‐‐リーン(17)‐‐
どこの街も、似たり寄ったりの祝祭によるてんやわんやの騒ぎは免れ得ないようだった。街からもう少し出外れなければ、ゆったりと広がる清閑な農牧地などが見えてくることもない。騒がしい人の群れに鬱陶しさを感じ、静物に焦点を変えてみると、このあたりは、リーンの家がある街とは、家の並び方やデザイン、それに植え込まれている街路樹も多少異なるようだった。
リーンが変わりゆく街の景色をちょっとした気晴らし程度に眺めていると、珍しいことにアリサの方から話しかけてきた。
「ねえ、リーン。一〇四番地区では、今何が行われてるの?」
馬車の中に適度に響く声量。まるでアリサの声は、アリサの精神状態を現しているようだった。きっと今は、リーンと同様、移りゆく景色を観賞して心が落ち着いているのだろう。
「そうだな……俺もあまり行ったことがないんだけど、お店の並ぶ通りが多かったはずだから、きっと祝祭記念セールとかやってるんじゃないか?」
アリサは続けざまに質問した。
「じゃあ、どんなお店があるの?」
リーンは「うーん」と小さく唸った。
「母さんが頼んできたから、まずパン屋はあるんだろうな。あと、店と言ったら、衣料品店、料理店……あと……」
――宿よりも豪華で立派だっていうホテルは、きっと王宮周辺の高級住宅地にしかないだろうし……だめだ、全然思い浮かばない。
「まあ、いろいろあるんじゃないか?」
最後はさりげなくお茶を濁したが、思い起こそうとしたら、意外と出てこないものだった。
アリサは「ふーん」と言い、そのまま窓外へ視線を移した。はたから見ても、外の景色を見やるアリサの目は恍惚としているのがわかる。一〇四番地区に期待の思いをはせているのだろう。
リーンの記憶が正しければ、何年も前に、一〇四番地区へはテラと共に来たことがあるはずだった。しかし、この数か月というもの、リーンの頭の中は、魔法学校進学のことや儀式のことばかりが占めていた。おそらくそれで、ろくに他地区へ繰り出すこともしていなかったため、一〇四番地区のことなど忘却の彼方にあったのだろう。それによく覚えていたとしても、最近の文明の発達具合が以前と比べて抜きん出ているのは確たるものだから、リーンが来た頃と街の様相が変化していても不思議はない。むしろその方が自然だろう。




