第1話
目を覚ますと見知らぬ天井と丸い提灯型の照明が目に入った。
「……ここは?」
「柳楽ホテルの一室やけど」
酷く掠れた声で呟かれた青髪の少女の問いに答えたのは、右側の空きベッドの向こう、開けっ放しのベランダから室内に入ってきたのは小柄な女の子だった。
「ちなみに自分は望月優輝。このホテルの一階にあるカジノバーで働とる。よう間違われるけどこんでもれっきとした成人やからそこんとこよろしく」
ベランダの戸を閉めてからこちらに近づいてくる優輝に青髪の少女は戸惑いながらも身体を起こす。
優輝は若いと言うより、女子小学生並みの幼い顔つきと背丈の割にワインレッドのYシャツに片端にスリットが入った黒いミニタイトスカートに同じくワインレッドのニーハイソックスと黒パンプスと言うシックな恰好をしていた。
「やから煙草吸っても驚いたり止めようとしたりせんといてな。ちゅうより今すぐ吸わせてもらうわ。絶対安静やから煙草吸うなってどやされとったからもうええ加減限界やねん」
運転免許証を見せながら了承を得ようとする優輝の口には既に煙草が咥えられていた。
見せられた運転免許証から、優輝の歳は二十五で自分より年上であることが判った。
「あ、はい」
笑顔で、さっさと吸わせろ、と無言で訴えてくる優輝に気圧されながら青髪の少女は首を縦に振る。
よし、と背を向けた優輝は青髪の少女がいるベッドから離れ、もう一度、戸を 開けてベランダに出てから口に咥えていた煙草にライターの火をつけた。
ぷはあ、と美味しそうに煙草を吸う見た目女子小学生の優輝を、不釣合いな光景だな、と思いながら青髪の少女はぼんやりと眺めていた。
「……アオでええ?」
「え?」
こちらに背を向けたまま唐突に話しかけられた青髪の少女は少し驚きながらも、何のことだろう、と思って優輝に訊き返す。
「あんたの呼び名。名前ないと呼び時不便やろ?」
振り返ってこちらを指差しながらそう言った優輝に青髪の少女――アオ――は、そういうことか、と納得する。
「え、えっと……はい」
ふーん、と頷きながら優輝はベランダの手すりに凭れる。
ベランダの向こうは夜でもイルミネーションがふんだんに飾られた遊園地の光が、ここからでも見えた。
「あんたが一週間ぐらい昏睡状態の間にあらかたの治療はしたで。知り合いが。あとはそうやな……体力がだいぶ消耗しとるから暫くは動けんとも言っとったな」
吸い終わった煙草を携帯灰皿に捨てて優輝は部屋の中に入って戸を閉める。
それから二つのベッドの間にある未開封のスポーツドリンクを手に取り、それをアオに差し出す。
「やきん、学業云々はさておき取りあえず寝とき。ちゅうかベッドから動くな。出るな」
優輝の言葉にアオは、はい、と何処かほっとしたような表情で頷きながら差し出されたスポーツドリンクを受け取った。
【続く】




