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太陽の国  作者: ラジオ
第二章 魔法学校編
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~リーンの戒め~

 午前の二時限を終え、食堂で食事を取ったリーンの午後に行われる授業は占星術、幻術、封印術の三つの授業だった。

 食堂でホーキンスから聞いた話によると、同じ授業に出席する生徒は、その科目の授業をみな同じくらいの頻度で取っているように学校側で工夫されているため、どうやら多く取っている科目の授業では実力確認が行われ、週一、週二の科目では行われないらしかった。リーンが午前に受けた光魔法の授業は、リーンは週二で取っていたために実力確認は行われず、週四と定められている自然魔法では行われた。

 ホーキンスの話の通りなら、リーンが週三で取っている封印術は微妙なところだが、毎日取っている幻術や週四で取っている占星術では実力確認が行われる可能性は高かった。気持ちを改めて実力確認に臨むことができるのと、午前の自然魔法の授業のように抜き打ちで行われて動揺したまま臨むのとでは、精神面での心もちがだいぶ異なる。魔法を教官に披露する時も、焦りや不安で集中力が乱れてはできることもできなくなるかもしれない。

 リーンは闇魔法の実力確認では、一回目で教官から試験を受ける許可をもらうつもりでいた。下位資格を取得できれば、魔法図書館で閲覧できる魔道書はいや増しするだろう。リーンは今すぐにでもさらなる魔法の知識を得たいとうずうずしていた。自分の内に潜む魔法がそれを望んでいるようにすら思えた。〈知識を我に与えれば我の力を貸そう〉と。

 午後の授業の実力確認の対策でも立てようかと、リーンは食堂から自室へと向かった。ウラシルが黙々と魔法の練習をしているところだった。どうやら口で唱えなくとも魔法を使える域にまで達しているらしい。

「どうしたの、リーン?」

 ウラシルが練習を中断した。

「いや、ちょっと実力確認の対策でも立てようかと……」

 リーンが正直に答えると、ウラシルが怪訝な目をリーンに向けた。

「いつからリーンはそんな小者に成り下がったの?」

 ウラシルの口から出たとは思えない言葉だった。

「どういう意味だ?」

「いや、何かリーンらしくないっていうか……別に卑劣とまでは言わないけどさ、僕が知っているリーンなら実力確認の対策なんて小賢しいまねはしないだろうなって思ったんだよ。抜き打ちで行われることには学校側にそれなりの理由があるんだろうし、リーンもそれはわかってるでしょ? それに何より、今のリーンには今までのような余裕さがまったく感じられない。どうかしちゃったの? 僕の知ってるリーンなら、自分が実力確認で教官から認められることくらい重々承知しているはずだよ。対策なんて立てないで平常通り魔法の向上に努めると思ってた。何に焦ってるの?」

 ウラシルの言葉はリーンの胸を容赦なく刺し貫いていった。

「俺は……ただ……」

 再びウラシルが険しい視線をリーンに向けた。

「やっぱり……いつものリーンならこんなことで動揺なんかしない。何か心当たりでもあるの?」

 リーンはウラシルの言っている言葉の意味がわからなかった。

 ――俺が焦っている? 何に? いつもの俺じゃない? あいつは何を言っているんだ?

「知ってた?」

 ウラシルは続けざまに口を開きながら、リーンの書き物机へと移動する。

「この国で採掘できるアメジストって、純粋なものほど精神を安定させる効果があるんだよ」

 そう言って、ウラシルはリーンがアリサからもらったアメジストの指輪をリーンに投げつけた。

 リーンが指輪を受け取ってアメジストに触れた瞬間、記憶の中で、今までおかしくなっていた自分の姿がまるで別人のように瞼の裏側に映った。

「リーン。もう戻った? 一体どうしちゃったのさ?」

「俺は……知識を欲していた」

 リーンは達観したように話し出した。

「ウラシルやモールスに資格試験を受ける許可が下りて、きっと資格を取得するんだと思うと、俺も今よりもっと知識を吸収して魔法の力を高めないと、って感じたんだ。たぶん、俺は他の生徒に魔法で先を越されることをこの上なく恐れていた」

 リーンはたびたび聞こえる謎の声のことを思い出した。

「ウラシル。お前は〈魔法の声〉を聞いたことがあるか?」

「魔法の声? 魔法に意思なんかあるの?」

 ――そうか。

 リーンは調子に乗ったように急に何もかもわかったような気になった。

 魔法に意思などない。魔法に呑まれるというのは、自分自身の力から生まれる魔法への欲望に自分自身が呑み込まれることを意味していたのだ。自分の心で囁かれた声は、自分の魔法への執着心が生んだ自分自身の声なのだろう。ウラシルは小さい頃に両親を失くしてからは自分一人の力で生きている。ウラシルの心には魔法に呑まれる隙などなかったのだ。

 そうリーンは考え、最終的には自分の精神が未熟だったのだと結論付けた。

「力のある魔法使いがさらなる魔法の力を得るには、それ相応の精神を身につけてからでなくてはならない」教官がいつか生徒に教えたこの教訓が正しければ、カイルの手記を読破して魔法をイメージすることに関しては、それがどんな複雑で具体性に乏しいイメージであっても苦難を介さないという他の生徒より確固たる力をもったリーンは、力をもつ弱者としての過ちを犯す――すなわちソーサラーへの道を一歩歩んでしまうところだったと言えた。

 リーンは同じ過ちを二度と繰り返さないという戒めの意味も込めて、アメジストの指輪を指にはめて過ごすことに決めた。ローブの袖は長いからたいして目立つこともない。

 魔法を使用した時に時折返ってきた返事のことは、すっかりリーンの記憶からは消えていた。午後の占星術と幻術の実力確認では、無事資格試験を受ける許可が下りた。その後、呪文を口で唱えても頭の中で唱えられるようになっても、魔法の声が返事をしてくることはなかった。


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