速力で突っ切っていた。


「うっお怖ぇええええええ!

 けど当たらねぇえええええスゲェエエエエエエ!!」


 絶☆叫 迷宮リアルライドin四階層うぅ!!

 U◯J顔負けのリアリティがモットーの一人乗り期間限定アトラクションです!

 障壁の前に迫る溶岩の現実(えいぞう)をお楽しみください!

 ※お客様の安全は魔力の続く限り障壁が確保致します。


「……」

「……」

「……馬鹿なのですか?」

「怪我人は黙ってろ」


 呆れるようなツッコミはスルーして、障壁で身を守りながら四階層を翔け抜ける。

 後ろから追ってくる波は全速力の飛行に追いつけず、前方に立ち塞がる波は障壁に弾かれる。


「完璧だ」

「魔力のペース配分を考えなければの話ですがね」


 うるさい考えないようにしてたのに。

 ともあれ、即席にしてはかなりベターな選択を出来たと思う。

 というかこれ以外の方法が思いつかなかった。

 大分崩落も引き離せたし。


 思いの外楽に四階層を乗り越え、早くも三階層。

 どうやらここを通る時は必ずヒュノを負ぶらなければならないようだ。


 ここでも例の如く魔物を蹴散らし進む。


 行きしなで見たカブト虫が何匹か立ちはだかったが、魔力配分さえ無視して仕舞えば簡単に倒せる。

 五百本の『(アルナスル)』の前に、ご自慢の甲殻は紙切れ同然だった。

 ザマァ見ろばぁああかぁああ!


「さっきからテンションがおかしくなってますよ」

「大丈夫だ。まだ全然冷静」


 おかしな会話を挟みながらも思ったより簡単に切り抜けることができた。

 ヒュノが再びアホにならないかが心配だったが、ハンカチを口に当てているよう指示すれば大丈夫だった。



 そして二階層。

 しかしまだ崩落が追いついておらず、行きしなと殆ど変わらなかった。

 四階層と同じく障壁+全速飛行で簡単に切り抜ける。

 残すは一階層だけ。そう思うと少し余裕が生まれた。


 そう。ここで、安心してしまったのだ。


 二階層の回廊を走りながら、魔晶石の使い道とか、神聖術の上達とか、脱出後の事ばかり考えていた。

 一階層も、油断はしないで慎重に行こうとか、そんな油断丸出しの思考をしていた。


 そんな俺の眼前には、崩落の始まった一階層が広がっていた。

次回で脱出し、リザルト報告までやってこの一連の閑話は完結します。

中途半端ですみません。

ネムのお話は更に次に回します。

こんな行き当たりバッタリな拙作ですが今後ともよろしくお願いします。

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