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太陽の国  作者: ラジオ
第二章 魔法学校編
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~ヴァイスと忌まわしき者~

 忌まわしき訪問者が再び大いなる森を訪れた時、ヴァイスにとってその訪問者はまだ『忌まわしき者』だった。サラムから告げられたことは時を経るに従って信じるに信じられなくなり、ただ戸惑いが増す一方だった。そして森の前でソーサラーの姿を目撃した時、ヴァイスはやはり憎悪の感情を抱かずにはいられなかった。

 自分より若い小隊を率いて砂漠に狩りに出ていくところだった。例のローブを目深にかぶったソーサラーは砂煙の中に身を潜めるようにヴァイスたちの前に立っていた。

 ヴァイスは手にもっていた巨大な弓に矢をつがえた。

「去れ! さもなくば射貫く!」

 ヴァイスが叫ぶと、褐色の巨体をもつ小隊の一族全員が息を合わせて同じように武器を構え、猛烈な威嚇態勢を取った。

「君たちの、新たなる族長に用がある」

 ソーサラーはまどろむような奇妙な声を響かせた。

 ――ここは森の外。ここなら森の精は見ていない。

 内なる邪心が花を咲かせ、ヴァイスは感情のままに憎き魔法使いへ矢を放った。しかしヴァイスの目に移るソーサラーの姿は幻影なのか、矢は相手をすり抜けて砂漠の中を突っ切った。

「もう一度言う。君たちの新たなる族長に用がある」

 ヴァイスは歯をくいしばった。

「……ラム。族長に訪問者がおいでだと伝えてこい。狩りはいったん中止だ」

 ヴァイスが悔しさをにじませながら指示を出すと、まだ二メートルにいくぶん達しておらず大人になりきっていない女が、跳躍するような駆け足で森の中へと引き返していった。

 ヴァイスがサラムのいる広場までソーサラーを案内すると、そこには大勢の狩りに出られない一族の者たちが集まっていた。みな、それぞれに腕が肩甲骨から生えていたり手の平から指が生えていなかったりして戦う力をもたず、身体の一部が奇形化してしまっている者たちだった。

 ソーサラーは前回同様、族長のサラムと一対一で話がしたいと申し出てきた。

 サラムは一度険しい顔をした後、仕方がないというように溜息をついた。

「お前たちはここに残っていろ! ソーサラー、ついてこい」

 サラムはソーサラーと共に森の別の場所へと移動した。

 ――どうしてあいつは護衛の一人でもつけてもっと用心しないんだ。

 ヴァイスは自分が護衛としてついてくるよう言われなかったことに苛立たち、その場に座り込んだ。この前聞かされた一族の秘密のことに関しては今しばらく保留にし、サラムとは平常通りに接するよう努めていたのだが、どうしても彼への態度が極端になってしまいがちだった。

 再び二人が広場に現れた時には、狩りに出ていた他の一族の者たちも帰還し、ソーサラーの再来をすでに教えられていた。ローブを目深にかぶったソーサラーは、自分に多大なる殺意を抱く一族の者の誰にも目を合わさず、そのまま森を出ていった。

 ソーサラーが姿を消した途端、一族の者たちが一斉にサラムに詰め寄った。

「今度は何の用だったんだ?」

 ヴァイスが代表して問い詰めるように訊いた。

「あのソーサラーと手を組むよう言われた。もちろん断ったがな」

「何のために俺たちと手を組むんだ?」

 別の者が尋ねた。

「王国を滅ぼすそうだ」

 サラムの淡々とした言葉に、詰め寄って人垣を作っていた彼らは再びざわめき出した。

 森の人間の調理班による食事をおいしくいただいた後、広場のひと気が完全に途絶えてからいつものようにヴァイスはサラムに話しかけた。

「……で、本当のところは何て言われたんだ?」

 サラムはすぐに先刻来訪したソーサラーのことだと理解し、顔をしかめた。

「手を組めと言われたのは事実だ」

「それで?」

 ヴァイスが促す。

「手を組まなければ、王国に俺たちがこの森に隠れていることを密告するそうだ」

 ヴァイスは鼻で笑い飛ばした。

「ばかな。やつだってお尋ね者の身の上だろう」

「可能か不可能かで言えば、おそらく可能だろう。やつは魔法使いだからな。だが、そうしたところでやつに利があるとも思えん。おそらくお前の言う通りハッタリだろう。むしろ俺たちと手を組もうとする動機の方が怪しい。お前は本当にあのソーサラーが王国を滅ぼそうと考えていると思うか?」

「さあな。だが、たかがソーサラー一人で滅ぼせるような国なら、俺たちもここまで長い年月逃避行を続けてはいないだろう。俺たちの力を借りられたとしてもまだ無理があるだろうな。一族の戦力は反乱で削られているわけだし」

「やつが……世界中のソーサラーを率いていたとしても、か?」

 二人を黄色く照らす焚火の火が「バチッ」と爆ぜ、大きな火の粉が飛んだ。

「それは……本当なのか?」

「ああ。少なくとも、やつはそう言った」

「……そうか。そこまでのやつだったなら、族長たちが起こした反乱もあいつの手の内だったのかもしれないな」

「確か、偵察隊から王国が攻め入ってくるという情報を得たんだったな」

 サラムが意味ありげな視線を投げかけてきた。

 ヴァイスは話の流れからすぐに察することができた。

「偵察隊が操られていたのか?」

「可能性はある」

 サラムは「あーあ」と投げやりになったような声を発した。

「わからん。あのソーサラーが本当に王国を滅ぼす気なのかも、俺たちは何をすればいいのかも」

「あいつはまた来るのか?」

 ヴァイスは何ともなく言った。

「そりゃあ来るだろう。本当は断ってなんかいないしな」

「は!?」

 ヴァイスはサラムの寝耳に水の発言に声を裏返した。

「別に協力するとも言ってない。一族全員で判断するからしばらく待つよう言っておいた。王国に本当に密告されても困るしな」

 今度はヴァイスが「あーあ」と呟いて疲れ切ったように草地に寝転んだ。

「俺たちの未来はいったいどこに向かうんだろうな。まるで見当もつかない。せめて一族やこの森は存続していてほしいなあ」

 青空は人の手の届かないはるか高みから、おごり高ぶってヴァイスを見下ろし、彼の言葉に何か嘲笑でもしているように感じられた。


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